CNN EXCLUSIVE

ロシアがスーダンで奪う金、ウクライナ侵攻を後押し

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CNN記者、スーダンにあるロシア事業のスタッフと対峙

スーダン・ハルツーム(CNN) ロシアがウクライナに残忍な戦争をしかけてから数日後、赤茶色の砂に囲まれたスーダン首都ハルツームの滑走路にはロシアの貨物機の姿があった。積み荷目録にはクッキーと記載されている。スーダンからクッキーが輸出されることは、仮にあったとしても、ごくまれだ。

ハルツーム国際空港のバックオフィスでは、職員の間で激しい議論が繰り広げられていた。機内検査をすることで、親ロシア色が強まりつつあるスーダン軍指導部の機嫌を損ねるのを職員たちは危惧していた。これまで何度か怪しいロシア貨物機の出発を阻止しようとしたこともあるが止められていた。だが最終的に、職員は機内に乗り込むことに決めた。

貨物室の中には、色とりどりのクッキーの箱がずらりと並んでいた。箱の真下に隠されていた木箱には、スーダンでもっとも貴重な資源が納められていた。金だ。ざっとみて1トンはあった。

この1年半、アフリカ第3の貴金属産出国スーダンからロシアが金を密輸したのは、わかっているだけでも16回。そのうちの1回が、スーダン当局筋がのちにCNNに語った今年2月のこの出来事だ。

スーダン政府高官や米国政府職員との度重なる取材や、CNNが検証した山のような文書から、ロシアの巧妙な策略が浮かび上がってくる。厳しさを増す西側諸国からの制裁に対抗し、ウクライナでの戦争を支えようと、スーダンの富を略奪しているのだ。

ロシアが苦境にあるスーダン軍指導部と手を組んで、スーダンの国家機構を迂回(うかい)して数十億ドル相当の金を持ち出し、貧困国の歳入となるはずだった数億ドルを奪っていることも証拠から示唆されている。

それと引き換えに、ロシアは次第に人望を失っているスーダン軍指導者に政治的・軍事的支援を提供している。そして軍指導部は同国の民主化運動を暴力で制圧する。

重要地点の説明。スーダン中部にある首都ハルツームの空港は金の密輸に使われる。北東部アルイバイディヤには周辺から集まった金を処理する工場があり、制裁対象企業メロイー・ゴールドのダミー会社が所有している。紅海に面するポートスーダンの空港からは国外に金が密輸され、ロシアの運営する便がロシア軍の大規模基地があるシリア・ラタキアに飛ぶ。陸路では南西にある隣国中央アフリカへに金が運び出される。中央アフリカではロシアが関係する民間軍事会社ワグネルが政権を後ろ支えする/Source:Official Sudanese sources, the Dossier Center and Gerjon
重要地点の説明。スーダン中部にある首都ハルツームの空港は金の密輸に使われる。北東部アルイバイディヤには周辺から集まった金を処理する工場があり、制裁対象企業メロイー・ゴールドのダミー会社が所有している。紅海に面するポートスーダンの空港からは国外に金が密輸され、ロシアの運営する便がロシア軍の大規模基地があるシリア・ラタキアに飛ぶ。陸路では南西にある隣国中央アフリカに金が運び出される。中央アフリカではロシアが関係する民間軍事会社ワグネルが政権を後ろ支えする/Source:Official Sudanese sources, the Dossier Center and Gerjon

米国政府の現職および元職員がCNNに語ったところでは、ロシアは2021年にスーダンで起きた軍事クーデターを積極的に支援していたという。暫定文民政権を転覆させたこのクーデターは、その2年前にオマル・バシル大統領を失脚させたスーダンの民主化運動に壊滅的な痛手を負わせた。

「ロシアがスーダンの天然資源を搾取していることは、ずいぶん前から知っていた」と事情に詳しい元米国職員はCNNに語った。「こうした資源へのアクセスを維持するために、ロシアは軍事クーデターを支援したのだ」

「全世界が(ロシアを)包囲する中、ロシアがスーダンの将官とこうした関係を結び、彼らが権力の座に居座れるよう力添えをすることで得られるものは大きい」と元職員は続けた。「そうした『力添え』は、軍事訓練や諜報(ちょうほう)支援に始まって、奪ったスーダンの金の利益配分に至るまで多岐にわたる」

