ウクライナ大統領、プーチン氏との会談の「用意」
キーウ(CNN) ウクライナ情勢をめぐる大西洋を横断した欧米の団結という幻想が維持されたのは約30時間だった。
欧州とウクライナは、トランプ米政権が2カ月前に提案した30日間の無条件での停戦合意を要求していた。欧州首脳は、トランプ大統領が10日の電話会談でこうした提案について支持を表明し、ロシアが12日までに合意に達しなければ制裁を示唆したと明らかにした。電話会談の様子はウクライナ首都キーウからSNSに投稿された。
米国のケロッグ特使(ウクライナ担当)もロシアに対して停戦要求の順守を求める同盟国との合唱に加わった。
だが、ロシアのプーチン大統領は、この要求に言及することすら拒否して、むしろ古いものを新しいものとして提示した。4日後のトルコ・イスタンブールでのロシアとウクライナの直接交渉だ。そして、欧米の結束は崩壊した。トランプ氏はロシアの提案に飛びつき、自身のSNSトゥルース・ソーシャルで、プーチン氏が停戦を望んでいないと述べただけで、その代わり、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して「今すぐに会談をしろ!!!」と圧力をかけた。
振り子は再び逆側に振れた。米国の長年の同盟国が結束を誇示するなか、トランプ氏は明らかに沈黙を守っていた。プーチン氏が発言すると、トランプ氏は再び歩調を合わせた。
ゼレンスキー氏に残された唯一の選択肢は個人的な関与と勇気を示し、自国に対する戦争犯罪で訴追されているプーチン氏と直接会談する機会を設けることだった。これは、ゼレンスキー氏にとって国内的には厳しい決断となる。
ロシア政府と米政府が舞台裏で世界平和に近づける何かを模索している可能性を排除しないことが重要だ。しかし、トランプ氏が口を開くと、欧州の首脳は沈黙したようにみえた。だが、ウクライナの空は静まることはなかった。
停戦要求が行われた日の夜、ロシアは108機のドローン(無人機)を発射。ヘルソン州での攻撃では10歳の少女ががれきの下敷きとなった。
キーウで10日に出された停戦の要求の重要性は、1カ月間にわたる戦闘の終結がすぐに実現する可能性があるということではない。欧州の首脳は自身の提案がロシアの承認を得られるのか極めて懐疑的だったようだ。冷笑家は、今回の宣言はむしろ、プーチン氏がトランプ政権が求める和平、あるいは具体的な停戦案に興味を持っていないことをホワイトハウスに証明するためのものだったと主張するかもしれない。
だが、欧州の4大軍事大国がウクライナ首都への複雑で長期にわたる訪問で得た「暴露」はこれだけではなかった。トランプ氏は、自身の本当の立場に対する欧州首脳の認識も改善した。
プーチン氏は今や、三重に勇気づけられている。まず、欧州とウクライナの要求を完全に無視して、直接言及することさえしなかった。第二に停戦が成立しない場合には、トランプ氏が支持すると欧州首脳が示唆していたロシアに対する「大規模制裁」やウクライナへの軍事支援の強化は、いまのところ、プーチン氏には課されていない。
第三に、イスタンブールでの直接会談の提案は15日という日付を除けば特に目新しいものではないが、突如としてトランプ氏にとっての立場の基盤となった。トランプ氏は、協議で成果が出なかった場合、何らかの結果を招く可能性を示唆した。しかし、ロシアが和平への関心を失っていることと、ウクライナの支援国がロシアに対する措置を強化していることの間に新たな一歩が加わった。
過去数カ月にわたる混乱のなかで唯一継続しているテーマは、トランプ氏がロシアとの関係を損なうような行動をとることをちゅうちょしているということだ。欧州首脳のキーウ訪問とトランプ氏のSNSへの投稿の間に、トランプ氏とプーチン氏が会談したのかどうかはわからない。しかし、おそらく知る必要はないだろう。いずれにせよ、欧州の同盟国が求める結束と、プーチン氏との関係をより良いものに維持する方途の岐路に立たされたトランプ氏は後者を選んだのだ。
制裁の脅威は、それが大規模であろうとなかろうと、常に複雑な問題だった。ロシアはすでに厳しい制裁を受けており、西側諸国に大きな打撃を与えることなく、実際に効果のある措置を講じる余地は限られている。鍵となるのは、欧州が米国の支援なしに、ロシアに痛みを与えようとするかどうかだ。欧米間での不一致が露呈することになるが、ウクライナでの威嚇がうわべだけのものとなるよりはましな選択肢かもしれない。
イスタンブールでの会談は、もし実現すれば、それ自体が極めて危険な一歩となる。プーチン氏とゼレンスキー氏は明らかに互いを軽蔑し合っている。プーチン氏はゼレンスキー氏について、親欧州派の裏切り者であり、旧ソ連時代の官僚がいまだに受け入れていない帝国の衰退が生み出した成功の象徴とみなしている。ゼレンスキー氏はプーチン氏について、理由もないのに無慈悲に祖国を侵略し、毎晩子どもたちを容赦なく爆撃する男だとみている。両者が和解して前進する道を見つけるよりも、共通点を見いだせない可能性の方が高い。
ホワイトハウスが、提案された日程にルビオ国務長官をトルコに派遣し、トランプ氏が中東で外遊を行うなか、交渉を円滑に進めようと試みる可能性は否定できない。しかし、プーチン氏は直接の会談を提案したにもかかわらず、まだ出席にすら同意しておらず、仮に受け入れたとしても一種の壮大な和平へのそぶりのようにみえる。米国が過度に介入すれば、ほぼ全ての国々との関係に悪影響を及ぼす可能性がある。
ここ数日の出来事から導き出される最も簡単な結論は、プーチン氏が時間を稼ごうとしていることをトランプ氏が見抜いていないということだ。ロシア軍はウクライナ東部ポクロウスクに猛攻を仕掛けている前線で、兵力を縮小するどころか、増強しているように見える。週末の期限が過ぎ去り、つかの間の結束が異常事態であったこと、そして、ホワイトハウスがプーチン氏を怒らせたくないことが露呈した。
イスタンブールで開催される可能性のある会談は数日後だ。しかし、会談が直ちに和平をもたらすことはなく、もしかしたら停戦にも至らないかもしれない。それは単なる外交上の見せかけの儀式であり、ソ連崩壊後の世界で全く異なる世代に属する2人の人物の間に深刻で個人的な敵意を植え付けることになるだけだろう。和平プロセスはむしろ後退し、トランプ氏が、停戦を拒否したロシアに痛みを与えるという欧州の同盟諸国の行動に加わるかどうかの決断の時期を再び遅らせる可能性もある。
トランプ氏の延期された重要な決断に対する答えはすでに明らかだ。しかし、欧州とウクライナが自力でどう立ち向かうのかは、いまだ明らかではない。
◇
本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。