(CNN) フランスの高級ファッションブランド「ディオール」は、長期にわたる改装工事を経て、米ニューヨークの旗艦店を再オープンした。世界の他の店舗にはない常設スパを備えるのが特徴だ。
ディオールの改装された旗艦店は、イースト57丁目とマディソン・アベニューの角に位置しており、長年ディオールと関わってきた建築家、ピーター・マリノ氏がデザインを担当した。4階にわたって、婦人服、紳士服、ジュエリーなどを取り扱っている。

改装されたディオールのニューヨーク旗艦店は4フロアに広がり、婦人服や紳士服、時計、高級ジュエリーなどを取り扱っている/Jonathan Taylor
今回の再オープンは、高級品市場の低迷が続く中で行われた。ブランド各社は成長の機会を求め、米国の消費者に注目しており、シャネル、ルイ・ヴィトン、ドルチェ&ガッバーナなどは、全米各地で店舗を開いたり、新たなリース契約を結んだりしている。
ディオールを傘下に持つLVMHは、ブランド別の売り上げは公表していないものの、2024年の売上高は847億ユーロ(約14兆5000億円)を計上。このうち米国市場が25%を占め、アジアに次ぐ第2の市場として欧州と並んだ。
ディオールの新スパは、ニューヨーク旗艦店の最上階に位置し、店舗限定の体験を提供している。中でも90分間のカスタマイズ可能な「オートクチュール・フェイシャル」は、専属エステティシャンのサラ・アクラム氏が開発。肌の水分量や弾力、コラーゲン量、pH値を評価した上で、LEDやマイクロカレント(微弱電流)、冷却療法、酸素導入などを組み合わせたオーダーメイドの施術となっている。

ディオールの新しいスパはリフレッシュ効果をうたうマットレスや、重みのあるブランケット、著名なフランス人調香師フランシス・クルジャン氏が手がけた特製フレグランスを備える/Jonathan Taylor
スパのもう一つの特徴は「ライト・スイート」だ。ここでは、パリの欧州睡眠センター創設者で睡眠医療の専門家であるフランソワ・デュフォレズ博士と共同開発した、4種類の光療法によるスキン・トリートメントから選ぶことができる。最新の光療法「ハピネス」は、セロトニンとドーパミンの分泌を促し、気分の安定や睡眠の改善を図るものであり、ディオールによれば、「眠らない街」として知られるニューヨークを意識した施術だという。
ディオールのウェルネス分野への取り組みは、赤外線やリフレッシュ効果をうたうマットレス、重みのあるブランケット、冷却睡眠マスクに加え、著名なフランス人調香師フランシス・クルジャン氏が手がけた特製フレグランスも備えており、自社でスパを運営する高級ブランドがほとんどない中での初の試みとなる。これは、高級品とウェルネス分野の融合が進み、富裕層が豪華な体験とともに包括的な健康を重視する傾向が強まる中で登場したものだ。
現在では、ベラ・ハディッド氏の「オレベラ」や「バイラオ」といった香水ブランドが、気分や集中力の向上をうたう香りを販売し、セリーヌやエルメスなどの高級ブランドも、それぞれヨガマットやその他のトレーニング器具を手がけている。
多くの人にとって、健康は貴重な財産であり、物質的な所有物以上に価値が高まっているといえる。米ニューヨーク大学スターン経営大学院で高級ブランド・小売業分野のMBA課程を統括するトマイ・セルダリ氏は、そうした背景から、ラグジュアリー空間におけるウェルネスの台頭は「旗艦店に飲食サービスを設けることと変わらない」と指摘する。近年、グッチ、ラルフローレン、プラダ、ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドも飲食分野に進出し、世界各地でカフェやレストラン、パティスリーを展開してきた。
ディオールはすでに世界で9カ所のスパを運営しており、その中にはパリの五つ星ホテル「シュバル・ブラン」や「ホテル・プラザ・アテネ」内の施設も含まれる。また、没入型のウェルネス体験や日常を離れて心身を癒やす「リトリート」にも投資している。これには、豪華ヨットを3度にわたり貸し切り、セーヌ川上で「浮かぶスパ」として運航した取り組みや、英国の高級列車運行会社「ロイヤル・スコッツマン」との提携が含まれる。
セルダリ氏によれば、これらの事例と今回のスパの違いは、顧客層にあるという。「美しい期間限定ショップはピラミッドの底辺層をターゲットにし、ブランドの影響力を大衆へと拡大します」と説明。「一方、スパは頂点を狙います。極めてぜいたくであり、顧客の時間と意欲を必要とするからです」と述べた。

ディオールはすでに世界で9カ所のスパを運営しているが、店舗内の常設スパは初めてだ/Jonathan Taylor
ディオールのウェルビーイング分野への進出は、単に服を着ることにとどまらず、多様な形でブランドを「体験」してもらうという幅広い方針に沿った動きだ。その一例が、2年以上の改装期間を経て22年に開業したパリの旗艦店だ。1万平方メートルの広さを誇り、ギャラリースペース、著名フランス人シェフのジャン・アンベール氏が率いる2軒の飲食店「ル・レストラン・ムッシュ・ディオール」と「パティスリー・ディオール」、複数の庭園、VIP顧客用スイートなどが設置されている。
ラグジュアリー旗艦店を「サービスの領域」と表現するセルダリ氏は、最大手ブランドが「VIC(ベリー・インポータント・カスタマー=超重要顧客)に最も適したサービスの種類を模索している」と指摘。近年は、こうした顧客のための専用空間を設けるブランドが増えているという。例えば、シャネルはアジア主要都市を皮切りに最上位顧客向けのプライベートブティックを開設。バレンシアガはパリにオートクチュール専門店を設置。また、昨年はボッテガ・ヴェネタが「VICレジデンス」の立ち上げを発表した。第1号を伊ベネチアに開業し、今後アジアや米国にも展開する計画だ。
こうしたラグジュアリーとウェルネスの融合は、「VIC分野でこれまで行ってきたあらゆる取り組みの拡張だ」とセルダリ氏は述べる。「今やすべての高級ブランドがVIC施設を持っています。ブランドは顧客との親密な環境を提供し、彼らが何を楽しむかを理解しているのです」
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原文タイトル:‘Haute Couture’ facials and re-energizing mattresses: Inside Dior’s first permanent spa in the US(抄訳)