アジアの軍拡競争、制御不能に陥る危険性がある理由

対潜水艦戦闘訓練で米海軍の潜水艦「アナポリス」や原子力空母「ロナルド・レーガン」に自衛隊や韓国の艦が加わる=2022年9月30日/South Korean Defense Ministry/Getty Images

2023.01.23 Mon posted at 06:55 JST

ソウル(CNN) これほどの規模の軍備拡大競争はアジアではかつて例がない。3つの核保有国と急速に核開発を進める国、世界3大経済大国、数十年来の同盟国。こうした国々がこぞって、陸海ともに対立が激化している地域での優位性を競い合っている。

米国とその同盟国である日本と韓国が1つのコーナーに、中国と友好国ロシアが別のコーナーにいる。そして3つ目のコーナーには北朝鮮が存在する。

いずれも他国に先んじようとするあまり、制御不能な悪循環に陥っている。詰まるところ、一方にとっての抑止力とは、相手側から見れば軍備拡張に映るのだ。

「こうした東アジアにおける力関係の悪循環は今後も続くだろう。我々には抑制の手立てや軍備管理がない」。カーネギー国際平和基金で核政策を専門とするアンキット・パンダ氏はCNNにこう語った。

こうした点は、日本の閣僚が今月ワシントンを訪問したことでさらに浮き彫りになった。13日に米国のジョー・バイデン大統領と会談を終えた日本の岸田文雄首相は、東シナ海で中国が行っている軍事活動と、8月に発射されたミサイルが台湾を越えて日本近海に着弾したことに懸念を表明した。

岸田首相は中国政府に「国際秩序の変更」を試みるべきではないと警鐘を鳴らし、中国問題では日米欧の結束が「絶対に必要だ」と述べた。首相の発言の数日前には、日米閣僚が「現に行われており、かつ加速しつつある(中国の)核戦力の増強」を不吉にも話題にしていた。


ホワイトハウス執務室に向かう岸田首相(左)とバイデン米大統領=13日/Kevin Dietsch/Getty Images

ところが北朝鮮や中国にしてみれば、好戦的なのは日本の方だ。両国の目に映るのは、先ごろ防衛費の倍増を宣言し、中国や北朝鮮国内の目標に到達可能な兵器の確保に走る日本の姿だ。つい数日前も中国からの先制攻撃の阻止を念頭に、新型移動式対艦ミサイルを含む新しい米海兵隊部隊を日本南方の島々に新たに配備することが発表され、中国と北朝鮮が抱いていると思しき懸念はますます高まっていることだろう。

こうした動きは米国と日本にとっては抑止力だが、中国政府にとっては拡張だ。

中国海軍は浙江省舟山市の軍港からロシアとの海軍演習に向かう=2022年12月20日

過去の蒸し返し

中国の主張によれば、懸念の根底には歴史的理由があるという。中国は日本が第2次世界大戦中の軍国主義に回帰することを恐れているというのだ。当時日本軍はアジアの広い地域を支配し、中国は痛手を負った。1937~45年の8年間、日本との戦争で約1400万人の中国人が命を落とし、最大1億人が故郷を追われた。

中国国内の基地も攻撃可能なトマホークなどの長距離「反撃能力」を保有するという計画から、日本が東アジアの平和を再び脅かすのがわかるというのが中国政府側の言い分だ。

だが批判的な人々は、中国が過去の傷を蒸し返すのには別の動機があるのではないかと考えている。自分たちの軍備増強から世間の目をそらそうという動機だ。

急拡大する中国の軍事力に日米が懸念を示す中、中国政府は声高にこれを否定しながらも日本周辺の領域で海軍、空軍力を伸ばし、日本が統治する東シナ海の無人島、尖閣諸島の主権を主張している。批判的な人々からはこうした指摘が出ている。

日本は昨年12月、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の接続水域で中国政府の船舶が1年間に334日も目撃されていたと発表した。2012年に日本政府が民間人の所有者から尖閣諸島の一部を購入して以来の最多記録だ。12月22~25日には、中国政府の船舶が尖閣諸島沖の日本領海内に73時間連続で侵入したが、これも侵入時間としては12年以来最長だ。

中国はロシアとの友好関係の強化でも緊張を高めている。米国務省は先ごろCNNの取材に答え、中ロの友好関係で日米協定に拍車がかかっただけでなく、北京オリンピック直前にロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席が緊密な友好関係をアピールしていた状況でロシアのウクライナ侵攻があり「動きが一気に加速した」と語った。

