ケニアの選手はなぜマラソンに強いのか、その秘密を探る

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マラソン強国として知られるケニア。その秘密を探った/MICHAEL STEELE/GETTY IMAGES

マラソン強国として知られるケニア。その秘密を探った/MICHAEL STEELE/GETTY IMAGES

ケニア・ナイロビ(CNN) 男子マラソンのエリウド・キプチョゲ選手が2019年10月にウィーンで行われた特別レースで1時間59分40秒をマークし、前人未到の「2時間切り」を達成した。キプチョゲ選手はケニアのリフトバレー州の出身だ。

また、キプチョゲ選手が偉業を達成した翌日に行われたシカゴマラソンで、ブリジット・コスゲイ選手が16年ぶりに女子の世界記録を更新した。コスゲイ選手も同じくリフトバレーの出身だ。

さらに11月に行われたニューヨークシティーマラソンの女子の部で、ジョイシリネ・ジェプコスゲイ選手が、同大会5度目の優勝を目指したメアリー・ケイタニー選手を下して優勝した。ケイタニー選手は2位だった。また、男子の部はジェフリー・カムウォロレ選手が制し、同大会2度目の優勝を果たした。

この3人はいずれもリフトバレーの出身だ。そして今や、世界中のマラソン選手が、主要なレース前にリフトバレーに行って練習していることは周知の事実だ。

2019年のニューヨークシティーマラソンで優勝したのは男女ともケニアの選手だった/Sarah Stier/Getty Images
2019年のニューヨークシティーマラソンで優勝したのは男女ともケニアの選手だった/Sarah Stier/Getty Images

マラソンは過去数十年間、東アフリカ(特にケニアとエチオピア)出身の選手が上位を独占し、その過程で、彼らは自分自身あるいは同胞たちの記録を更新してきた。

今やケニア出身のマラソン選手の活躍は一大現象となっており、彼らが長距離レースで上位を独占する理由について多くの研究機関が調査を実施。専門家は複合的な要因だと説明する。

一流ランナーの大半は同じ地域の出身

ケニアの一流ランナーの大半は、カレンジン族かナンディ族のどちらかの出身だ。この2つの部族の人口は、ケニアの総人口5000万人のわずか1割に過ぎないが、同国がマラソンで獲得したメダルの大半は、この2つの部族の出身者が獲得したものだ。

ケニアの首都ナイロビにあるケニヤッタ大学の教授で、運動・スポーツ科学が専門のビンセント・O・オニウェラ氏によると、主要な国際陸上大会の競走種目でケニアが獲得した金メダルの73%近くをカレンジン族が獲得しており、銀メダルの獲得数もほぼ同じ割合だという。

イテンの町で練習するメアリー・ケイタニー選手ら/Michael Steele/Getty Images Europe/Getty Images
イテンの町で練習するメアリー・ケイタニー選手ら/Michael Steele/Getty Images Europe/Getty Images

彼らは、何世代にもわたって走ることへの情熱を伝承してきた。その結果、リフトバレー、特にイテンと呼ばれる小さな町は、ケニアの一流長距離ランナーたちのメッカとなった。その地域では、子どもたちは幼い頃から走り始める。

この地域出身の若者の多くは、成功を収めたランナーたちに囲まれて育つ。これまで数々の一流ケニア人選手を育ててきた名コーチ、バーナード・オウマ氏によると、ケニア人ランナーの大半は、走ることを金を稼ぐ手段と考えているという。

「隣人が走って勝つ姿を見れば、自分も走って勝ちたいという気持ちになる」とオウマ氏は言う。その結果、彼らのコミュニティーでは、長い年月の間に、卓越したランナーを輩出する深い伝統が築き上げられた。

高地での練習と生活

世界中のマラソン大会で上位を占めるケニア人ランナーの大半は、高地であるリフトバレーで練習し、生活している。

多くの一流ランナーを輩出する町のひとつ、イテンはケニア西部の標高2400メートル以上の高地に位置する。

「運動競技の世界では、高地トレーニングは海抜0メートルでの運動能力を高めると広く考えられている。高地トレーニングにより、海抜0メートルでの最大酸素摂取量と走行能力の両方が強化されることが少なくとも3つの独立した研究から明らかになっている」(オニウェラ氏)

食事とやる気の維持

今やイテンの町は長距離走のチャンピオンを輩出する場所として世界的に知られており、世界中のランナーたちが主要なレース前にイテンで練習を行う。

作家でランニングの愛好家でもあるアドハラナンド・フィン氏は、イテンに長期間滞在し、ケニア出身のマラソン選手の強さの秘密を探った。フィン氏によると、何か1つの大きな秘密があるわけではないという。

メアリー・ケイタニー選手/Michael Steele/Getty Images Europe/Getty Images
メアリー・ケイタニー選手/Michael Steele/Getty Images Europe/Getty Images

「(陸上男子800メートルの世界記録保持者)デビッド・ルディシャ選手のコーチとして知られるコルム・オコネル氏によると、唯一の秘密は秘密がないことだという。つまり、ケニアのリフトバレーという場所にこれといった要因があるわけではなく、非常に多くの要因が集まって、長距離に非常に強い選手たちを生み出している」(フィン氏)

「まず、(リフトバレーは)高地であり、農村特有の厳しいしつけがなされ、至る所で子どもたちが走り回っている。また食事も質素で、ジャンクフードもない。さらに起伏のある丘や砂利道など、走るのに最適な場所が至る所にある」とフィン氏は言う。

また世界で活躍する一流ランナーたちが身近にいることも大きな励みになる。

フィン氏は「走ることにより、大金を手に入れ、生活を変え、ひいてはコミュニティー全体を変える大きなチャンスをつかめる」とし、「どこでも手本となる多くの選手たちがいるのも大きい。海外で数々のレースで勝利して帰国した選手がほぼすべての村にいる。これらのスター選手たちが大変身近におり、彼らは、若い選手たちの支援にも積極的だ」と語る。

「だからこそ、走れる人は誰もがランナーを目指す」

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