シリアへ大規模攻撃、イスラエルが守るドルーズ派とは

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15日、シリア南部の都市スウェイダで立ち上る黒煙/Getty Images

15日、シリア南部の都市スウェイダで立ち上る黒煙/Getty Images

(CNN) シリアが新たな暴力の波に襲われている。宗派対立に根差す暴力で死者が出る中、注目を集めているのがアラブ系の少数派ドルーズ派だ。今や彼らは、イスラエルとの緊張が高まる現地情勢の中心を占めている。

シリア南部の都市スウェイダでは今週、政権支持派とドルーズ派の民兵が衝突。数十人が死亡し、シリア軍が介入する事態となった。すると今度はイスラエルが、ドルーズ派を守るとの名目で空爆を実施。シリア南部での勢力圏を拡大している。

現状で知るべき内容を以下に挙げる。

今週起きたこと

シリア軍がドルーズ派の拠点である南部スウェイダに入ったのは15日。きっかけは週末にかけて起きた同派武装勢力とアラブ遊牧民ベドウィンとの衝突だった。軍のスウェイダ入りにより、少数派が攻撃を受ける懸念が改めて噴出した。

当該の衝突では15日時点で少なくとも30人が死亡、数十人の負傷者が出ていた。

シリア政府と連携したイスラム教徒の部隊が今週戦闘に加わったことで、ドルーズ派の間では不安が高まり、共同体の主要人物が国際社会に保護を求める事態に発展した。

イスラエルはシリア国内のドルーズ派を守ると明言し、シリア政府軍に対する爆撃を開始した。スウェイダに向けて前進し、引き続き爆撃によって同派を保護すると約束した。

シリア外務省は複数の民間人と治安部隊要員が爆撃で死亡したと発表したが、具体的な人数は明らかにしなかった。同省はイスラエルの攻撃をシリアの主権に対する「あからさまな侵害」と非難した。

CNNはイスラエル国防軍に連絡を取り、民間人の死者についてコメントを求めている。

米国のシリア特使を務めるトム・バラック氏はこれらの衝突について、全ての当事者が不安を覚える事態であり、ドルーズ派、ベドウィン、シリア政府、イスラエル軍にとって平和的な結果が訪れるよう取り組んでいることを明らかにした。

一方、アクシオス記者でCNNアナリストでもあるバラク・ラビド氏はX(旧ツイッター)への投稿で、トランプ政権がイスラエルに対し、シリア南部での同国軍への爆撃を止めるよう求めたと述べた。ある米当局者からの情報としたが、その名前は明かさなかった。この当局者によると、イスラエルは15日夜に攻撃を停止すると約束したという。

しかし16日、イスラエルのカッツ国防相は、シリア政府軍が当該地域から撤退しなければスウェイダの同軍への攻撃を強化すると明言した。

その後イスラエルの攻撃は激しさを増し、シリア首都ダマスカスにある国防省の建物や大統領府に近い地域を狙った爆撃が行われた。

ドルーズ派とは

ドルーズ派はアラブ系の一派で、ざっと100万人が主にシリア、レバノン、イスラエルに居住している。シリア南部のスウェイダ県では、ドルーズ派が多数派を形成。10年に及んだシリア内戦中、同派の共同体はアサド前政権の軍隊と過激派組織との間で板挟みになることもあった。

11世紀のエジプトに起源を持つドルーズ派はイスラム教の分派で、改宗や宗教間の結婚を禁じている。

シリア国内のドルーズ派の共同体は、イスラエルが占領するゴラン高原に近い南部3県の周辺に集中している。

2万人以上のドルーズ派が暮らすゴラン高原は戦略的高地で、イスラエルが第3次中東戦争でシリアから奪取。81年に正式に併合した。ドルーズ派はこの領土を約2万5000人のイスラエル人入植者と共有する。彼らは30を超える集落で生活している。

ゴラン高原で暮らす大半のドルーズ派は自らをシリア人と認識し、イスラエルによる制圧時にも同国の国民となるのを拒んでいる。拒否したドルーズ派はイスラエルの在留カードを付与されたものの、イスラエル国民とはみなされていない。

