殺害された被害者が加害者に語りかけ 遺族がAIで再現した生前の姿、法廷で再生

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射殺された被害者、AIでよみがえり法廷で証言

ニューヨーク(CNN) 米アリゾナ州で2021年に殺害された被害者の男性の遺族が、生前の姿や声を人工知能(AI)で再現した映像を制作し、本人の証言として判決公判の法廷で再生した。法廷での証言のためにAIを使って被害者をよみがえらせた事例は、今回が初めてだったと思われる。

37歳だったクリストファー・ペルキーさんは2021年11月、あおり運転事件で激高した相手に射殺された。

姉のステイシー・ウェールズさんは量刑尋問の公判で証言するため2年がかりで準備を進めていたが、自分の言葉ではペルキーさんの人間性や、ペルキーさんが言いたかったことを表現しきれないと感じていた。

そこでAIの助けを借りて、本人に法廷で証言してもらうことにしたと説明する。

ウェールズさんは夫とともに、ペルキーさんの生前の写真や動画をAIで加工して、判決公判で再生するための映像を作成。ウェールズさんが書いた台本を、AIで再現したペルキーさんの声で読み上げさせた。

AIのペルキーさんは、加害者を許す気持ちを伝えていた。弟ならきっとそうするだろうと思ったとウェールズさんは言う。ウェールズさん自身は、今も加害者を許す気持ちにはなれなかった。それでも「自分の気持ちとは切り離して、クリスならきっとこう言うだろうと考えることに集中した」と打ち明ける。

アリゾナ州マリコパ郡高裁のトッド・ラング裁判官は最終的に、ガブリエル・ポール・ホルカシタス被告に対し、殺人罪で禁錮10年半(検察側は9年半を求刑)、危険行為の罪も含めて計12年半の禁錮を言い渡した。

ラング裁判官は、ペルキーさんの映像について「あのAIは素晴らしい。ありがとう」「あなたの怒り、家族の当然の怒りとともに、許しの声を聞いた」と語っている。

ウェールズさんによると、退役軍人だったペルキーさんは3人兄弟の末っ子で、「家族の中で最も寛大で親しみやすかった」という。

ホルカシタス被告の公判では現場の映像や検視の写真が提出され、陪審は被告に有罪評決を言い渡した。それでもウェールズさんは、ペルキーさんの生前の姿を判決公判で裁判官に見てほしいと願った。

今月1日の公判でAI映像を再生することについては前日、弁護士に電話で許可を得た。弁護士は、法廷での証言については被害者側の裁量に委ねるとしたアリゾナ州の法律を根拠に映像の使用を認めた。

映像の中ペルキーさんは冒頭、自分の姿はAIで再現されたと断った上で、「私たちがあの日、あのような状況で出会ったことを残念に思う」と語りかけた。「違う人生ではきっと友達になれていたかもしれないのに」

ホルカシタス被告側の弁護士はAI証言について、「裁判官はAI映像に一定の重きを置いたようだ。この問題は控訴審で追及されるだろう」とコメントしている。

AIで弟の姿を再現したことは、遺族にとっての癒やしになったとウェールズさんは振り返る。法廷でこの映像を見たウェールズさんの14歳の息子は、「これを制作してくれてありがとう。おじさんにもう一度会って、声が聴きたかったんだ」と母に伝えたという。

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