千年以上前に埋められたアングロ・サクソン時代の謎の容器、考古学者らが中身を解明
(CNN) 英イングランド東部サフォーク州にある遺跡サットン・フーから出土した謎めいた遺物について、考古学者らがこのほど重要な事実を突き止めた。サットン・フーは7世紀のアングロサクソン時代の「船葬墓」が発見された遺跡として有名。
当該の遺物は東ローマ帝国時代の6世紀に作られた容器の一部で、1986年にトラクターで土を耕している際偶然見つかった。それ以降、研究者を魅了し続けている。
容器の表面にはアフリカ北部の狩猟の場面が描かれている。戦士数人と武器一式にライオンが数頭、猟犬1匹の姿が確認できる。専門家によれば容器の起源は東ローマ帝国で、現在のトルコに位置するアンティオキアで製作された。ブリテン島東岸地域に持ち込まれたのはその1世紀後とみられる。
昨夏の発掘で、同じ容器の破片を含んだ土の塊が出土した。慎重な分析により、表面に描かれた事物の詳細が一段と明らかになっていた。
研究チームは容器の驚くべき中身についても解明した。それは火葬にされた動物や人間の骨で、容器が埋められた理由に一段の光を当てる発見となっている。焼けた骨と共に、研究者らは思いがけず無傷の櫛(くし)も発掘した。これには当該の人物のDNAに関する証拠が含まれている可能性がある。1000年以上前に葬られたこの人物は、高い地位にあった公算が大きい。
予想外の副葬品
当該の土の塊は英ブラッドフォード大学でCTスキャンとX線検査を行った後、ヨークの歴史保存に携わるヨーク考古学トラストに送られ、さらなる分析を実施した。昨年11月のことだ。人骨や有機残存物、遺物の保存を研究する専門家らが容器の内側の土壌を丹念に取り除き、徐々に姿を現す個々の破片を分析した。
こうした慎重な手法で見つかった火葬後の人骨には、足首や頭蓋骨(ずがいこつ)などの部位が含まれる。歴史的名所や景勝地の保護に取り組む団体、ナショナル・トラストが発表し、明らかにした。研究者らは動物の骨の残存物も発見。初期段階の分析では豚よりも大きな動物の骨とみられている。初期アングロ・サクソン時代の火葬用の薪(まき)には、一部に馬の骨が使われることが多かったと研究者らは指摘。これには死者の地位の高さを反映する意図があったとされる。
骨の残存物が密集していることや興味深い未知の繊維の存在が確認されたことから、人骨は元来袋に入った状態で容器に収められたと考えられる。しかし一部の骨の破片は容器のすぐ外からも見つかっており、それらの骨には容器の銅合金の痕跡が付着している。従ってそうした骨もまた容器の外に、同じタイミングで埋められたことが示唆されると、研究者らは指摘している。

火葬にされた人骨と動物の骨が、容器の底の部分から見つかった/FAS Heritage
これらの人骨や動物の骨については現在、さらなる背景を明らかにするべく、一段の研究と放射性炭素年代測定が行われている。
研究者らは精巧に作られたほぼ無傷の櫛も回収した。櫛は両側に歯があり、それぞれ歯の細さが異なる。鹿の角でできている公算が大きく、人骨と違って燃やされてはいなかった。
鹿の角で作られた櫛はこれまでも副葬品として出土している。大きさは様々で、男女の埋葬跡から等しく見つかる。髪や髭(ひげ)をとかし、シラミを取り除くのに使用したとみられる。

両側に歯が並んだ櫛は、現地の強酸性の土壌を考慮すれば驚くほど保存状態が良い/FAS Heritage
今回発見された人骨の破片からは性別を判定できていないが、研究者らは櫛から採取する古代のDNAを通じて埋葬された人物の詳しい特徴が解明できると期待を寄せている。
また容器の内側から見つかった葉などの植物の残存物からは、容器が埋められた季節、気候、環境に関する手掛かりも得られるという。
長い旅
容器の底は一つの部位で構成され、驚くほど保存状態が良い。CTスキャンの結果、金属を熱することなく打撃を加えていく手法で成形されたことを示す痕跡が見つかった。現時点で、容器に蓋(ふた)があったことを示唆する証拠は確認されていない。
容器の本来の目的や、イングランドに到着した経緯に関する疑問は依然として解明されていない。外交上の贈答品か、傭兵(ようへい)として戦ったアングロ・サクソンの戦士が入手した可能性があると研究者らはみている。

細い筆を使って、容器の中身の表面に付着した埃を丁寧に取り除いていく研究者ら/FAS Heritage
ナショナル・トラストでサットン・フー遺跡を担当するローラ・ハワース氏は電子メールで取材に答え、「この容器が何百キロも離れた東ローマ帝国で作られ、どうやってこのサフォーク州の片隅にたどり着いたのか、確実なことは言えない。埋葬時には骨董(こっとう)品として、贈答や記念のために用いられた可能性がある。この豪華な品を火葬用の容器に再利用していることは、埋葬された個人の地位と関係性について何らかの示唆をもたらしてくれる」と述べた。
その上で、今回の発見のおかげで埋葬を背景とした当該の容器の再定義が可能になったとの見解を示した。