ドローンを密輸してロシア空軍基地を攻撃、ウクライナの大胆な作戦はどのように行われたのか

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ウクライナ、ロシア領で大規模ドローン攻撃

(CNN) ウクライナが実施したロシアの飛行場へのドローン(無人機)攻撃は、大胆かつ勇敢なものだった。しかし、何よりも綿密に計画され、完璧に実行された。

ウクライナは、軍用機に損傷を与えたり破壊したりすることで効果を発揮できる場所を攻撃した。ロシアはこうした軍用機を使って、ほぼ毎日空爆を行い、ウクライナの民間人に恐怖を与えてきた。

ウクライナ保安局(SBU)は戦略爆撃機や偵察機などロシアの航空機41機が攻撃を受けたと発表した。戦闘不能になった航空機の数はわかっていない。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員ジャスティン・ブロンク氏は今回の攻撃について、「ウクライナの特殊部隊にとって驚くべき成功だ」と述べた。

ブロンク氏は、損害を受けたり破壊されたりした航空機が41機という主張の半分でも確認されれば、ロシアの長距離航空部隊の能力に大きな影響を与えると指摘。ウクライナの都市やインフラに対して行っている定期的で大規模な巡航ミサイルの一斉射撃を継続する能力や、NATO(北大西洋条約機構)と日本に対する核抑止力や哨戒を維持する能力にも影響が出るとの見方を示した。

ウクライナ軍による攻撃がどのように展開されたのか見ていこう。

ロシア国内からの攻撃

今回の攻撃はロシア国内の飛行場4カ所を標的とした。最も遠いのはウクライナとロシアの国境から約4500キロ離れたイルクーツク州のベラヤ空軍基地だった。

そのほか、2000キロ以上離れたムルマンスク州の基地、約520キロ離れたリャザン州の基地、約800キロ離れたイワノボ州の基地も標的となった。

SBUが公開した画像にはアムール州の基地も標的として写っていた。この基地への攻撃が失敗したのか、中止されたのかは不明。

ロシアがこれらの基地の防御に無頓着だったのは、ウクライナ国境からの距離が非常に遠かったからだとみられる。

ベラヤ基地にある最も貴重な航空機は、飛行場の目立つ場所に定期的に駐機されており、グーグルマップなどの公開されている衛星画像でもはっきりと確認できる。

ロシア政府は、その距離自体がウクライナの攻撃から航空機を安全に保つのに十分であると信じていた可能性が高い。

ロシアがウクライナの制空権を握っているほか、ウクライナの支援国は、米国製の「ATACMS(アタクムス)」や英仏製の「ストーム・シャドー」といった長距離ミサイルを供給しているものの、いずれもロシア領内の奥深くまで攻撃できる射程ではない。

ウクライナは首都モスクワを含むロシア国内各地の標的に対してドローンを使用しているものの、ドローンの飛行速度が遅いため、ロシアの防空部隊は比較的容易に攻撃できる。

今回の攻撃の大胆さが真に発揮されたのは、ここだ。ウクライナは国境からはるばるドローンを飛ばそうとするのではなく、攻撃したい場所のすぐ近くにドローンをひそかに持ち込み、そこから発射することに成功したのだ。

ウクライナがロシアの空軍基地への一斉攻撃に使用したとされるドローンを撮影した写真/Obtained by CNN
ウクライナがロシアの空軍基地への一斉攻撃に使用したとされるドローンを撮影した写真/Obtained by CNN

不十分なロシアの防衛力

ロシアの基地にあるレーダーや防空システムは、今回のような低高度での突然の攻撃には備えがなかった。

今回のような攻撃を阻止する唯一の効果的な方法は重機関銃だ。ロシアは黒海で、ウクライナのドローンに対して重機関銃を使用している。

しかし、重機関銃は今回の攻撃が行われた空軍基地には配備されていなかったか、あるいは、十分な早さで配備されていなかった。おそらく、ロシアが今回のような攻撃を予見していなかったためだろう。

