ANALYSIS

【分析】トランプ氏最大の勝利、貿易協定ではなく歪んだ現実を受け入れさせること

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トランプ米大統領が課した関税は金融市場を追い込み、期待基準値を作り出した/Jim Watson/AFP/Getty Images

トランプ米大統領が課した関税は金融市場を追い込み、期待基準値を作り出した/Jim Watson/AFP/Getty Images

ニューヨーク(CNN) 2025年の貿易戦争の行方を追うのは、まるで腹を何度も殴られているような気分だ。

人為的に作り出された危機に突如として90日間のデタント(緊張緩和)が訪れた。米国は中国からの大半の輸入品に対する145%の関税を30%に引き下げ、中国も125%の関税を10%に引き下げたのだ。

「トランプ2.0」のゆがんだ現実の中では、このやや軽い腹へのパンチが安堵(あんど)をもたらす。

12日の対中関連の報道を受け、市場は急騰。4月2日の関税発表後に積み上がった損失をすべて取り戻した。

しかし、はっきりさせておこう。ウォール街が歓喜しているのは、30%の関税が素晴らしいニュースだからではない。トランプ米大統領が、結局のところ自らの過激な経済政策を実行する気がないように見えることを歓迎しているのだ。

こうした状況でなければ、市場は米国第3位の貿易相手国に対する30%の関税、さらに10%の一律関税と25%の特定分野への関税にパニックを起こしていただろう。しかし、関税をめぐる数週間の混乱を経て、トランプ氏はすでに金融市場を追い込み、経済的な痛みに対する期待の基準値を作り出した。

投資家が12日にシャンパンを開けていたとすれば、それは危機を脱したと考えているからではなく、景気後退の可能性が「ありそう」から「コイン投げ」に近い状況に改善したからだ。

イエール大学予算研究所の分析によると、今回のデタント後でも、継続する関税の影響で消費者物価は約2%上昇し、一世帯あたりの年間負担増は2800ドル(約41万円)に上る。年末までに失業率はさらに0.4ポイント上昇し、45万6000人の雇用が失われることが見込まれるという。

ネーションワイド相互保険会社のチーフエコノミスト、キャシー・ボストジャンシック氏は12日の報告書で、米国の経済成長は依然として減速が予想されると述べた。同氏はさらに、「経済活動への抑制効果はすでに現れており、政府効率化省(DOGE)関連の政府機関縮小策も年内に雇用と経済活動を圧迫するだろう」としている。

トランプ政権による対中関税引き下げが予想以上に大幅だったことは、トランプ氏の目標と優先事項が刻々と変化していることに対する企業側の強い不満を浮き彫りにしている。

経済学者のジャスティン・ウォルファーズ氏は12日、「今後90日間、平穏な日々が続く見込みはどれほどあるだろうか」と語った。「今日は良いニュースがあったが、本当に良いニュースは、誰かが彼から権限を奪い取ってくれることだ」

当然ながらホワイトハウスは週末の中国との交渉の進展をトランプ氏のさらなる勝利だと喧伝(けんでん)した。先週には英国と「画期的な貿易協定」が交わされた。

確かに30%の税率は145%よりは管理しやすい。この115ポイントの引き下げは、サプライチェーン(供給網)の完全な崩壊を、2大経済大国間貿易の単なる減速にとどめる可能性がある。

しかし、中国との合意は、トランプ氏支持者のレンズを通せば「勝利」に映る。トランプ氏は家に火を放っておきながら、バケツ1杯の水をかけただけだった。おそらくこれは始まりに過ぎない。被害の一部は取り返しがつかないにもかかわらず、同氏はまだマッチで遊んでいる。

本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。

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