ANALYSIS

元警官の有罪評決、法は正義を守った 次は政治の番だ

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タイムズスクエアを歩きながら、元警官の有罪評決のニュースに反応する黒人女性/Seth Wenig/AP

タイムズスクエアを歩きながら、元警官の有罪評決のニュースに反応する黒人女性/Seth Wenig/AP

(CNN) デレク・ショービン被告の有罪評決は、黒人男性ジョージ・フロイドさんの命が司法制度にとって真に大切であることを裁判の場で示した。

今、数多くの米国人が見守っているのは、まれにみる希望の瞬間に突き動かされた政界の指導者たちが、果たして同様に公正な判断を下すのかどうかだ。警察活動の改革と、制度的人種差別の根絶を通じて。

テキサス州ヒューストンでショービン被告の評決を伝えるテレビ画面に見入る人々/Callaghan O'Hare/Reuters
テキサス州ヒューストンでショービン被告の評決を伝えるテレビ画面に見入る人々/Callaghan O'Hare/Reuters

12人のミネソタ州民からなる陪審員団は20日、元警官のショービン被告に対し、3つの罪状すべてで有罪評決を言い渡す以上のことをした。被告はフロイドさんの首をひざで圧迫して死なせ、殺人などの罪で有罪になったが、現代米国史にとって意義深いその瞬間、陪審員団は一定程度の楽観論を提示してくれた。それはあらゆる人種の米国人がいつかは平等に扱われ、悪意ある警官らに対しては自分たちの執行しようとする法の下で責任を負わせることができるという見方だ。

有罪評決が出ても不必要な死を遂げたフロイドさんは戻ってこないし、アフリカ系米国人が直面する不正義もなくならないだろう。携帯の動画に記録されなくても、そうした不正義は存在する。また黒人のコミュニティーが警察とのかかわりの中で抱く恐怖心も拭い去ることはできないだろう。その証拠に、警察による黒人への銃撃や嫌がらせは公判中にも発生していた。いずれの状況でも、白人が相手ならあれほど悲劇的な結末にはならなかったのではないかと思われる。

それでもショービン被告の収監が決定し、後ろ手に手錠を掛けられた瞬間は安堵(あんど)感をもたらした。にわかに信じがたいような思いも入り混じっていた。それはある社会的、政治的な運動の正しさが証明された瞬間にほかならなかった。芸能人やアスリートも支持したその運動は、フロイドさんが殺害された昨年5月以降世界中に広がり、あらゆる民族的背景を持つ市民が街路に繰り出した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中にあっても、正義を求めて声を上げたのだ。

「これは大変なことだ。歴史に残る。歴史上の一大転機だ」と、フロイドさんの弟のフィロニスさんはCNNのサラ・シドナー記者に語った。

ショービン被告の有罪評決を受けての記者会見で涙をぬぐうフロイドさんの弟のフィロニスさん/Julio Cortez/AP
ショービン被告の有罪評決を受けての記者会見で涙をぬぐうフロイドさんの弟のフィロニスさん/Julio Cortez/AP

フロイドさんのおいのブランドン・ウィリアムズさんは、悲痛な思いを込め、多くの黒人の男女が今なお恐怖の中で日々を過ごしていると訴える。「だからこそ、今日は重要な転換点だと言える。これを機に米国は正しい方向へ歩み出せる」

すべての目が上院へ

「ここで立ち止まるわけにはいかない」。ホワイトハウスでそう述べたバイデン大統領は、20日の有罪評決を黒人らにとっての一歩前進だと形容しつつ「あまりにも頻度が少なすぎる」との見解を示した。ハリス副大統領は「我々は皆、ジョージ・フロイド氏の遺産の一部であり、今やるべきことはそれを尊重すること、彼に敬意を払うことだ」と述べた。