ロシア国防省は声明で、同省が「テロ攻撃」と呼ぶ今回の攻撃が飛行場付近から行われたことを確認した。

ウクライナのゼレンスキー大統領によれば、今回の作戦では117機のドローンが使われた。

SBUによれば、ドローンはSBUの工作員によってロシアに密輸された。その後、ある時点で、おそらくすでにロシア国内に運ばれた段階で、ドローンは移動可能な木製の小屋の中に隠された。

CNNが入手した写真によれば、ドローンは小屋の金属の屋根のすぐ下に収納され、断熱材の空間に収まっている。

「小屋の屋根」に収納されたドローン/Obtained by CNN
「小屋の屋根」に収納されたドローン/Obtained by CNN
ウクライナ保安局が提供した施設内に置かれた木造の小屋(この画像の場所と日付は独自の検証が行われていないほか、画像の一部は情報源によって加工されている)/From the Ukrainian Security Service/Reuters
ウクライナ保安局が提供した施設内に置かれた木造の小屋(この画像の場所と日付は独自の検証が行われていないほか、画像の一部は情報源によって加工されている)/From the Ukrainian Security Service/Reuters

これらの木造の小屋はトラックに積み込まれ、基地近くまで運ばれた。

ウクライナは、どのようにしてこれらの車両を目立った軍事目標の近くに探知されずに運び込んだのか明らかにしていない。だが、ロシアの報道によれば、比較的容易だったようだ。

ロシアのSNSによれば、これらのトラックはロシア在住のウクライナ人の男性が購入して、4人の運転手に料金を支払い必要な場所に運んでもらったという。

SBUによれば、作戦に関与した工作員は攻撃開始時までに無事にウクライナに帰還していた。

ウクライナのドローン開発プログラムの幹部はCNNに対し、ドローンを操縦したパイロットはおそらく発射地点の近くにはいなかったと語った。

同幹部は、インターネットのハブを設置して、パイロットが遠隔操作できるようにして、FPV(一人称視点)でそれぞれの標的を攻撃したのではないかと述べた。通信ハブは「ただのロシアの携帯電話」である可能性があり、これはウクライナで広く使用されている「スターリンク」などの他のシステムよりも追跡が困難だという。

トラックが場所に到着し、ドローンの発射準備が整うと、小屋の屋根が開き、ドローンが目標に向かって飛行した。

「素晴らしい作戦」

SNSで共有され、CNNが位置情報を確認した動画には、イルクーツク州での攻撃で、トラックから飛び出す2機のドローンが映っている。

ドローンがベラヤ基地に向かっている様子が捉えられており、基地では先に行われた攻撃によって発生した黒い煙がすでに上空に立ち上っている。

同じ場所から撮影された別の映像には、ドローンの輸送に使用されたトラックが、自爆を目的としたとみられる爆発によって炎上する様子が映っていた。

ゼレンスキー氏は、今回の攻撃が1年6カ月と9日間かけて計画されたと明らかにし、情報機関の「素晴らしい」作戦を称賛した。

今回の攻撃による死傷者は出ていないという。ロシア当局は今回の攻撃を重要視しない姿勢を示しているものの、著名な軍事ブロガーの一部から批判の声が出ている。著名な軍事ブロガー「ライバー」は今回の攻撃によって、「ロシア空軍全体にとって悲劇的な損失」がもたらされたとし、「犯罪的な過失」の結果だと指摘した。

SBUの推計によれば、今回の攻撃は推計70億ドル(約1兆円)の損失を与え、ロシアの戦略爆撃機の34%を攻撃した。CNNはこうした主張を独自に確認できていない。

ウクライナによる攻撃後、イルクーツク州にあるベラヤ空軍基地の航空機の損傷を捉えたとみられる衛星画像/Umbra
ウクライナによる攻撃後、イルクーツク州にあるベラヤ空軍基地の航空機の損傷を捉えたとみられる衛星画像/Umbra

ウクライナ側は、今回の攻撃によって、戦略爆撃機の「TU95」や「Tu22M3」を複数と早期警戒管制機「A50」1機を破壊したとしている。

情報筋によれば、攻撃を受けたのはTU95が27機、Tu160が4機、Tu22M3が2機、そして「おそらく」A50が1機だという。

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