考古学的遺物に残る謎の赤い印、警察の鑑識課が解明に一役 スペイン中部

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真ん中に赤い印の入った細長い石。ネアンデルタール人による象徴的な芸術行為の証拠か/Álvarez-Alonso, D., de Andrés-Herrero, M., Díez-Herrero, A. et al./Springer Nature

真ん中に赤い印の入った細長い石。ネアンデルタール人による象徴的な芸術行為の証拠か/Álvarez-Alonso, D., de Andrés-Herrero, M., Díez-Herrero, A. et al./Springer Nature

(CNN) スペイン中部の研究者らが、人間の指紋の付いた欧州最古級の記号的遺物を発見した可能性があると主張している。数万年前のこの遺物にまつわる謎の解明には、普段犯罪捜査に従事する鑑識の専門家が一役買った。

指紋が付いたとみられる当該の石は、セゴビアにあるサンラサロ岩窟住居で見つかった。新たな研究によれば、この石の存在は、ネアンデルタール人が象徴的な芸術を生み出す能力を備えていた可能性を示唆するという。約4万年前に絶滅したネアンデルタール人を巡っては、洞窟の表面に刻印や彩色を施していたとする証拠が近年相次いで見つかっており、想像力や認識能力の面で従来の想定よりも現生人類に近い部分があったとの見方が強まりつつある。

今回の石は、スペインの研究者らが2022年7月の発掘で見つけたもの。調査に関連する論文が24日付の科学誌に掲載された。論文によるとサンラサロは、ネアンデルタール人が暮らしていた住居遺跡として知られる。

研究者らが当該の石を発見したスペイン・セゴビアにあるサンラサロ岩窟住居/Herrero, A. et al./Springer Nature
研究者らが当該の石を発見したスペイン・セゴビアにあるサンラサロ岩窟住居/Herrero, A. et al./Springer Nature

当該の石については、一目見たときから研究者らも学生も全員が「顔のように見える」と思っていた。マドリード・コンプルテンセ大学で先史時代を研究するマリア・デ・アンドレス・エレロ教授はそう振り返る。ネアンデルタール人に関する発掘で、このような遺物が見つかるのは予想外だったという。

石は本来川底の近くにあったものを岩窟住居まで意図的に持ってきたと研究者らは考えている。住居内の他の遺物と異なり、表面の赤い点が目を引くこの石には、実際に何かに使用された形跡が見られない。

赤い点に何らかの意味があると感じたエレロ氏らは、そこに指紋が残っている可能性を確かめるべく、警察の鑑識課に連絡を取った。

研究者らも学生も、石を一目見たときから「顔に見える」と思っていたという/Herrero, A. et al./Springer Nature
研究者らも学生も、石を一目見たときから「顔に見える」と思っていたという/Herrero, A. et al./Springer Nature

ネアンデルタール人の謎を解明

普段は犯罪捜査に従事する専門家の助けを借りて、研究者らは赤い点の中に指紋が存在することを確認した。エレロ氏とチームは指紋に対して炭素年代測定法を実施。約4万3000年前のものだと突き止めた。

エレロ氏によれば当初鑑識課の職員らは、4万3000年前の遺物から指紋が見つかったことに懐疑的だったという。彼らが捜査で探し出すのは、数日から1カ月前といったごく最近付いた指紋だからだ。

鑑識技術と光線分析を駆使して、職員らと研究チームは赤い点の中の指紋を識別することに成功した。ネアンデルタール人の指紋を確認するために鑑識の技術が使用されたのは初めてだとエレロ氏は指摘する。

識別の結果、鑑識は指紋がネアンデルタール人の成人男性1人のものである公算が大きいと確認することができた。

赤い点の拡大画像。石に付着した年代は4万3000年前で、ホミニン(ヒト族)の完全な指紋としては最古のものとなる可能性がある/Herrero, A. et al./Springer Nature
赤い点の拡大画像。石に付着した年代は4万3000年前で、ホミニン(ヒト族)の完全な指紋としては最古のものとなる可能性がある/Herrero, A. et al./Springer Nature

エレロ氏によると当該の遺物の指紋は、ホミニン(ヒト族)の完全な指紋として最古のものかもしれない。1963年にドイツで見つかった指紋はこれより古い可能性があるが完全ではなく、部分的に残った状態となっている。

サンラサロの指紋はまた、顔料の付着した最古の指紋かもしれない。研究者らは土の顔料である黄土が指の先端に付着しているのを確認することができた。

研究者らが用いた統計モデルによると、石の印は「漫然とではなく」意図的に付けたものだという。

自動生体認証システム(ABIS)を用いた指紋の分析画像/Herrero, A. et al./Springer Nature
自動生体認証システム(ABIS)を用いた指紋の分析画像/Herrero, A. et al./Springer Nature

一つの仮説として、石の表面のくぼみは目、口、顎(あご)といった顔の部位にも似ている。その場合赤い点は、鼻の位置を表しているのかもしれない。仮説の通りなら、石の表面の印は象徴的な目的を持ったある視覚的記号を構成するとみられる。

論文ではこうした石の特徴を「例外的」と位置づけている。

ネアンデルタール人対現生人類

確かなことを知る術はないものの、エレロ氏は今回の発見に関して、ネアンデルタール人と現生人類を隔てる線が一段と細くなる経緯を示すものと捉えている。

「彼ら(ネアンデルタール人)は物体から人の顔を認識することができた。ちょうど我々が雲の形からライオンを認識するように」(エレロ氏)

エレロ氏は今後も鑑識の技術を通して「肉眼では見えない遺物」をさらに多く調査し、過去に対する知見を得る手掛かりにしたいと考えている。

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