乱射事件に揺れる米国、銃の購入が増加
米ニューヨーク州ロングアイランド(CNN) 同じ職場で働く2人のビジネスパーソンが、仕事着のまま、混雑する午後のサウスショア射撃場にやってきた。
郊外の町アイスリップにある射撃場の外の駐車場にも、くぐもった銃声が立て続けに聞こえてくる。閑静な通りは大きなカシの木に囲まれ、辺りにはプール付きの住宅が点在する。
友人同士のジェンさんとシェルビーさん(本人たちの希望で姓は伏せる)は隣り合った屋内の射撃レーンに陣取った。防音イヤーマフと保護用のゴーグルを装着し、レバー式ライフルと拳銃を構えて、人型に見立てた標的に狙いを定める。
「今日が初めてではない。つい先日始めたところで、銃の購入を検討している」と言うジェンさん。すでに銃所持許可証を所得しているが、初めて購入する拳銃をどれにするかはまだ決めかねている。
「射撃場で少し練習しておこうと思う。銃愛好家というほどではないが学びたい」(ジェンさん)
ジェンさんとシェルビーさんの他にも、ますます多くの米国人、とくに女性や有色人種の人々が全米で銃を購入している。その多くは今まで銃を所有したことのない人々だ。
銃乱射事件が恐ろしいほど頻発する中、銃への関心も高まっている。米疾病対策センター(CDC)の最新データによれば銃器による死者は4万8830人で、交通事故の死者数4万5404人を上回った。
全米犯罪歴即時照会システム(NICS)によると、銃の購入前に義務付けられる犯罪歴照会件数は州と連邦を合わせて、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の間に3000万件未満から4000万件近くまで急増したという。照会件数は実際の購入者や銃所持許可証の発行件数のおおまかな指標になる。
ロングアイランドのサフォーク郡に住むシェルビーさんは銃購入の理由について「予測不能な出来事に対する恐怖やパンデミックの混乱が動機だった」と語った。
「自分の住む地域で心地良くない思いをしたわけでない。世間がどんどんおかしくなっていくばかりだったので、次は何が起きるのだろうと落ち着かなかった」(シェルビーさん)
「変化する銃所持者の種類」
パンデミック中の先行きの不透明感や2020年のミネアポリス警察によるジョージ・フロイドさん殺害事件後に起きた全米の抗議運動が米国内で銃への関心を高める要因になった。
無党派調査機関であるシカゴ大学全米世論調査センター(NORC)によると、20年3月から22年3月にかけて米国では5世帯のうち1世帯が銃を購入した。また20人中1人が、同期間に初めて銃を購入した。
「混乱が収まったとは思えない。大勢が銃を所持しているので、持っていてもいいと思う」と言うシェルビーさんの言葉は、不安定な国内情勢に対する多くの米国人の不安を代弁している。「私は女性の一人暮らし。自分の身を守るのは当然だ」
ノースイースタン大学で保健科学と疫学を教えるマット・ミラー博士によると、実際のところ女性やアフリカ系米国人の銃所持率はパンデミック以前から増加傾向にあったという。ミラー博士はハーバード大学のデボラ・アズラエル研究員と共同研究を行った。
ミラー博士は銃所持者の人口動態の変化について「16年から19年までの期間中に、以前よりも新規銃所持件数に占める女性や黒人の割合が増えた。収拾がつかなくなり、国が分断されているという感情を反映したものかと推測したくなる」と語った。
ノースイースタン大とハーバード大の研究によれば、19年1月から21年4月にかけて米国成人の約3%にあたる750万人が新規で銃を購入した。そのうち半数近くが女性で、20%が黒人、20%がヒスパニック系だった。銃所持者全体では、63%が男性、73%が白人だった。
「銃所持者の種類が多少変わってきている。今日、新規銃購入者の中で男性が占める割合は以前より少なく、非白人の割合が増えた。年齢層も、従来の銃所持者や長期間にわたる銃所持者より若くなっている」(ミラー博士)
米国の銃ブームは気がかりだとミラー博士は言う。博士の研究でも、銃所持件数に比例して自殺や殺人、不慮のけがで命を落とす危険が相当増加する指摘されている。
「銃の購入を決める際、こうした点も考慮してもらえるとうれしい」(ミラー博士)
売れ筋は拳銃と散弾銃
サウスショア射撃場の他、メリックでもサウスショア・スポーツマン銃器店を経営するマイク・マリネロさんによると、客の40%はニューヨーク市から来ている。
銃所持が厳しく規制されているニューヨークのような州でも、マリネロさんが経営する2軒の銃器店と射撃場は活況だ。拳銃と散弾銃がかなりのペースで売れているという。
「来店客の大半は、自衛目的で初めて銃を購入しようとする人たちだ。問い合わせを受けることも多い。質問されるのは申請手続きについて、銃購入までの流れについてだ」と言うマリネロさんは元警察官で、ブロンクス地区の公共住宅の治安維持などを担当していた。
「現在は客の多くが女性だ。女性の射撃グループの後援もしている。今のところは、銃購入者の間に共和党、民主党、無所属といった明確な線引きはない」(マリネロさん)