洪水現場で孤軍奮闘、子ども165人を救助 米沿岸警備隊員「英雄」と称賛
165人の子どもを洪水現場から単身救出、米沿岸警備隊員に称賛の声
(CNN) 100人を超す死者を出した米テキサス州の洪水で、現場のキャンプ場に出動して165人の子どもを救った沿岸警備隊員が賞賛の的になっている。
新人水難救助隊員のスコット・ラスカンさん(26)にとって、初の任務だった。会計士の仕事をやめて半年ほど前に水難救助の学校を卒業したばかり。ラスカンさんが所属する隊にテキサス州の捜索救助隊から応援要請が入ったのは、4日未明のことだった。
濁流が押し寄せた河川敷の女子キャンプ場「キャンプ・ミスティック」では、約200人が救助を必要としていた。橋や道路は濁流にのまれ、水位が高すぎてボートは使えない。上空からの救助しか選択肢はなかった。
現場には地元や州の救助隊が向かっており、テキサス州兵や空軍州兵のブラックホークヘリコプターも出動した。
ラスカンさんによると、キャンプ場近くの着陸地点には、普段なら1時間で到達できるところを、悪天候に阻まれて6~7時間ほどかかった。
猛烈な暴風雨の中でラスカンさんの隊は4回の飛行を試み、空軍州兵に助けられてようやく現場に到達。上空からは現場の惨状が見て取れた。
現場に到達できた救助隊はラスカンさんの隊のみ。取り残された約200人の子どもたちは恐怖のどん底にいた。
しかしキャンプ・ミスティックに到達すると、さらに危険が差し迫った別の場所へ救助に向かう必要があることが分かった。
そこで同隊は、トリアージ調整員としてラスカンさんをキャンプ・ミスティックに残すことが最善と判断した。ラスカンさんを降ろした同隊は、別の場所で子ども15人を救助することができた。
キャンプ・ミスティックのラスカンさんは、高い場所に避難した子どもたちを励ましていた。靴を履く余裕もないまま避難して、裸足に切り傷を負った子どももいた。
約3時間の間、この現場にいた救助隊員はラスカンさん1人だった。無線も携帯電話もつながらず、通信手段はない。ラスカンさんは全力を振り絞ってショック状態にある子どもたちを励まし、必ず助け出すと約束して、行方が分からなくなった友人たちは仲間の救助隊員が探していると伝えて安心させた。
テキサス州空軍州兵のヘリがキャンプ場に到着すると、ラスカンさんはまず年少の子どもを優先しながら、10~15人ずつヘリまで誘導した。
キャンプ場にいた約165人がラスカンさんに助けられた。濡れた岩で足を滑らせたりけがをしたりしないよう、ラスカンさんが抱えて運んだ子どもたちもいた。
救助隊が最善を尽くす中でも、キャンプ・ミスティックにいた子どもやカウンセラーなど27人は命を落とし、11人が行方不明になっている。
長年同キャンプ場を運営していたディック・イーストマンさんも、子どもたちを助けようとして死亡した。
米国土安全保障省はラスカンさんを「米国人のヒーロー」とたたえた。しかしラスカンさんは、救助活動に協力したカウンセラーや頑張った子どもたちもヒーローだと話している。