ホワイトハウスで演説するバイデン大統領/Evan Vucci/AP
ホワイトハウスで演説するバイデン大統領/Evan Vucci/AP

警察活動の改革を念頭に、1世代中で最も抜本的な一連の変化をもたらす手段として、フロイドさんの名を冠した法案がすでに連邦議会上院に提出されている。民主党議員によれば、法案には人種や宗教に基づく捜査対象の絞り込みを終わらせる、首を圧迫するいわゆる「チョークホールド」を禁止する、薬物事件における無断家宅捜索令状を廃止する、警察の違反行為に対する訴追を容易にする、警官の訓練内容を全面的に見直し、勤務地のコミュニティーとの信頼関係の構築につなげるといった内容が盛り込まれている。ただ法案が通るまでの道のりは険しい。多くの共和党議員は政府が警察関連の連邦の基準として掲げる概念に反対しているからだ。

民主党議員がショービン被告の有罪評決に多くの反響を寄せる中、共和党議員がほとんど声明を出していないのは注目に値する。数カ月前の国政選挙では、トランプ前大統領がフロイドさんの死に対する抗議行動を左翼がもたらす無政府状態の兆候に仕立て上げようとしていた。同氏の過激主義は、元共和党大統領のジョージ・W・ブッシュ氏が20日、「ネイティビスト(極端な保護主義者、排外主義者)的」と評した党内の感情と合致する。共和党議員は議事妨害戦略により法案の成立を阻止できる立場にあるが、彼らの多くが熱心に主張する内容は、民主党議員全員が党内の最も急進的な議員に同調して警察の廃止を求めているというものだ。

陪審員団が20日に評議をまとめる間、共和党議員がこだわっていたのは下院での問責動議だった。対象はカリフォルニア州選出の民主党議員、マクシーン・ウォーターズ氏で、裁判をめぐり暴力をあおったというのが理由だ。

比較的穏健な共和党議員でさえ、司法システムは機能したとの立場を取る可能性がある。ショービン被告が有罪になったのだから、これ以上の変革は不要ではないかという理屈だ。

そうした穏健派の一人、ミット・ロムニー議員はCNNに対し、「我が国の司法システムを信頼している。偉大な制度が常に我々の社会の基盤を形成してきた。もちろん喜ばしいのは、議論の熱がいくらか下がってくれることだ」と述べた。

フロイドさんの名を冠した法案の起草者の一人、カレン・バス下院議員は、今回の評決が法制化に向けた望みを与えてくれたと話す。現在も共和党の同僚議員と協議を続け、妥協の可能性を探っているという。しかし依然として両党の間で大きな溝となっているのが、警官を民事訴訟から守る「資格による免責」の改革だ。しかも現時点では、議席が50対50の上院ですべての民主党議員が賛成に回る保証もない。

評決を受け、ホワイトハウスでハリス氏と並んで行った演説で、また行動を起こすと約束したフロイドさんの遺族への電話の中で、バイデン氏は警察改革に全力を尽くす構えを見せた。遺族との電話でのやり取りは、取材のカメラもとらえていた。以前から疑問の声が上がっていたのは、いったいどれほどの政治的資本を投じて、新たに就任したばかりの大統領が通過の見通しの立たない法案に取り組むつもりなのかという点だ。大統領には課題が山積みであり、長年にわたる警察との密接な関係も無視できない。

おそらく、激しい政治的圧力にさらされる現状を鑑み、昨年の大統領選勝利の相当の部分を黒人有権者の票に負っている立場として、バイデン氏は20日、正しい評決が下るように祈っていると公言したのだろう。その間、隔離状態にあった陪審員団はまだ評議の最中だった。ショービン被告の有罪評決に対する全国的な反応が大統領への期待感を高めている可能性はある。そうした勢いの波が現状の政界の雰囲気をがらりと変えるかもしれない。それをうまく利用できればの話だが。

警察組合や組織としての警察、個々の警察官の姿勢も、公民権運動家が望む組織風土の変革にとって極めて重要になるだろう。検察は公判の最終弁論の中で、自分たちが裁いているのは個人の警察官であって警察全体ではないと明言していた。また公判で目を引いたのは、現職の警察官が次々と証言台に立ち、元同僚に不利な証言をしたことだ。彼らは被告のとった行動を正当なものとは認めなかった。

