ローマ中心部に広大な地下空間 知られざるトンネル網、来年末にも観光客に公開へ

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ローマの地下トンネル網に足を踏み入れる

ローマ(CNN) イタリアの首都ローマ中心部にある「カピトリーノの丘」の地下には、かつて空洞とトンネルが張めぐらされていた。知られざる広大な地下空間を、新たな観光スポットとして整備するプロジェクトが進行している。

CNNは今月、プロジェクトの管理を担当する考古学者エルシリア・ダンブロジオ氏の案内で、「カピトリーノ洞窟」と呼ばれる地下空間を独占取材した。

洞窟は丘から見下ろす古代ローマの広場「フォロ・ロマーノ」と野外劇場「マルケルス劇場」の下に位置し、広さは約3900平方メートル。アメリカンフットボールのフィールドの約4分の3に相当する。深さは最大で約300メートルに達する。

地下トンネルは古代ローマの将軍カエサルが登場する前の時代から、都市構造の一部として存在していた。中世に改めて開発整備され、1920年代まで使われたが、その後は忘れ去られ、だれも足を踏み入れていなかったという。

取材班が訪れた日、地上は35度の暑さだったが、洞窟内は13度と肌寒かった。湿った空気が冷やされて、壁面の一部は結露していた。

100年の封鎖を経て


(CNN)

地下にはれんが張りの近代的なトンネルと、火山岩を荒く削った通路が混在し、ローマという都市の複雑な変遷がうかがえる。

トンネル網は100年近く前、独裁者ムッソリーニの指示で大半が封鎖されたが、今は照明がつられて足場が組まれ、工事用具が持ち込まれていた。2026年末か27年初めには、新たな観光スポットとして公開される見通しだ。

この地区では最近、古代ローマ時代の広場や円形闘技場「コロッセオ」などの大規模改修が行われているが、地下トンネルに手が加えられたことは今までなかった。

ダンブロジオ氏によると、観光は考古学と洞窟学を組み合わせた内容で、地上の名所とは異なる客層が見込まれる。同氏は「さまざまな意味で神秘的な体験」になると語った。

トンネルのはるか上の空間に見える白い大理石は、紀元前6世紀に建てられた「ユピテル神殿」の土台だ。

地下に芽生えた恋


(CNN)

この地下空間は何世紀にもわたり、さまざまな用途に役立てられた。最初は採石場として、その後貯水施設として使われ、やがて商業施設や倉庫が建てられた。19世紀には、丘の斜面沿いの公共住宅に暮らす労働者階級にとって、ここが経済の中心地だった。ドイツの文豪ゲーテは地下の酒場で働く女性に恋をしたとされ、旅行記「イタリア紀行」にその経験を記している。

それぞれの空間にどんな建物があったか、詳しいことはよく分からないが、古典考古学者でもあった18世紀イタリアの銅版画家ピラネージの作品には、中心街のにぎわいが描かれている。

だがムッソリーニはローマ大改造計画の一環として住宅を取り壊し、丘の地盤を安定させるためにトンネルの一部を土砂で埋めた。第2次世界大戦中には、ごく一部が防空壕(ぼうくうごう)に使われた。トンネル内のあちこちに、当時使われたとみられる「トイレ」の標識が残っている。

観光客への公開に向けた内部の片付けに先立ち、考古学者らはレーザースキャナーで地下空間を測量したり、過去に実施された発掘の跡を記録したりした。トンネル内の常設展示では、この作業の写真や映像も公開される。

プロジェクトを主導する建築事務所インスラによれば、洞窟の修復や保全と同時に、だれもが訪れやすいバリアフリーの観光地にするための整備を進める計画が提案されている。

観光の目玉になるか


(CNN)

観光客の安全対策としては、修復の過程で火山岩から自然に発生する放射性ガス「ラドン」の管理もある。作業員らは常に被ばく量の検査を受け、洞窟内での滞在時間も制限されている。一般公開までにラドンを除去するための特殊フィルターを取り付け、強制換気システムで制御するという。

プロジェクトは総額280万ドル(約4.1億円)規模。上階には博物館のスペースが設けられ、トンネルへの入り口は厳重に管理されて、ガイドが観光客を先導する。バリアフリー設備も導入される。埋蔵されていた古代の石器や、商人がオリーブオイルやワインを入れたとみられるさまざまなつぼやかめも展示される。壁面に取り付けられた金属の輪も見ることができるだろう。これは、地上から持ち込んだ動物をつなぐのに使われたと考えられる。

ダンブロジオ氏によると、過去の発掘で見つかった遺物や史料も、研究のためにカピトリーニ美術館の倉庫からいったんトンネル内に戻された。ただし、最終的には観光客の興味を引く出土品だけを現場に残すことになりそうだ。

こうして作業が進む間も、地上にあるカピトリーノの丘からは、地下に大規模な空洞とトンネルのシステムが広がっていることなどほとんど分からない。それでもダンブロジオ氏は、洞窟が近い将来、観光名所に事欠かないローマの中でも観光の目玉になると確信している。

「洞窟の区域がこのような形で公開されたことは、今までに一度もなかった」と、同氏は指摘する。「市民に利用され、倉庫や店舗、酒場として使われてきたが、計画しているような観光地になるのは、これが初めてだ」

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