OPINION

「暗く、恐ろしく、狭苦しい」、ハマスのトンネル内部の様子とは

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謎に包まれたガザのトンネル網、CNN記者が語るその実態

(CNN) パレスチナ自治区ガザ地区にイスラム組織ハマスが築いたトンネルは、イスラエル軍の主要な標的となっている公算が大きい。同軍は先月7日に起きたイスラエル南部へのテロ攻撃を受け、ガザへ攻勢をかけている。ハマスは相当数の戦闘員と武器を地下に収容しているとみられる。特定されない人数の人質もそこにいると考えられる。イスラエル政府は239人の人質がハマスにより拘束されていると推計する。

ピーター・バーゲン氏/CNN
ピーター・バーゲン氏/CNN

トンネルの専門家の1人に、ダフネ・リシュモンバラク博士がいる。同氏の著書「Underground Warfare(仮訳:地下の戦争)」に関心を寄せていたのは、3週間前までの時点では主として軍事史を専攻する学生たちだった。

イスラエルの都市ヘルツリーヤにあるライヒマン大学ローダー政府・外交・戦略大学院の教授を務めるリシュモンバラク氏は、地下での交戦に関する国際的な作業部会を立ち上げた。

ダフネ・リシュモンバラク氏/Courtesy Daphne Richemond Barak
ダフネ・リシュモンバラク氏/Courtesy Daphne Richemond Barak

ベトナム戦争中、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)はトンネルを広範囲に活用して身を隠し、米軍と戦った。第1次世界大戦中は、英国が大規模攻撃をトンネルからドイツ軍に向けて仕掛けた。1917年、ベルギーにおけるメセンの戦いではそうした攻撃でドイツ軍の兵士1万人が死亡した。

リシュモンバラク氏は、著書の執筆を2013年に開始した。当時、1本の高度な越境トンネルが約1.6キロの長さ、最大18メートルの深さでハマスによりガザからイスラエル領に掘られた。トンネルはこの後、イスラエル当局に発見された。

それから10年、同氏はハマスのトンネル網について広範な調査を実施。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが築いた地下のネットワークも研究した。

後者を理解することは今後重要になるだろう。ヒズボラとイスラエル軍は先月から定期的に砲火を交え、イスラエル北部におけるレバノン国境地域での全面戦争に発展しかねない状況にある。

ピーター・バーゲン: ハマスのトンネルの内部とはどのようなものなのか? どのような感じがして、どんな臭いがするのか?

ダフネ・リシュモンバラク:入ってみれば湿気が多く、暗い。恐ろしくて、狭苦しい環境だ。文字通り、すぐそこに何があるのかも分からない。

また夜は非常に冷えるし、息も詰まる。空気の量はあまり多くない。長く入る場合は、酸素が必要になる。兵士であればなおさらだ。一部のトンネルは、腰を低くしなくては入れない。あまり高さがないから。

これらのトンネルの一つにあまり素早く入り込むと、方向感覚を完全に失う。どこから来てどこへ向かうのか全く分からなくなる。簡単に道に迷い、すぐに混乱する。人によってはそれが大きな問題になる場合もある。

狭苦しさを覚えるのに加え、時間の感覚もなくなる。トンネル内に2時間いるように感じても、実際には20分だけということもあるかもしれない。

ガザの地下トンネル内に浮かび上がるハマス戦闘員の影=2014年撮影/Mohammed Salem/Reuters/File
ガザの地下トンネル内に浮かび上がるハマス戦闘員の影=2014年撮影/Mohammed Salem/Reuters/File

バーゲン:ハマスはこれらのトンネルの中でどのように連絡を取り合っているのか? というのも恐らくは、無線通信といった類いのものは通じないだろうから。

リシュモンバラク:もちろん、携帯電話も問題外だ。その点はハマスに影響を及ぼす。トンネル網を活用するため、自分たちの間での連絡を可能にする方法を見つける必要がある。ただイスラエル国防軍(IDF)もまた、そこから影響を受ける。彼らがトンネルの中に入った場合、どのようにして地下の部隊同士の連絡を維持するのか? 地上の部隊との連絡も同様だ。

バーゲン:トンネル進入のための訓練施設をイスラエル軍は持っている。施設の成り立ちと機能を教えてほしい。

リシュモンバラク:2014年のガザでの「境界防衛作戦」(イスラエルによる対ハマス作戦で、空爆と地上侵攻の両方から50日間展開した)が警鐘となり、イスラエルは地下トンネルの問題に戦略的観点から目を向け始めた。

「境界防衛作戦」の間、イスラエル軍兵士はハマスのトンネルに進入したが、訓練も装備も施してはいなかった。その状態でトンネル内での戦闘を戦った。

「境界防衛作戦」の結果、イスラエルは多くの対策を取った。トンネルの探知技術だけでなく、こうした地下の環境での訓練にも取り組んだ。

地下戦闘のあらゆる側面に極めて精通したエリート部隊も創設した。

加えて彼らは、地下戦闘における基礎的な訓練を開始。兵士らにトンネルの回避や制圧の方法を身につけさせた。兵士らはトンネルに入らなくてはならない場合、どのような装備が必要になるのかも理解した。別種の環境のみならず、別種の戦闘に対する準備も整えなくてはならない。

IDFはまた、シミュレーターも活用した。兵士らは仮想現実(VR)のゴーグルを装着し、仮想のトンネルの中へと入っていく。とはいえ、それは実際のトンネル内にいるのと同じではない。それを経験するためには本物のトンネルの中に入る必要があるが、そこで直面する課題の一つは意思決定だ。扉があった場合どうするか? 扉を破るのか? その場合どのような方法を取るのか?