このようなロシア政府とスーダン軍事政権による持ちつ持たれつの関係の中心にいるのが、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)でウラジーミル・プーチン大統領の重要な協力者であるエフゲニー・プリゴジン氏だ。

厳しい制裁を科されている61歳のプリゴジン氏が牛耳る怪しげな企業ネットワークには、準軍事組織ワグネルもある。シリアや中央アフリカなど戦争により荒廃した国々で、拷問や大量殺戮(さつりく)、略奪に関与したとみられる組織だ。プリゴジン氏はワグネルとの関係を否定している。

スーダンにおけるプリゴジン氏の足がかりとなっているのがメロイー・ゴールド社だ。同社はプリゴジン氏が所有するMインベスト社の子会社で、米国の制裁対象にもなっている。CNNが確認した請求書によれば、同社は金採掘を行う一方で、スーダン軍や民兵組織に武器や軍事訓練を提供している。

「プリゴジン氏はメロイー・ゴールドや自社従業員とゆかりのある企業を通じてアフリカ諸国に介入し、現地政府を支援する見返りとして、これらの国々の経済資源を略奪する戦略を作り上げた」。こう語るのは、ロンドンに拠点を置くドシエセンターの調査員デニス・コロトコフ氏だ。同センターではロシア政府と関わりのある様々な人物の犯罪活動を追っている。創設者のミハエル・ホドルコフスキー氏はかつてロシア最大の富豪だったが、現在はロンドンで亡命生活を送っている。

CNNはドシエセンターの協力を得て、ワグネルの上級工作員のうち少なくとも1人、アレクサンドル・セルゲービチ・クズネツォフ氏が、ここ数年スーダンの主要な金採掘地や加工・搬送地で操業の監督をしていることを突き止めた。

「ラチボア」や「ラジーミル」の呼び名で知られるクズネツォフ氏は誘拐の前科があり、隣国リビアでは戦闘に参加し、14年にはワグネル最初の攻撃偵察隊の指揮を執った。ロシアの勇敢勲章を4度授与され、17年にはプーチン大統領やワグネルの創設者ドミトリー・ウトキン氏と並んで写真にも写っている。21年には、欧州連合から制裁対象とされた。

スーダン軍指導者とロシアの癒着が深まることで、複雑な金密輸ネットワークが生まれた。スーダン当局筋の証言や、飛行機の運航を追跡するツイッターユーザーGerjonの協力でCNNが検証したフライトデータによれば、昨年スーダン当局は少なくとも16本のフライトを阻止しようとしたが、それはいずれもロシアの主要空軍基地があるシリアの港町、ラトキア発着の軍用機だった。

複数のスーダン当局筋やドシエセンターによれば、金の輸送は陸路でも行われ、ワグネルが圧政政権の後ろ盾となっている中央アフリカに運ばれる。ワグネルは中央アフリカで国民に対する残虐極まりない戦術を実施したと報じられている。

CNNはロシア外務省、ロシア国防省、プリゴジン氏が運営する企業グループの親会社にコメントを求めたが、いずれからも返答はなかった。

CNNの調査結果に対し、米国務省の報道官は「こうした問題は我々も注意深く監視している。これにはメロイー・ゴールドや、ロシアが支援するワグネルグループ、スーダンやこの地域、金取引を通じた他の制裁対象者の報道された行動も含まれる」と述べた。

「人権を尊重し、民主的で繁栄した国を追求するスーダン国民を我が国は支援する」と報道官は付け加えた。「スーダン軍関係者には、ワグネルやメロイー・ゴールド、その他人物が及ぼす悪影響に対する我々の懸念を今後も引き続き明言していく」

裏に消えていくロシアの取引

スーダンの金にロシアが本格的に干渉を始めたのは14年、クリミア侵攻で西側諸国から相次いで制裁を科された後だった。金の輸送は富の蓄積と移動に効果的な方法であることが証明された。国際金融監視システムを回避しながら、ロシア政府の懐を潤すことができた。

「金の欠点は物体であるため、使用の際は国際送金よりもはるかにかさばるという点だ。だが裏を返せば、不可能ではないにしても、その凍結や押収はずっと困難なものになる」と、制裁に詳しいシラキュース大学政治学部のダニエル・マクドウェル准教授は語った。

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