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コーヒー1包1万円の北朝鮮、金正恩氏が抱える問題は

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バイデン米大統領(左)と北朝鮮の金正恩総書記は、ともに国内に懸案事項を抱える/Getty Images

バイデン米大統領(左)と北朝鮮の金正恩総書記は、ともに国内に懸案事項を抱える/Getty Images

香港(CNN) 北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)総書記は、現在のところ米国よりも大きい問題を抱えている。自国民を食べさせる必要があるにもかかわらず、満足な選択肢がないのだ。

内情を隠す世襲制の共産主義独裁政権に君臨するこの人物は、先ごろ重要な政治会合を開き、自国が今まさに深刻な事態に直面していることを認めた。北朝鮮の食糧供給には大きな負荷がかかり、「状況は緊迫している」。 会合で正恩氏がそう述べたと、朝鮮中央通信(KCNA)は報じた。

同国の農業部門は、いまだ昨年受けた台風の被害からの回復途中にある。国内の食糧供給を輸入で賄うのも難しい。国境は新型コロナウイルス感染拡大のために依然として大半が閉ざされているからだ。

首都平壌では、一部の主要品の値段が高騰していると伝えられる。専門家によると米と燃料の価格はまだ比較的安定しているものの、輸入品の砂糖や大豆油、小麦粉は値上がりした。

国内産の主要品にかかわるコストも、この数カ月で急上昇。平壌の住民は、有名なトンギル市場でジャガイモの値段が3倍に跳ね上がったと話す。この市場は地元住民と外国人の両方が利用することで知られる。

さらに住民らは、主要品ではない小さなティーバッグが1つ70ドル(約7700円)前後で売られていると明らかにした。コーヒーの値段は、粉末1包が100ドルを超える場合もあるという。

正恩氏は食糧不足の規模がどのくらいなのか明言していないが、国連食糧農業機関(FAO)は最近、北朝鮮で不足している食糧の量を約86万トンと試算した。これは全国的な食料供給量の約2カ月分に相当する。

正恩氏は4月の時点で、もう一度「苦難の行軍」に乗り出すよう北朝鮮国民に呼び掛けていた。「苦難の行軍」とは1990年代に起きた壊滅的な飢饉(ききん)を指す。これにより数十万人が餓死したとされる。

国家による中央計画経済を掲げながら、自国民を食べさせることすらできない。それを認めてしまえば、一国の指導者として立場がないように思える。しかもその家系はプロパガンダを通じ、決して間違いを犯さない、ほとんど神のような存在と喧伝(けんでん)されているのだ。

ところが父親や祖父と異なり、正恩氏は恐れることなく誤りも失敗も認めてしまう。場合によっては、自国民の前で涙をこぼすことさえある。

正恩氏が国内向けに作り上げたのは庶民派のイメージだ。一国の指導者でありながら絶えず一般市民と顔を合わせ、日々の生活の向上に打ち込む姿勢を印象付けている。北朝鮮は地球上で最も貧しい国の一つだが、正恩氏は2011年に実権を握って以来、大多数の北朝鮮国民の生活向上を目標に掲げてきた。

しかし、同国の非効率な中央計画経済を思い切りよく変革することもなく、強制労働収容所に入っているとされる12万人近い政治囚の釈放もせず、また核兵器の開発計画も撤回しない現状を踏まえ、専門家らは北朝鮮政府が正恩氏の目標を達成するのは至難の業だろうとみている。

対米関係や制裁緩和をめぐる交渉は、少なくとも現時点では懸案事項から遠く外れているようだ。正恩氏が米国との協議について言及したのは、先週行われた重要な政治会合の3日目。テーマとしては全体の議題の4番目だった。

国営メディアの報道によれば、正恩氏はバイデン米大統領の北朝鮮政策を分析したうえで、政府として「対話と対決の両方に備える」必要があるとの認識を示しているという。

完全に安心はできないが、正恩氏の対米姿勢はKCNAが先月公開した一連の挑発的な声明ほど敵意を感じさせるものではなかった。それらのうちの一つは「制御不能の危機」について警告を発している。正恩氏はまた、今年1月の時点で米国を北朝鮮にとっての最大の敵と明言していた。

実際には、当該の声明により米政府との協議の扉が勢いよく開く可能性もある。米国は北朝鮮側への接触を先ごろ試みたものの、成果を得られていなかった。

19年にベトナム・ハノイで開かれたトランプ前大統領と正恩氏の首脳会談が物別れに終わって以降、北朝鮮は繰り返しこれ以上の協議には興味がないと喧伝してきた。米国が北朝鮮に対するいわゆる「敵視政策」を変えない限り対話に応じないとの主張だ。

バイデン政権は北朝鮮について、核開発と国内での大規模な人権侵害疑惑を外交政策の重要な一部に据えていると明言する。

ホワイトハウスは4月下旬、1カ月にわたる政策の検討を完了した。一方、日本の菅義偉首相と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、バイデン政権発足後訪米した最初の首脳2人となった。両者ともに米国の同盟相手であり、北朝鮮の未来のかぎを握る存在だ。米国のソン・キム北朝鮮政策特別代表は19日、ソウルに到着し、日本の船越健裕アジア大洋州局長、韓国のノギュドク朝鮮半島平和交渉本部長との協議に臨む。

ホワイトハウスは「調整された現実的なアプローチ」を追求する計画だと公言し、トランプ政権やオバマ政権時代との戦略の違いを強調するが、北朝鮮は依然として容易に歩み寄らない外交政策を維持している。こうした姿勢に、バイデン氏の直近の前任者たちは悩まされてきた。

そして正恩氏と同様、バイデン氏も一段と差し迫った課題を現時点で抱えていることはほぼ間違いない。大統領の立法議案は膠着(こうちゃく)状態の議会で足止めされているように見える。またより多くの米国民にワクチン接種を強く働きかけ、新型コロナの感染再拡大を阻止する必要もある。とりわけ、感染力を増した新たな変異株の蔓延(まんえん)が懸念される状況ではそうならざるを得ない。

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