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中台の緊張関係について知っておくべきこと

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演習に参加する台湾海軍のコルベット艦=2022年1月7日撮影/Ceng Shou Yi/NurPhoto/Getty Images

演習に参加する台湾海軍のコルベット艦=2022年1月7日撮影/Ceng Shou Yi/NurPhoto/Getty Images

香港(CNN) 中国が侵略すれば米国は台湾を守るというバイデン米大統領の警告は世界中のメディアで大きく取り上げられた――民主主義の小さな島と独裁的な隣の超大国との間で高まる緊張関係も、ふたたび注目を集めている。

ほんの10年ほど前には、中台関係も修復に向かっているように見えた。もっとも近い地点は幅80マイル(128キロ)足らずの海峡で隔てられている2つの地域は、経済的・文化的にはもちろん、政治的にも関係を深めていた。だが今日、中台関係は数十年で最悪な状態を迎えている――すぐに全面戦争が起こる可能性はなおも低いと専門家がくぎを刺しつつも、軍事的にエスカレートする懸念が高まっている。

この数カ月、ロシアのウクライナ侵攻を中国が暗黙のうちに支持していることで、台湾に対する中国政府の意図をめぐる臆測はますます高まるばかりだ。仮に中国が攻撃を仕掛けた場合、世界はどう対応するのだろうかという疑問も持ち上がっている。

米政府はすぐにバイデン大統領の発言をトーンダウンさせたものの、米国ほど中台対立に深く関与している国は他にない。米国は中国・台湾と複雑な歴史を抱えており、長いこと慎重に中立の立場を保ってきた。

習近平(シーチンピン)国家主席の指導のもと中国が独裁化して米中関係が悪化したことで、台湾はこれまで以上に米国寄りになっている。それが中国の感情を逆なでし、台湾に対する圧力に拍車をかけ、台湾海峡両岸の関係もますます悪化している。

以下、米中対立の前線に立たされつつある台湾について知っておくべき事柄を見ていこう。

まずは歴史をおさらい

台湾には長らく先住民族が暮らしているが、17世紀は大清帝国の一部だった。その後1895年に日清戦争で清が敗戦したのを受け、台湾は日本に割譲された。

第2次世界大戦が終戦するまでの半世紀、台湾は日本の植民地だった。日本が連合軍に敗れると、当時中国で政権を握っていた国民党(KMT)率いる国民政府が台湾を支配下に置いた。

ほどなく国民政府――清帝国の崩壊後、中華民国(ROC)の旗頭のもと中国本土を支配していた――は、反乱を起こした中国共産党(CCP)から新たな攻撃を受けた。

血で血を洗う内乱にもつれ込み、結果として敗れた国民政府は台湾に逃れ、中華民国の拠点を南京から台北に移した。台湾海峡の反対側では中国共産党が権力を手中に収め、北京を首都とした中華人民共和国を建国した。

両者とも、自分たちこそが中国全土を支配する唯一の正当な政府だと主張した。

台北では国民政府の指導者だった蒋介石が、いつしか中国本土を奪還すると夢見ていた。北京では中国共産党の毛沢東主席が、台湾は「新しい中国」統一を完成させる最後の駒――遅かれ早かれ解決しなければならない「問題」だとみなしていた。

近年、台湾は中国本土の支配権を重視しなくなり、現在では独自の軍隊、通貨、憲法、選挙で選ばれた政府を持つ活発な民主主義を敷いている。

だが世界の大半の国々は台湾を独立国家として承認しておらず、一段と外交的孤立を深める状況ともなっている。

台湾に代わって中国と国交を結ぶ国の数は年々増えており、2021年末の段階で台湾と国交を結ぶ国はわずか15カ国にとどまっている。

中台関係における米国の役割

国共内戦では米国が国民政府を支援する一方、共産党はソビエト連邦から支持を受けた。

米国は国民政府が台湾に退いたあとも支援を続け、開発援助を通じて経済の確立を後押しした。その一方で、中華人民共和国を思想的・軍事的敵国とみなして距離を置いた。

だが1960年代に中ソ間で外交的あつれき――中ソ対立――が生じたことで、中米関係はソ連に対する対抗手段として緩和し始めた。

79年を迎えるころには多くの国々同様、米国も台湾ではなく中国と正式に国交を樹立した。

いわゆる「ひとつの中国」政策のもと、米国は中華人民共和国を中国の唯一の正当な政府と承認した。台湾は中国の一部だとする中国の立場を認めてはいるが、台湾島の主権は自分たちにあるとする中国共産党の主張は受け入れていない。

一方で米国は、数十年前に可決された台湾関係法の規定に基づいて台湾と非公式な関係を維持し、事実上の在台北米大使館にあたる米国在台湾協会を通じて通商文化交流を行っている。

また防衛用の武器を台湾に供与もしているが、中国の侵略があった場合に台湾を防衛するかといった問題はあえて明確にしてこなかった――いわゆる「戦略的曖昧(あいまい)さ」だ。