バーゲン:なぜトンネルなのだろうか?

リシュモンバラク:なぜだろうか? トンネルを掘るのは時間がかかるし、資源を集約させなくてはできない種類の作業だ。穴掘りは長い時間を要する。トンネルの場所は秘密にしておかなくてはならない。従ってポイントは、そこに極めて巨大な資源が投下されていることだ。トンネル内に足を踏み入れれば、こうした資源の投下を非常に強力な形で思い知る。ヒズボラのトンネルでは特にそうだ。なぜならそれらは、イスラエル北部国境付近の固い岩を掘り抜いたトンネルだから。より正確を期すなら、この場合は掘削したと言うべきか。

トンネルはより高度な敵の軍事的能力を無力化する。双方の戦力差を見事に均一化する機能がある。

バーゲン:イスラエル軍の兵士で06年から11年までハマスに拘束されていたギルアド・シャリート氏について、あなたの著書を読むと、拘束に当たりトンネルが重要な役割を果たしていたことがよく分かる。ことが起こった経緯を説明してもらえるだろうか?

リシュモンバラク:ハマスは密輸用のトンネルを使用して、シャリート氏を監禁状態に置いた。これが意外だったのは、当該のトンネルがそれまでそのような目的では使われていなかったからだ。イスラエルは驚愕(きょうがく)し、はたと気がついた。ちょっと待て。恐らく我々は、もっとこれらのトンネルに注意を払った方がいいかもしれない、と。IDF兵士の誘拐は、戦略的に重要な事案と見なされるのだから。結局のところ、イスラエルは約1000人のパレスチナ人の囚人を釈放することを条件にシャリート氏を取り戻さざるを得なかった。

バーゲン:イスラエル軍にとって目下の重大な懸念の一つは、これらのトンネルがさらなる兵士の拘束に使用されかねないという点だろう。

リシュモンバラク:全くその通りだ。兵士の拘束はイスラエルでは常に戦略的な種類の事案と認識される。従って、人質が増えることはこの段階で壊滅的な影響を及ぼすだろう。

バーゲン:トンネルがこの戦争で果たす役割は、どれほど大きなものとなるだろうか?

リシュモンバラク:イスラエルもよく分かっていることだが、ハマスの軍事的能力を排除もしくは破壊するには、こうしたトンネルの地下ネットワークを取り除かなくてはならない。ハマスはトンネル内に武器庫や指揮統制の拠点を有している。ネットワーク全体を排除すると言っているのではない。それはまず不可能だろうから。ただその機能に甚大な打撃を与える必要はある。「境界防衛作戦」の時より格段に強力な攻撃が求められる。

ハマスは地形を知り尽くしている。戦闘員の移動は容易に行えるし、自分たちのトンネル内で道に迷うこともない。過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が、イラクのモスルやシリアのラッカでやったことと大差はない。ISISにとってはこれが、有志連合と戦う上での最後の手段だった。戦闘は地下へと移動した。

しかし、ハマスの地下の軍事インフラ排除という戦略的な目的を達成するのであれば、その方途は地上部分での侵攻とはならない。

バーゲン:イスラエルはトンネル内で軍用犬部隊を使用するか?

リシュモンバラク:そう。軍用犬はこうした環境に突入する訓練を受けている。

バーゲン:ロボットについてはどうか?

リシュモンバラク:そのようなロボットに必要なのは、湿った地面を歩行する能力だ。

トンネルの底には通常水たまりがあるから。湿気も多い。はしごや階段も上れなくてはならない。

バーゲン:他に効果的と思われるものは?

リシュモンバラク:高圧水でトンネルの構造を破壊できるだろう。通常の水でトンネルを水浸しにするより格段に大きな攻撃を加えられる。地面は一定量の水を吸収できるのを忘れてはならない。

現在、トンネルには民間人がいる可能性があり、人質もいる公算が極めて大きい。最初にトンネル内の状況を明確にする必要がある。もし人質がトンネル内にいるなら、当然ながら作戦はより困難になる。高圧水は使えなくなるだろう。

バーゲン:戦争が拡大した場合、ヒズボラのトンネルに関してはどうか?

リシュモンバラク:トンネルの探知がいかに難しいかを説明するには、「ノーザンシールド作戦」に言及すればいい。これはイスラエルが立ち上げた18年の作戦で、ヒズボラの掘った越境トンネルを発見するのが目的だった。

作戦の前にイスラエルは探知技術を大幅に向上させていた。だが、ガザの地盤は軟らかいのに対し、ヒズボラが掘り進めたのは固い岩で、地形の種類が異なっている。

「ノーザンシールド作戦」でのイスラエルは、戦闘行為がなかったにもかかわらず、6本のトンネルを見つけるのに6週間かかった。

たとえ情報を入手し、トンネルがあるとみられる地点を絞り込めていたとしても、また最も高度かつ有用なトンネル探知の手段を得ていたとしても、実際にトンネルを発見するにはなお相当量の時間がかかることになるだろう。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授、ポッドキャスト番組の司会者も務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

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