イスラエル軍は16日、数百人のドルーズ派がゴラン高原を越えてシリアに移動したと述べた。ドルーズ派の指導層から支援を求められ、それに応じたとみられる。

シリア軍がドルーズ派と衝突する理由

長期独裁を敷いたアサド政権を転覆した後、シリアの新大統領に就任したアフマド・シャラア氏は、国内の多様な共同体を全て保護すると約束した。しかし同氏に忠実なスンニ派の過激主義者らは、その後も宗教的少数派との暴力的な対立を続けた。

4月には親政権派の武装組織とドルーズ派の民兵が衝突し、少なくとも100人が死亡した。

シリア新政府とドルーズ派の関係を緊迫化させている重要な問題は、同派民兵の武装解除と統合だ。シャラア氏は複数の武装組織を統合し、一つの軍隊にまとめようとしているが、ドルーズ派との間ではまだ合意を成立させるに至っていない。ドルーズ派は自分たちの武器の保持と、民兵としての独立を強く主張している。

シリア親政権派とドルーズ派の武力衝突は11日、双方が行った誘拐行為をきっかけに発生した/Getty Images
シリア親政権派とドルーズ派の武力衝突は11日、双方が行った誘拐行為をきっかけに発生した/Getty Images

ドルーズ派の一部はアサド前大統領時代の権威的な統治に反発しており、シャラア氏に対しても依然警戒感を抱く。新政府にドルーズ派の閣僚は一人しか選ばれておらず、自分たちの声が限られた範囲でしか考慮されていないとする懸念が表面化している。

シリア政府は今回の衝突における停戦合意が結ばれたと主張しているが、現状では合意が持続するのか、あるいは実際に発効するのかさえ依然として不透明だ。ドルーズ派の指導者の間でも停戦に応じるのかどうかを巡っては見解が分かれている。

イスラエルが介入した理由

15日、イスラエルのネタニヤフ首相は、国内にいるドルーズ派との深い連帯を理由にシリアのドルーズ派を危害から守ると約束。両国のドルーズ派の間には家系的、歴史的な結びつきがあると示唆した。

イスラエル北部のカルメル地方とガリラヤ地方には13万人程度のドルーズ派が生活する。イスラエル国内に住む他の少数派と異なり、57年以降ドルーズ派の18歳以上の男性はイスラエル軍で兵役に就いており、しばしば高い地位に登用されている。その他、警察や治安部隊でキャリアを築く人々も多い。

イスラエル政府はまた、シリア南部の非武装化を一方的に宣言。首相府によると同地域への兵士、武器の導入を禁じるとしている。

シリア政府はこの宣言を拒否し、国際社会と共に再三にわたりイスラエルに対し自国の主権を侵害する軍事行動を止めるよう求めている。

イスラエルとシリアの合意は可能か

2024年12月のアサド政権崩壊以降、イスラエルはシリアでの領土掌握を拡大し、攻撃も繰り返している。目的は軍事能力再建の阻止と、イスラエルの安全保障を脅かしかねない武装勢力の殲滅(せんめつ)だという。

最も近しい同盟国の米国がシリアとの関係を正常化するよう圧力を掛けても、イスラエルの攻撃は続いている。

イスラエルはここまでシリアの新政権との直接的及び間接的な協議を行ってきた。これはアサド政権崩壊後敵対していた両国関係の変化を示唆するものだが、それでもイスラエルはシリア領土への攻撃を繰り返し、同国での軍事的存在感を高めている。

5月、シャラア氏はイスラエルとの間接協議の目的について、そうした攻撃を終わらせることだと述べていたが、それは今なお実現していない。

ネタニヤフ氏はかねてシリア新政権を「過激なイスラム政権」と呼び、イスラエルにとっての脅威とみなしてきた。5月にはトランプ米大統領に対してシリアへの制裁を解除しないよう要求。解除すればイスラム組織ハマスが仕掛けた23年10月7日の奇襲に匹敵する事態が起こる懸念もあると訴えたという。イスラエルの当局者がCNNに明らかにした。

トランプ氏は5月、サウジアラビアでシャラア氏と会談する際にシリアへの制裁を解除している。

イスラエルによるシリア攻撃は、国内での権限強化と両国関係の正常化推進を目指すシャラア氏の取り組みも困難にしている。

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