ロス抗議デモを象徴するメキシコ国旗　掲げているのはだれか

（ＣＮＮ） 緑、白、赤の３色を組み合わせたメキシコ国旗は、米カリフォルニア州ロサンゼルスの抗議デモを特徴づけるシンボルとなった。

デモ参加者らはメキシコや他の中南米諸国の国旗を米国の国旗と共に振ることで、移民との連帯やトランプ政権の取り締まりに対する非難を表明し、これがトランプ支持者らの怒りを買っている。

抗議デモは、６日に移民関税捜査局（ＩＣＥ）がロサンゼルス市内で実施した取り締まり作戦をきっかけに発生した。その後数十人が逮捕され、暴力的な衝突も起きている。これに対し、トランプ大統領は州兵と海兵隊の数千人を動員すると発表。野党民主党のニューサム知事は州兵動員を違法として訴えを起こし、ＳＮＳ上でも海兵隊の投入が「あからさまな権力乱用」になると主張した。

メキシコ国旗は長年、移民にまつわるデモに不可欠な存在だった。特に同国との文化的、経済的なつながりが深いロサンゼルスでは、なおさらのことだ。米国勢調査のデータによれば、ロサンゼルス郡にはメキシコ系またはメキシコ生まれの住民が全米のどの郡より多く、３４０万人に上る。

デモ参加者らが旗を振りながら警官と衝突する場面の画像や映像に、与党共和党の関係者らは強い反感を示してきた。

共和党側の主張

共和党のマークウェイン・マリン上院議員（オクラホマ州選出）はＣＮＮとのインタビューで、「外国の旗を手に抗議行動に参加するなど、断じて正気のさたではない。単なる平和的なデモ隊ではなく、不法者たちだ」と語り、海兵隊の投入を擁護した。

バンス副大統領は７日、Ｘ（旧ツイッター）に「外国旗を持った暴徒が移民取締当局者らを攻撃している」と書き込んだ。

米国家安全保障省がＳＮＳに投稿したデモ現場の画像や映像でも、メキシコ国旗がクローズアップされている。

トランプ政権のスティーブン・ミラー大統領次席補佐官はＳＮＳ上で、デモ隊を「外国の旗を振って暴動を起している外国人たち」と呼び、「不法移民の追放を図る連邦法執行機関を妨害している」と批判した。

合衆国憲法修正第１条では、外国の旗を掲げる行為、さらには米国旗を損壊する行為も、表現の自由の下で合法と認められている。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校（ＵＣＬＡ）のラウル・イノホサオヘダ准教授は、旗を理由にデモ隊を悪者扱いする手法は「トランプ政権側によくみられる動き」だと主張した。

また、共和党の下院議員だった反トランプ派のアダム・キンジンガー氏はＣＮＮに、デモ隊がメキシコ国旗を掲げるのは良くないとの考えを示した。

デモにメキシコ国旗が登場する光景は「はっきり言って最悪」だと述べ、「トランプ氏の語り口を勢いづかせるだけだ」「人々はどの旗でも自由に掲げられるし、その権利を保障されている。ただ、米国旗だけにしたほうがはるかに強力なのにと私は思う」と説明した。

長年の議論の的

現在のメキシコ国旗が制定されたのは１９６８年。愛国的な祭典、公的行事、スポーツ大会、学校や政府の式典、そのほかごく特殊な状況以外に国旗を使うことは、国内法で禁止されている。

一方、米国内ではかねて、移民の権利を主張する場で中南米諸国の国旗が使われてきた。

カリフォルニア州で９４年、不法移民への教育、医療、社会福祉の提供を拒否しようとした「住民提案１８７号」に対する反対運動が起きた時、デモ隊は誇りを示そうとメキシコ国旗をはためかせ、これが反米抵抗運動のシンボルと受け止められた。

２０００～０３年にメキシコ外相を務めたホルヘ・カスタニェダ氏が１０日、ＣＮＮに語ったところによれば、００年代初頭に移民対策法案への抗議運動が全米へ広がった時も、メキシコ国旗が掲げられた。

今回のデモについて、カスタニェダ氏は「実質的にデモ参加者は全員、米国人ではないか」と話す。

「不法移民のメキシコ人、あるいはたとえ永住資格を持つ合法移民であっても、現時点でデモに参加するのは相当無謀か、愚かな人物だろう。そんなことをすればほぼ確実に逮捕され、国外へ追放されるからだ」という。

ロサンゼルスの現場では、デモ隊がメキシコ国旗を掲げれば人心が離れ、移民政策から注意がそれて、目的の妨げになる恐れがあるとの声も上がっている。

中南米系有権者の投票行動を研究する共和党の政治コンサルタント、マイク・マドリド氏は、メキシコ国旗を掲げることで「米憲法上の権利や適正手続きの原則に関する議論であるはずのものが、外国への忠誠やら文化的同化やらの話に転換してしまう」と懸念を示した。

一方イノホサオヘダ氏によると、国旗の存在は米国、特にカリフォルニア州で暮らしてきた何世代もの中南米系移民の心に訴える。

同氏は「この人たちにとって、国旗は家族やコミュニティーを意味する。外国に対する侵略のシンボルではない」と続けた。

メキシコ系移民の権利擁護団体「ブラウン・ベレー」のアントニオ・ロドリゲス氏も、デモで掲げられるメキシコ国旗は分断でなく、団結の象徴だと強調。「自分たちの文化に誇りを持っているからといって、必ずしも非アメリカ的な人物というわけではないと思う」「私たちにとってメキシコ国旗を振ることは、自分たちの文化や家族への誇りを示すことだ」と訴えた。