悪名高い黒死病の病原体、何世紀にもわたり生き延びる仕組みが明らかに
(CNN) 中世欧州で特に暗い時代の一つは、黒死病として知られるペストの大流行期だ。わずか5年の間にペストで死亡した人は2500万人以上にのぼる。しかし、この疫病は終息しなかった。ペストは宿主をより長く生き延びさせるために適応し、より広範囲に広がり、何世紀にもわたり人々に感染し続けることに成功したのだ。今回、その仕組みが明らかになったという。
この病気は、少なくとも5000年にわたり人類の間で広まるペスト菌によって引き起こされ、1世紀以降、3度大流行している。最も深刻な時期は過ぎたように見えるが、ペストは今なお根絶していない。米クリーブランド・クリニックによると、ペストは抗生物質で治療できるものの、アジア、南米、米国で今でも年に数回、アフリカの一部ではさらに頻繁に発生している。
ペスト菌がどのように進化し、拡散していったのかはいまだ解明されていない。しかし、古代および現代のペスト菌の標本を分析した結果、大流行後もペストが数百年にわたり人類の間で存続し続けた経緯が明らかになった。初期には感染率が高く、感染した人々を3日以内に死に至らせるほど死亡率も高かったが、その後、たった一つの遺伝子の改変によって、致死性が低く伝染性の高い新たな系統が生み出されたという。先月29日にサイエンス誌に掲載された研究で明らかになった。
これらの弱毒化された系統は最終的に絶滅し、今日に優勢な系統はより致死性の高いものだと研究著者らは報告している。しかし、ペスト菌の適応に関する過去の事例からの発見は、科学者や医師が現代の疫病の流行に対処する上で重要な手がかりになり得る。
3度の流行
ペストの最も一般的な形態は腺ペストで、リンパ節に痛みを伴う腫れを引き起こす。感染したネズミに寄生するノミに刺されることで感染する。1347年から52年にかけて欧州で発生した腺ペストが、大陸の人口の約30~50%にあたる死者を出したことは有名だ。最も古い腺ペストは、地中海盆地で発生し、541年から44年まで続いた。1850年代には中国でも発生し、94年に大規模な流行を引き起こした。科学者たちは、現代のペストをこの第3次パンデミック(世界的流行)の一部と見なしている。
今回の研究では、第1次および第2次パンデミックの発生から約100年後のものとされるデンマーク、欧州、ロシアの人骨からペスト菌の標本を採取。採取したペスト菌株のゲノムを再構築したうえで、パンデミックが始まったときの菌株と比較した。
その結果、「pla」と呼ばれる遺伝子のコピー数が少ないことが判明したという。カナダ・マクマスター大学古代DNAセンターの博士課程学生で、研究の筆頭共著者ラブニート・シドゥ氏によると、plaはペストの致死性を際立たせた要因の一つとして数十年にわたり認識されてきた。
plaは宿主のタンパク質と相互作用する酵素をコードする。その機能の一つは血栓の分解だといい、ペスト菌が宿主のリンパ節に広がり、複製されてから体の他の部位を攻撃するのを助けるという。
コピー数の減少がペスト菌の致死率に直接影響するかどうかを明らかにするため、研究者らはpla遺伝子を減らした腺ペスト株をマウスで試験した。すると、pla遺伝子の量が通常のペスト菌に感染したマウスよりも生存率が10~20%高いことがわかった。また、再構築された腺ペスト株は宿主を死亡させるまでに約2日長くかかった。