ロサンゼルス抗議デモの誤情報、SNSのアルゴリズムで増幅 危機煽る燃料に
(CNN) オフライン、つまり現実世界のロサンゼルスでは、大半の市民が完全に普段通りの日常を過ごしている。ところがオンラインでは、炎と暴徒が今なお猛威を振るっている。
ソーシャルメディアのプラットフォームを動かす強力なアルゴリズムが現在ユーザーに流しているのは、最近の同市の混乱に関する何日も前の、そして場合によっては全く捏造(ねつぞう)されたコンテンツだ。こうしたコンテンツによって危機に終わりが来ないかのような感覚が広がっているが、広大なロサンゼルスのごく狭い部分を除いて、そのような危機はそもそも存在しない。
X(旧ツイッター)やTikTok(ティックトック)といったプラットフォームでは、真偽不明の複数のアカウントが、明らかにクリック数や影響力の獲得、混乱を引き起こす目的で、人々の不安を食い物にしている。先週末に発生した衝突を巡ってはリベラル派も保守派もその行く末に懸念を抱いているが、そうした状況が利用されている。
人工知能(AI)が生成したティックトック上のある偽動画は、ボブと称する州兵がデモ参加者に浴びせるガスを準備している様子を流す内容だ。動画は10日午後の時点で96万回以上閲覧されている。コメント欄の多くは動画をフェイクと断じているが、本物と信じているとみられる書き込みもある(英BBCが偽物と暴いたこの動画は、その後削除されたようだ)。
米ジョージタウン大学マコート公共政策大学院の准研究教授で、ネットでの陰謀論拡散に関する専門家、ルネ・ディレスタ氏は「現在ソーシャルメディアで起きていることは、2020年のジョージ・フロイドさん死亡事件を受けて発生した情報環境の混乱に似ている」と指摘。「人々は現在起きている本物の動画なのか、過去の衝撃的な動画の再利用なのかを区別しようとしている。後者の使用には政治的もしくは金銭上の目的がある」と説明する。
しかし25年の今回はAIの生成した画像が一段と増えた他、ユーザーも複数の異なるプラットフォームを利用している。ディレスタ氏はCNNの取材に答え、そうしたプラットフォームでは「それぞれ違った物語が語られている」と述べた。
異なる現実
右派の見解で盛り上がる傾向のあるXでは、複数のインフルエンサーが移民税関捜査局(ICE)に反対の声を上げるデモ参加者らを扇動者、テロリストなどと非難。かたやより左派的なSNSブルースカイの有力なユーザーらは、トランプ大統領の州兵派遣を糾弾している。
過度に党派的で活動的な複数のXアカウントは、南カリフォルニアでの騒動の規模を大いに誇張して伝え、オフラインでの状況に関するオンラインでの混乱を広げる形となっている。
X上で広く拡散したある8日の投稿は、メキシコがロサンゼルスへの「軍事介入」を検討中との「ニュース速報」が流れたとする偽情報を取り上げた。10日午後の時点で、この投稿は200万人以上が閲覧している。
陰謀論を拡散するXの投稿は数十件存在し、デモ参加者について、政府の支援やさまざまな経路からの資金援助を受けているといった主張を展開する。英シンクタンク、戦略対話研究所(ISD)が明らかにした。そうした投稿の多くは閲覧数が100万を超えているが、Xのコミュニティーノート機能でファクトチェックされているものはごく一握りに限られる。
CNNはXとTikTokにコメントを求めている。
投稿の拡散がどれほど世論を歪曲(わいきょく)し得るか、また暴力の悪化を招きかねないかを踏まえ、カリフォルニア州のニューサム知事のオフィスは8日夜、情報を共有する前に入手元を確認するよう、Xへの投稿で市民に懇願した。
同じく8日夜には、ロサンゼルス警察の車両が燃えている衝撃的な動画を最近のものであるかのように投稿した俳優のジェームズ・ウッズ氏に対し、ニューサム氏が「この動画は2020年のもの」と指摘する出来事もあった。動画はこの年、人種に関わる正義を求める抗議行動が騒乱に発展した様子を捉えたものだが、直近のロサンゼルスの状況として拡散し、テッド・クルーズ上院議員もXでこれを共有。「平和的ではない」とコメントしていた。
ただ混乱に拍車を掛けるように、今回の抗議行動でも、複数の警察車両や自動運転車を狙った破壊行為自体は起きている。
一方で連邦政府のアカウントもまた、誤解を招く情報をソーシャルメディアに流す役割を果たしている。国防総省の「緊急対応」のアカウントは9日午前、「ロサンゼルスが燃えている。現地の指導者らは対応を拒んでいる」と主張したが、この投稿の時点で同市に火災の報告は寄せられていなかった。
国営メディアの誤情報
ロシアと中国の国営メディアも、社会不安のイメージを増幅させている。ここでは取り上げる内容が真実か虚偽かは問題にならない。
民主主義国に対する外国の情報操作、介入を研究するシンクタンク、アライアンス・フォー・セキュアリング・デモクラシーのブレット・シェーファー上級研究員によれば、中国のプロパガンダ機関は、20年のブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命も大切だ)運動の報道と同様、米国での抗議デモを同国のイメージ低下に利用している。その際米国政府について、他国で起きている抗議デモを支持するにもかかわらず、自国の抗議デモに対してはそうした姿勢が見られないことなどを強調するという。
一方、ロシアの国営スプートニク通信は、抗議デモでの破壊行為のため用意されたという大量の煉瓦(れんが)の画像を公開したが、Xのコミュニティーノートによると前出のウッズ氏も共有したこの画像はニュージャージー州の建設現場のもので今回の抗議デモとは無関係だった。
ロシアの国営メディアはまた、事実と異なる、誤解を招く主張も振りまいている。これはトランプ氏寄りのインフルエンサーが拡散しているもので、左派の個人や団体が抗議デモに資金を提供しているという内容だ。シェーファー氏が明らかにした。
ロシア政府は対外的なプロパガンダを仕掛けるよりも、一触即発となっている米国内の情報環境へ燃料を投下することの方に関心があるようだと、同氏は分析している。