ロシアもまた太平洋地域で軍事力を発揮している。12月にはロシア軍艦が東シナ海で、中国軍の艦船および航空機と実弾での合同演習を1週間にわたって行った。

こと台湾となると、中国政府の攻撃的な態度はとくに顕著だ。中国政府は2400万人の人々が自ら統治するこの島を一度も支配したことがないが、中国の領土だと主張している。

習氏は、軍事力を行使して台湾を中国統治下におく可能性を否定していない。とりわけ昨年8月に当時の米国下院議長ナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問して以来、中国は台湾周辺で攻撃的な軍事活動を増している。ペロシ議長訪台の数日後には台湾を取り囲む異例の軍事演習を行い、けん制のため複数のミサイルを台湾近海に発射し、軍用機を派遣した。

最近では今月上旬、28機の戦闘機を台湾海峡の中間線に派遣した。具体的にはJ10、J11、J16、Su30戦闘機と、H6爆撃機、ドローン3機、早期警戒管制機などだ。この時の軍事演習は、人民解放軍が中央線を越えて戦闘機47機を派遣した昨年末のクリスマスの軍事演習に似ている。

こうした動きが見られる中、米国の固い意志は変わらない。米国政府は台湾関係法に定められた義務に沿う形で、増え続ける台湾への兵器供与リストの承認を続けている。

朝鮮中央通信が2022年11月19日に公表した大陸間弾道ミサイル(ICBM)とそれを視察する金正恩氏

北朝鮮が核能力を拡大

台湾から北へ数千キロ離れた朝鮮半島では、協力に関する交渉の望みはもはや薄く、消えかかっている。

北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記は、23年から国内の核兵器保有数を「飛躍的に増加させる」よう求め、核弾頭を韓国のあらゆる場所に命中できる「超大型」移動式ロケット発射装置の部隊編成を進めている。

韓国国防研究院(KIDA)は12日に報告書を発表し、金総書記の計画は数年のうちに300基の兵器投入という形で現れるだろうと述べた。

この数字は22年からの大幅増だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は昨年時点で、北朝鮮が組み立て済みの核兵器22基を所有しており、さらに最大55基の核兵器を製造できる核分裂物質を持っていると推定していた。

もし300基の核弾頭を確保したら、北朝鮮はSIPRIの核兵器保有数ランキングで従来からの核保有国であるフランスと英国を抜き、ロシア、米国、中国に次ぐ第4位に浮上することになる。

こうしたことを見据え、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領も軍事力強化を宣言した。

「攻撃されても100倍あるいは1000倍の反撃を可能にする(軍事的)能力をしっかり整備しておくことが、攻撃を防ぐ上でもっとも重要な方策だ」。最近の尹大統領のこうした発言を聯合ニュースが伝えた。

大統領は韓国の核兵器保有を視野に入れた発言まで行い、韓国が「戦術核兵器を配備したり自国の核兵器を保有する」可能性を示唆した。

朝鮮半島がさらに多くの核兵器を持つことは、米国上層部が深く懸念している点だ――たとえそうした兵器が同盟国のものだとしてもだ。

核を開発すれば、韓国は1992年の「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」を順守してきたという道徳的優位性をいくらか失うことになる。一方、北朝鮮は繰り返し違反している。

米国は同盟国を安心させるべく、韓国への支援が「鉄壁」だとした上で、米軍のあらゆる軍事資産を駆使して韓国を守ると明言した。

「米国は(韓国に対する)広範な抑止力の約束を果たす上で、あらゆる防衛能力の行使もいとわない。これには核、通常兵器、ミサイルでの防衛が含まれる」。12日にオンラインで行われた米韓研究所(ICAS)のフォーラムで、米海軍作戦部長のマイク・ギルデイ大将はこう語った。

ギルデイ大将は米国の対韓支援の例として、昨年韓国の釜山港に米軍の航空母艦が寄港したことを挙げた。だが、こうした米国最強の軍艦の存在を北朝鮮の裏庭で示す行為自体が、北朝鮮からは脅威とみなされる。

こうして連鎖は続く。

とはいえ、アジアの軍拡競争が加速する中でひとつだけ確かなことがある。米国、日本、韓国はバラバラに動くのではなく、結束して関与していくだろうということだ。

岸田首相や日本の閣僚が今月ワシントンに姿を見せたことで、それは目に見える形で表れた。

「連携が密になればなるほど、我々はよりいっそう強くなる」とギルデイ大将もICASでの演説で3国の協力体制について述べた。「(これによって)潜在的な敵国が、事を起こすのは得策ではないと納得することを願う」

敵からの容赦ない圧力の前では、粘り強さが必要だと大将は続けた。

「ひるんではならない。我々全員の結束が必要な場面で、怖気(おじけ)づいてはならない」

本稿はCNNのブラッド・レンドン記者による分析記事です。

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