プーチン氏、電話会談後の反応は
キーウ(CNN) 「紛争の根本的な原因」
これは平和への道を歩んでいるとされる人物からの驚くべき言葉だった。
しかし、数え方によっては2週間あるいは3カ月におよぶ、即時の無条件での30日間の停戦を求める圧力が高まった今、ロシアのプーチン大統領が平和のために何を解決しなければならないかについての核心だ。ソチ沿岸の音楽学校で、この極めて重要な電話を受けたプーチン氏は動じることなく、北大西洋条約機構(NATO)の急速な拡大によって引き起こされたとするこの戦争の選択についての誤った物語に立ち戻った。
その数時間前には別の五つの単語が登場しており、プーチン氏がトランプ米大統領と2時間にわたって電話会談を行う間、その単語が耳にこだましていた可能性がある。
バンス米副大統領はそれより前、「これは我々の戦争ではない(It is not our war)」と述べていた。欧州の安全保障にとって非常に悪い知らせを告げる役割を再び演じたバンス氏は再びこの驚くべき非脅威の姿勢を示した。ロシアが断固として望んでいない和平合意に向けて行動を起こさない限り、米国は恐らく、外交とウクライナへの支援の両面で、戦争から撤退するかもしれないというものだ。米政権が撤退することこそ、ロシアが切望していることであり、この夢のような結果を得るには、プーチン氏は残忍な戦争を続けること以外、何もする必要はないようだ。
電話会談の直後、トランプ氏はすでに紛争から身を引くような口調だった。トランプ氏は5日前までは、プーチン氏とウクライナのゼレンスキー大統領の対立を解消してトルコでの会談を実現しようと、熱烈な仲介者、紛争の調停者として奔走していた。しかし、トランプ氏は19日のプーチン氏との電話会談後、ウクライナとロシアが「両国にしかできない方法で」直接対話をしなければならないとだけ言及した。さらに、米国出身の新ローマ教皇の所在地であるバチカンを交渉の場の候補地として挙げた。米国は交渉から完全に離脱したわけではないかもしれないが、まるで他の誰かが主導権を握ることを望んでいるかのような口ぶりだ。
この10日間で、プーチン氏がいかに米大統領やその承認を必要としていないか、まざまざと思い知らされた。その理屈は簡単だ。3年間にわたる戦争の大部分の間、ロシアの国営メディアは、ウクライナだけでなく、米国を含むNATO全体と対立していると視聴者に知らしめて来た。トランプ氏の大統領就任により、ロシアが交渉によって有利な立場にたどり着く、あるいは西側諸国による制裁の痛みを軽減できる小さな機会が生じた。しかし、ロシアの中心的な計算やメッセージは変わらない。これは近隣諸国におけるロシアの優位性を再び確立するための存亡を賭けた戦争だというものだ。膨大な数の戦死者によってロシア国民に多くの苦痛と損失がもたらされたため、中途半端な、あるいは不十分な結果は、ロシアの指導者の寿命を著しく縮めるかもしれない。これは、ロシアの指導層が負けたとみなせる戦争ではない。
現在、米国がロシアに提供できるものの限界は、影響力という観点で宇宙から見ても明らかだ。確かに、米国は、トランプ氏が先週検討したようにロシアへの資金提供国であり原油の購入国であるインドと中国に対する「二次制裁」を加えて、制裁を激化させる可能性もある。しかし、そうなれば、米政府がこれまでうまくやってきた世界大国との貿易上の亀裂がまた生じることになるだろう。米国には、ロシアに譲歩を迫るために制裁を緩和するという選択肢もある。しかし、そうした甘い対応は欧州の同盟国をいら立たせ、欧州からの実際的な支援がなければとん挫する可能性が高い。
ロシア政府に痛みを与えるような追加措置は、トランプ氏がバイデン前大統領よりもロシアを罰するためにさらに踏み込んだことを意味する可能性が高い。それは、「MAGA(米国を再び偉大に)」運動の地政学的戦略ではない。それは、率直にいって、どちらかが弱体化するか、政治的指導層に劇的な変化が起こるまで、終わりが見えない戦争への米国の関与を深めることになる。
2025年のウクライナ情勢の見通しは暗い。しかし、欧州の政策の中心理念は、恐ろしい選択肢があふれる世界にいて、最良の選択だった。ロシア政府が目標を縮小せざるを得なくなるのは目の前にNATOの無限の結束を見た場合だけだ。経済や備蓄、人員、あるいは装備のいずれかが衰えるかもしれない。戦争マシンが停止するには、たった一つで十分だ。厳しい状況だが、欧州には選択肢がほとんど残されていない。ウクライナには選択肢がまったくない。
トランプ氏は自身には選択肢があると感じた。トランプ氏のビジネス感覚では、仲良くしたい敵との紛争に長期間の投資をすることに利点はなく、その最善の結果は、欧州を以前のような平和に戻すことだと考えている。ここには取引がない。プーチン氏は何かを買おうとはしていない。征服して奪い取ろうとしている。トランプ氏には、伝統的な同盟国に対する米国の支援以外に売り物がない。プーチン氏とトランプ氏がともに勝利し、地位を維持することは不可能だ。
米国のリーダーシップは何十年もの間、良い小さな取引以外のものを中心に築かれてきた。同盟国に対する慈悲深さ、広大なソフトパワー、そして、軍事的覇権によって、地球上で最大の経済大国となり、無敵の通貨を保有するようになった。
しかし、トランプ氏は米国の役割は、より小さいと考えている。これは、トランプ氏がようやく、プーチン氏が自身の承認や忠誠心を求めていない人物であることを理解して、一歩引いた瞬間なのかもしれない。もしそうだとすれば、米国も数十年にわたる主導的な立場から一歩後退し、その焦点と力の限界を認め、1940年代以降で最も重要な和平交渉を、バチカンでの一か八かの賭けに委ねたことになる。
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本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。