イランが取りうる報復措置について知っておくべきこと 米国の核施設攻撃受け
イラン外務省報道官、米国による攻撃について語る
(CNN) トランプ米大統領がイランの核施設を攻撃すると決定したことで、中東情勢は不安定な状況に陥り、イランの次の動きに注目が集まっている。
イランのアラグチ外相は22日、トルコ・イスタンブールで演説し、米国の攻撃への対応を決めるにあたり、イランには「さまざまな選択肢」があると述べた。
中東地域内の米軍基地への攻撃をはじめ、世界の海運にとって重要な水路の封鎖など、イランは次の行動を検討している可能性が高い。いずれの策も、イラン、イスラエル、米国にリスクを伴う。
以下にイランが取りうる行動について知っておくべきことを挙げる。
イランは地域における米国の軍事的利益を損なう可能性
米国が紛争に直接介入することで、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)がイラク、イエメン、シリアに残る代理勢力を動員する可能性がある。これらの組織は、過去にもこの地域における米国資産を攻撃してきた。
米国の外交問題評議会(CFR)によると、米国はこの地域全体で計19カ所にプレゼンスを維持しており、そのうち8カ所は恒久的な米軍駐留拠点とみられる。13日時点で、中東には約4万人の米軍部隊が駐留していると推定されるという。
イエメンによる米国資産への攻撃再開はすでに懸念されている。イランの支援を受けるイエメンの反政府武装組織フーシは以前、米国がイスラエルとイランの紛争に加わった場合、紅海で米国の船舶を攻撃すると言明していた。フーシの有力幹部は22日、SNSへの投稿で、「トランプ氏はイラン核施設への米国による空爆の責任を負わなければならない」と警告した。
専門家は、イランがイスラエルや米国との紛争で完全に勝利することはできないと認識していながらも、消耗戦に突入する可能性があると指摘。こうした戦いにより、イランは敵対国の戦闘意欲や戦闘能力を消耗させ、長期にわたる損害をもたらそうとする。トランプ米大統領は就任当初、そのような事態は避けたいとの考えを示していた。
世界の石油貿易を混乱させる可能性
CNNの政治・世界情勢アナリスト、バラク・ラビド氏は、イランが主要な石油輸送ルートであるホルムズ海峡を閉鎖すれば、「ペルシャ湾の商用海運全体」に影響を与える力を持つと述べた。
ホルムズ海峡はペルシャ湾と外洋を結び、中東から世界市場へ石油と液化天然ガス(LNG)を輸出するための重要な経路となっている。米エネルギー情報局によると、この海峡を通過する原油は1日あたり約2000万バレルに上る。
イラン最高指導者の有力な顧問は、すでにミサイル攻撃とホルムズ海峡の封鎖を求めているという。
世界の海運に対する地理的優位性は、イランに「石油市場に衝撃を与えて価格を高騰させ、インフレを誘発し、トランプ氏の経済政策を崩壊させる力」をもたらすと、イランの専門家モハメド・アリ・シャバニ氏はCNNに語った。
核兵器開発を急ぐ可能性
一部の専門家は、たとえ現政権が崩壊し新たな指導者が誕生したとしても、イランが核兵器開発を急ぐ見込みが高いと指摘する。
ワシントンのクインシー研究所の執行副所長、トリタ・パルシ氏はX(旧ツイッター)で、「トランプ大統領は、特に政権が交代した場合、イランが今後5~10年で核兵器保有国になると確約した」と述べた。
パルシ氏は、たとえ現政権が崩壊し新たな軍事勢力が権力を握ったとしても、現政権よりもはるかに強硬な姿勢を取り、唯一の抑止力としての核兵器の開発に向け全力で取り組む可能性が高いとしている。
イランは、核兵器開発を行わないことを誓約している核不拡散条約(NPT)からも脱退する公算が高い。
当面イスラエルへの攻撃を続ける可能性も
米国による核施設攻撃に対する最初のイランの報復は、米軍基地ではなくイスラエルへの攻撃だった。
米国との全面対決を維持できない可能性を認識し、また、トランプ氏が22日の攻撃以降は関与を減らすことを期待するイランは、現状維持を試み、イスラエルとのみ交戦しようとするかもしれない。
イランは面目を保つために報復措置を取らざるを得ないと感じているかもしれないが、その措置は流血を伴わないものとなる可能性もある。2020年にイラクの米軍基地をミサイルで集中攻撃したときと同じような対応だ。当時イランは米軍の要員に外傷性脳損傷を負わせたものの死者は出さなかった。
サイバー攻撃やテロにでる可能性
イスラエルの攻撃により軍事力が低下したため、イランは米国への報復として、テロやサイバー攻撃といった「非対称」な手段に訴える可能性がある。2人の軍事アナリストがそう指摘した。
CNNの国家安全保障アナリスト、デービッド・サンガー氏は、「彼らはおそらく、米国が従来の防衛手段だけでは対応できないものを狙う」との見方を示す。
投資銀行アカデミー・セキュリティーズの地政学戦略責任者、ジェームズ・マークス退役少将は、イスラエルは「イランの強力なミサイル発射能力にかなりの損害を与えた」もののIRGCは依然として「驚異的な能力」を有していると話す。IRGCは既に地域内外で能力を有しており、IRGCが影響力を持つか、非対称的な行動を起こせる脆弱(ぜいじゃく)な場所は世界各地にあるという。
核交渉再開の可能性
イランはイスラエルの攻撃を受けている間、交渉の場に戻ることを拒否している。
イランのアラグチ外相は22日、米軍による核施設への攻撃を受け、「彼らは核施設への攻撃という非常に重要な一線を越えた。我々は正当な自衛権に基づいて対応しなければならない」と言明した。
イランと欧州の当局者は20日、スイス・ジュネーブで協議を行っていた。イランの情報筋によると、協議は当初緊張がみられたものの、「はるかに前向きなものになった」という。
しかしアラグチ氏は22日、米国は外交を「破壊」することを決定したと非難した。
国際シンクタンク、国際危機グループのアリ・バエズ氏はCNNに対し、「イラン側は頭に銃を突きつけられた状態での交渉には消極的だった。そして、その銃はすでに発砲されている」と語った。
「現状では、交渉はすでに終わっている可能性が高い」