「消えた通常物質」のなぞ、宇宙からの電波バーストで解明か 米研究者ら
(CNN) 宇宙を構成する「通常」物質はどこにあるのかというなぞを、宇宙のかなたから届くわずか数ミリ秒の強力な電波パルス「高速電波バースト(FRB)」を使って解明したとの研究結果が発表された。
米ハーバード大学の天文学者、リアム・コナー助教らのチームが、英オンライン専門誌「ネイチャー・アストロノミー」に報告した。
宇宙の大部分を占めるのは、暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)だ。米航空宇宙局(NASA)によれば、暗黒物質は宇宙の構造形成を促し、暗黒エネルギーは宇宙の膨張を加速させる。どちらも直接観測することはできず、暗黒物質の重力と、暗黒エネルギーが及ぼす斥力(反発力)によってそれぞれ検出される。
そのほかの部分は、陽子や中性子を含む「バリオン」、つまり通常の物質で構成される。
だがコナー氏によれば、望遠鏡で観測できる恒星や惑星、低温のガスを合わせても、存在しているはずのバリオンの10%に満たない。
従来、バリオンの大半は銀河間物質(IGM)として銀河と銀河の間に浮かんでいるか、銀河を球状に取り囲む恒星や高温のガスなどの領域「銀河ハロー」に存在すると考えられてきた。だがこうした希薄な、霧のような広がりは観測が難しく、確認できないまま「消えたバリオン」問題と呼ばれてきた。
コナー氏らのチームはFRBという現象を使って、これまで見えなかったものの存在を突き止めることに成功した。
「FRBのパルスはIGMの霧を通過して地球に届く。そのスピードを正確に測れば、目に見えないほど薄い霧でも中の分布を調べられる」と、コナー氏は説明する。

銀河の間に存在する「通常」物質に彩色したイメージ図/Jack Madden/IllustrisTNG/Ralf Konietzka/Liam Connor/CfA
一瞬の光が照らすもの
FRBは2007年に初めて検出されてから、これまでに1000件以上観測されている。研究チームによると、発生源が銀河の中と特定されたのは100件ほど。発生の仕組みは今も分かっていない。
チームは過去に観測されたFRBを参照したほか、研究の過程で新たなFRBも観測した。
研究対象となったのは計69件で、発生源から地球までの距離は1174万~91億光年。研究の最中に見つかった「FRB20230521B」は、これまでに観測された全FRBのうち最も遠くで起きていた。
FRBの電波は宇宙空間を伝わる際、ガスの中を通るとスピードが遅くなり、その遅れ方は周波数ごとに違う。周波数によるばらつきを解析することで、電波が地球に到達するまでにどれだけのガスを通過したか、つまり通り道にどれだけの物質があったかを推定できる。
ここで重要なポイントは、FRBがごく短時間の電波パルスであることだ。恒星のように常に光が出ている場合や、電波の周波数帯から外れている場合は、ばらつきを測ることができない。
研究チームのメンバー、米カリフォルニア工科大学のビクラム・ラビ助教はこう語る。「FRBをバックライトにして、あらゆるバリオンの影を見ているようなものだ」「目の前にいる人を見れば、確かに多くのことが分かる。だがその人の影を見ただけでも、そこに存在しているという事実や、だいたいの大きさは分かる」
チームは解析の結果、バリオンのうち76%が高温、低密度の銀河間ガスだと結論付けた。さらに15%は銀河ハローの中にあり、残りが銀河内の恒星や惑星、低温のガスとして存在するという。

FRBの観測に使用された米カリフォルニア州の電波望遠鏡システム「ディープ・シノプティック・アレイ」/Vikram Ravi/Caltech/OVRO
宇宙論の重要なツール
チームのメンバーによれば、この結論はシミュレーションを使った事前予測と一致した。
コナー氏は「数十年前から続く『消えたバリオン』問題のポイントは、バリオンが存在するかどうかではなく、どこに存在するかという点だった。FRBのおかげで、その4分の3が銀河と銀河の間の網目構造の中に浮かんでいることが分かった」と述べた。
バリオンの分布を把握することによって、さらに銀河がどのように成長、進化するのかを理解できるかもしれない。
「バリオンは重力で銀河の中に引き込まれるが、ブラックホールや恒星の爆発で外へ弾き出される可能性もある。ちょうど宇宙のサーモスタットが、暑すぎる時には温度を下げるようなものだ」と、コナー氏は言う。「私たちの研究結果から分かるのは、銀河からガスを弾き出すというフィードバックが有効に機能しているということだ」
ラビ氏によれば、FRBを使って宇宙の網目構造を詳細に調べることもできそうだ。NASAによると、網目構造は主に暗黒物質で形成され、宇宙の骨組みの役割を果たしている。
カリフォルニア工科大は現在、ネバダ州の砂漠に新たな電波望遠鏡の建設を計画している。コナー氏によれば、この望遠鏡は1年に最大1万件のFRBを見つけることができ、今後の研究の助けになりそうだという。
ラビ氏は「現代天文学の勝利だ」「FRBのおかげで、私たちは宇宙の構造と構成をまったく違う観点から見始めている。FRBの短いパルスによって、銀河間の広大な空間を満たす目に見えない物質の姿をたどれるようになった」と話している。