これはすなわち、米軍の反撃の可能性をにおわせることで中国を抑制し、直接対決にふたをするという戦略だ。それと同時に、台湾に米国の保証を与えないためでもある。もし保証を与えれば、台湾は正式に独立を宣言しかねない。現状維持とアジアでの戦争回避が目的だったこの戦略は功を奏し、米国は両者との間で微妙なバランスを保つことができた。

だがバイデン政権では、「戦略的曖昧さ」は以前ほど曖昧ではなくなった。バイデン大統領は就任以来、中国の攻撃の際には米国も軍事介入するという発言を3度行った――もっとも、その都度ホワイトハウスは大統領の発言の火消しに追われた。

だが今回の中国政府に対する警告はさらに象徴的な重みを持っていた――就任後初のアジア訪問中に、中国と目と鼻の先で行った発言は、同盟国や友好国と団結して高まる中国の影響力に対抗することを狙ったものだ。

当然のごとく、中国政府はこの発言に怒りの反応を示し、「強い不満と断固反対」を表明。米国による「火遊び」だと非難した。

なぜ緊張が高まっているのか

中華人民共和国の建国から数十年間は、中国と台湾の間を敵意が支配し、貿易・渡航・通信もほぼ途絶えた。軍事的対立は激しさを増し、中国は2度にわたって台湾が支配する周辺の島々を砲撃した。

だが80年代後半には緊張状態も緩和し始め、限定的ながら民間人の移動や間接的な貿易と投資も認められた。そして2015年、国民党と中国共産党の両指導者がシンガポールで歴史的会合を行い、中台関係は最高潮を迎えた。

ところが16年以降、中台関係は急激に悪化した。伝統的に親独立派の立場を取る民主進歩党(DDP)の蔡英文(ツァイインウェン)氏が、台湾総統選挙で圧倒的勝利を収めたのだ――それを後押ししたのは、国民党政権下で台湾が中国に歩み寄り過ぎていると感じた有権者の懸念だった。

習主席率いる中国は次第に外交政策でも強硬化し、国内ではますます独裁化していった。香港の民主主義や自由化に対する容赦ない弾圧により、台湾の人々も「中国の支配下に置かれれば自分たちも同じ運命をたどるかもしれない」と恐れ、さらに中国と距離を置くようになった。

緊張状態がことさら高まっている背景には、中国軍が台湾への圧力を強める現状がある。これは中国政府から見れば、米台両政権による「挑発」への対応ということになる。

紛争化の可能性は?

中国の軍事行動が表面化した21年、台湾の国防部は中国が25年までに台湾に「全面的」侵略を仕掛けるだろうと警告を鳴らした――これを引き金に、武装紛争の可能性をめぐる議論が持ち上がった。

米ジャーマン・マーシャル財団アジア部のボニー・グレイサー部長は、中国の軍事活動や軍事演習は台湾と米国に対して「最後の一線を越えるな」とあらためてくぎを刺しているのだと語る。同氏によれば、そうした最後の一線には台湾の正式な独立に向けた活動や、米軍部隊の大規模な台湾派遣決定などが含まれている。

蔡総統は昨年、CNNとのインタビューで、中国からの脅威は「日々」高まっていると述べた。

だが台北の街はおおむねリラックスした雰囲気で、自信にあふれている。中国の発言や好戦的な態度とは裏腹に、専門家もすぐに台湾侵略が起きることはないだろうという意見に同調している。

情報筋によれば、米諜報(ちょうほう)当局者も今のところ中国が軍事侵攻に備えていることを示す証拠はつかんでいない。

23日、バイデン大統領もこうした見方を繰り返した。

「そうならないことを期待している」と大統領は報道陣に述べた。「そうした試みもないだろう」

台湾海峡を挟んだ対立の平和的解決が望まれるのは当然だ――専門家もずいぶん前から、北京が力で台湾奪還を試みれば大きな代償を払うことになり、どのような結末を迎えるかわからないと発言してきた。

さらに、米国や同盟国がロシアのウクライナ侵攻に迅速かつ協調した対応を見せたことで、北京も警戒を強めた可能性があると専門家は語る。専門家によれば、中国指導部も台湾情勢を念頭に置いたうえで、西側のウクライナ対応を注視しているとみられる。

中国がウクライナ危機からどんな教訓を得るのかはまだわからない――ロシアの苦戦や西側の強い対応をふまえ、以前より慎重に算段を進めるかもしれない。

だがその半面、中国が以下のように結論づける可能性もある。「いかなるものであれ力による台湾制圧の試みは先送りすればするほど困難になるばかりだ。台湾は防衛により力を入れ、欧米同盟国も台湾とともに戦いの準備を真剣に進めることになるかもしれない」。中国政治の専門家でニュースレター「シノシズム」を運営するビル・ビショップ氏はそう書いている。

本稿はCNNのステファン・コリンソン記者の分析記事です。

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