OPINION

米オハイオ州の共和党上院予備選、トランプ氏推薦の威力を証明

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トランプ氏の推薦が決め手となり、オハイオ州の上院予備選を制したJ・D・バンス氏/Drew Angerer/Getty Images

トランプ氏の推薦が決め手となり、オハイオ州の上院予備選を制したJ・D・バンス氏/Drew Angerer/Getty Images

(CNN) 米国のトランプ前大統領に一泡吹かせ、共和党のキングメーカーとしての面目を失わせたいと望んでいた人々にとって、J・D・バンス氏が3日夜、中西部オハイオ州の共和党上院予備選で勝利したのは期待はずれの結果だったに違いない。

バンス氏の得票は全体の3分の1程度にとどまり、トランプ氏の影響力にも限界があることをうかがわせはしたものの、選挙自体は高い資金力を誇る5人の候補者がしのぎを削る接戦だった。そうした中で、トランプ氏の推薦がバンス氏にとって最終的な決め手にならなかったと断じるのは無理がある。さらに印象深いのは、トランプ氏の実質的な支援を通じてバンス氏が自らの過去の発言を乗り越えたという事実だ。ベンチャーキャピタリストから作家に転じたバンス氏は、2016年の時点でトランプ氏に対する痛烈な批判を口にしていた。しかしバンス氏の勝利はまた、トランプ氏による推薦がなぜ共和党の有権者にとってこれほどの重みをもつのかを理解する助けにもなる。

ポール・スレイシック氏/Arne Hoel
ポール・スレイシック氏/Arne Hoel

予備選には7人が立候補し、引退するロブ・ポートマン上院議員の後継への指名を争った。有力候補と目された5人にはバンス氏のほか、投資銀行家のマイク・ギボンズ氏、州共和党の前トップのジェーン・ティムケン氏、州財務官を務めたジョシュ・マンデル氏、州上院議員のマット・ドラン氏が名を連ねた。ドラン氏はメジャーリーグの球団、クリーブランド・ガーディアンズ(クリーブランド・インディアンスから改名)のオーナー一族としても知られる。

通常、これだけ多くの有力候補がいれば、戦いの場は時間が経つにつれ狭まっていくものだ。資金不足に陥る候補者もいるが、これは寄付者らの支出先が最も勝利の見込める候補者に向かうことによる。しかしギボンズ、ティムケン、ドランの3氏には十分な個人資産があり、巨額の借り入れを行って選挙戦に充てた。一方、マンデル氏は首都ワシントンを拠点とする保守系団体、クラブ・フォー・グロースから強固な財政的支援を受けていた。

バンス氏はペイパルの創業者、ピーター・ティール氏の立ち上げたスーパーPAC(特別政治行動委員会)による献金を当てにすることができた。最終的に資金不足に見舞われる候補者はなく、オハイオ州史上最も巨額の選挙費用が投じられた予備選となった。

こうして共和党の有権者には多数の候補者が残され、選別は一段と困難になった。事実として大半の候補者が似通った政治的立場を取っていたためだ。ドラン氏だけは進んでトランプ氏との関係を断ったが(それでもトランプ氏の支持者として自身を売り込もうとした)、これは特に20年の大統領選の結果が盗まれたものなのかどうかで見解が食い違ったことによる。一方で他の候補者らは、人工妊娠中絶や銃規制といった問題について、ほぼ同一の政策方針を打ち出していた。こうした状況下にトランプ氏が入り込んできたわけだ。

他者からの推薦は、米国政治の中で常に重要な役割を果たしてきた。選挙に打って出る候補者らは依然として、地元の党機関からの推薦を積極的に求める。しかし過去において最も垂涎(すいぜん)の的となっていたのは、新聞社の編集委員会からの推薦だった。有権者、とりわけ政治を綿密に追いかけていない人々は、信用ある新聞社の推薦にかなり重きを置いていた。各社の編集委員らは、それぞれの候補者や選挙の争点に細心の注意を払うとみられたためだ。

各社は現在も候補者への推薦を行っているが、特に共和党の有権者にとって、それらはもはや信頼に足る情報源ではない。こうした有権者の多くはしかし、トランプ氏に全幅の信頼を置いている。だからこそ同氏の推薦は極めて重要なものとなる。トランプ氏に従う有権者らは、同氏が自分たちの利益を理解していると信じている。同氏なら、それらの利益を共有する候補者しか支持しないと確信しているのだ。

バンス氏は、トランプ氏の言葉を借りれば「かつて私のことをくそみそに言った男」だ。にもかかわらず当のトランプ氏が喜んで推薦しているという事実は、バンス氏こそ紛れもない本物であることを意味した。これにより、バンス氏個人を攻撃する選挙広告はほぼ無力化。そうした広告にはトランプ氏を痛烈に非難するバンス氏の映像なども使われたが、実質的な効果はなくなった。

トランプ氏が多くの共和党有権者に及ぼす影響力を確認する1つの方法は、今回の上院予備選での現象と、トランプ氏が1人の候補者も推薦しなかった別の州レベルの選挙結果とを比べることだ。

オハイオ州の共和党有権者は連邦議会上院選の候補者を選ぶ一方で、州知事選の候補者も選出していた。現職のマイク・デワイン知事(共和党)は一部の共和党員にすこぶる不人気だが、これは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期間中、マスク着用の義務化を支持したためだ。デワイン氏は20年の大統領選に関する懸念もトランプ氏と共有していない。これを受けてトランプ氏はツイッターを停止される前に、以下のようにツイートした。「果たして誰が偉大なオハイオ州の知事に立候補するだろうか? 熱戦になるのは必至だ!」

実際複数の共和党員がデワイン氏に対抗し、知事候補の指名獲得に打って出た。前連邦議会議員のジム・レネイシー氏や、政界未経験のジョー・ブリストーン氏などだ。最終的に、デワイン氏は得票率5割に届かなかったものの、難なく指名を獲得した。トランプ氏の手引きがない中、同氏の支持者らの票はレネイシー氏とブリストーン氏の間で割れたようだ。もしトランプ氏がより強力な候補者と目されていたレネイシー氏を推薦していたなら、果たして結果は変わっていただろうか? その場合は実際よりもはるかに拮抗(きっこう)した結果が出ていたはずで、それを否定するのは無理がある。

予備選シーズンが盛り上がる中、この先トランプ氏の推薦の効果を計る機会が数多く訪れる。次の大きなテストはペンシルベニア州での予備選だろう。ここも大規模州であり、複数の共和党候補者が空席となっている上院の議席を埋めるべく、指名獲得を争っている。ただ現状を見る限り、共和党候補者にとってトランプ氏からの推薦は、政治的な意味で黄金に匹敵する価値があるようだ。

ポール・スレイシック氏はオハイオ州ヤングスタウン州立大学の教授で、政治学と国際関係を専攻する。同州の政治と政府に関する著作「Ohio Politics and Government」の共著者でもある。記事の内容は同氏個人の見解です。

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