「主な問題は、政局が我々を分断するのを許すのかという点だ」。フロイドさんの家族の弁護士を務めるクリス・ステュアート氏は20日、こう問いかけた。「というのも、それが今起きていることだからだ。共和党であれ民主党であれ、現状は党派によってはっきり分かれている。団結しなくてはならない……そしてこの法案を通し、人々を救わなくてはならない。自分たちの街を板でふさいで、まさかの状況に備えなくても済むように」

悲しみの連鎖に終止符を

数え切れないほどの指導者や活動家が合衆国大統領と並んで20日に強調したのは、1つの評決で状況を完全に変えられはしないという点だ。米国社会にはそうした変化が必要であり、それによって残虐行為や偏見を根絶できる。有色人種は警察と対峙(たいじ)する中で、日々こういったものに直面している。それを痛切に思い起こさせようと、活動家らは過去に命を落とした大勢の若い男女の中から何人かの名前を口にした。たとえばエリック・ガーナ―さん、マイケル・ブラウンさん、タミル・ライスさん、ブレオナ・テイラーさん、フィランド・カスティールさんといった人々の名前だ。

厳しい現実ではあるが、警官による殺人はこの1年、世間の怒りが沸き立った後でさえも続いている。最近起きた20歳のダンテ・ライトさんと13歳のアダム・トレドさんの死がはっきり示す通りだ。ライトさんはミネアポリス郊外のブルックリン・センターでベテラン警官に殺害された。トレドさんは3月、銃撃の通報を受けて駆け付けたシカゴの警官に射殺された。暗い路地で追跡された後の結末だった。

ジョージ・フロイドさんら、警官の暴力で命を落としたとされる人たちのイラストを掲げて集まる人々/Carlos Barria/Reuters
ジョージ・フロイドさんら、警官の暴力で命を落としたとされる人たちのイラストを掲げて集まる人々/Carlos Barria/Reuters

オバマ元大統領やミネソタ州のエリソン司法長官といった指導的立場にある人物は、この先も長い道のりが待ち受けていると強調する。結果がどうなるかは、米国民の意欲次第だ。圧力をかけ続けて、法執行機関による無意味な死の終焉(しゅうえん)を求めるのかどうかにかかっている。ショービン被告を訴追するチームを率いたエリソン氏は、有罪評決を正義とは呼べないと語った。なぜならそれは「純粋に失ったものを取り戻すこと」を意味するからだ。「この結果は行為に対する責任であり、あくまでも正義へと向かう第一歩なのである」と、同氏は述べた。

「今や正義はあなた方の手にある。『あなた方の手』とはつまり、合衆国の国民の手だ」。記者会見でエリソン氏はそう語った。

ミネアポリスに住む39歳のBJ・ワイルダーさんは有罪評決を聞き、フロイドさんが死亡した現場で他の抗議デモ参加者と喜びを分かち合った。ワイルダーさんをはじめとする多くの活動家は、ショービン被告の有罪評決が転機となって米国が目を覚まし、警官が不法行為の責任を負うようになることを願っている。

「今回は今までと違う。新たな展開だ」と、ワイルダーさんは評決直後、CNNのオマー・ヒメネス記者に話した。「裁判までなら、過去に何度もあった。正直に言うと、最初に強く思ったのはロドニー・キングのパターンだ」。ワイルダーさんが言及したのは、黒人男性のロドニー・キングさんを暴行したロサンゼルス警察の警官4人が、その後の裁判で無罪になった事例だ。この件が引き金となり、1992年のロサンゼルス暴動は起きた。

「だから今回も同じ結果になるかもしれないと思っていた。とにかく我々全員がそれを目の当たりにしていたから。でも今の気持ちは……まさに息ができるようになった感じだ。何かが変わった気がする。米国の新たな1日になってほしい」

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

本記事の最後から2段落目で当初「黒人男性のロドニー・キングさんを暴行により死亡させたロサンゼルス警察の警官4人が」と記載した部分を「黒人男性のロドニー・キングさんを暴行したロサンゼルス警察の警官4人が」に訂正しました。

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