ANALYSIS

【分析】トランプ米大統領の外交政策、不満はますます募るばかり

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
米国のトランプ大統領(左)とロシアのプーチン大統領/Jacquelyn Martin/AP/Gavriil Grigorov/Pool/AFP/Getty Images

米国のトランプ大統領(左)とロシアのプーチン大統領/Jacquelyn Martin/AP/Gavriil Grigorov/Pool/AFP/Getty Images

(CNN) 米国の大統領は全員、世界を変えることができると考えているが、ドナルド・トランプ氏には最近の歴代大統領よりもさらに強い個人の全能感がある。

しかし、第47代の米大統領であるトランプ氏にとって、あまりうまくいってはいないようだ。トランプ氏は、大手IT企業を威嚇して命令に従わせ、政府の権力を使ってハーバード大学といった機関や裁判官を操ろうとするかもしれない。しかし、世界の指導者の中には、いじめにくい人たちもいる。

ウクライナでの戦争終結に向けた米国の取り組みに抵抗するロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、トランプ氏を無視し、侮辱し続けている。ロシアのメディアは今では、トランプ氏について、強い言葉を発するものの常にひるみ、結果を強いることができない人物として描いている。

トランプ氏はまた、貿易戦争をめぐり、中国の習近平(シーチンピン)国家主席と対峙(たいじ)することで、中国を意のままに操ることができると考えていた。しかし、トランプ氏は中国の政治を誤解していた。中国政府の権威主義体制が絶対にしてはならないのは、米大統領に屈服することだ。米国の当局者は、中国が貿易紛争の緩和に向けた約束を守っていないことに不満を表明している。

トランプ氏は中国のときと同様に、欧州連合(EU)との関税戦争でも引き下がった。英紙フィナンシャル・タイムズのコメンテーターであるロバート・アームストロング氏は、「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも怖じ気づいてやめる)」という言葉を生み出して、トランプ氏を激怒させた。

誰もが、トランプ氏は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と同じ考えを持つだろうと考えていた。結局のところ、トランプ氏は第1次政権で、ネタニヤフ氏が望むものをほぼ全て提供したのだ。しかし、中東和平の仲介に努めるトランプ氏は、パレスチナ自治区ガザ地区での紛争の長期化がネタニヤフ氏の政治生命を左右する問題であることに気づきつつある。プーチン氏にとってのウクライナ情勢と同じだ。そして、イランとの核合意に向けたトランプ氏の野心は、イランの戦略的な弱点をついて軍事的に原子炉を破壊しようとするイスラエルの計画を阻んでいる。

力のある指導者たちは自らの国益を追求している。彼らの国益は米大統領による、より短期的で、より取引的な願望とは決して交わらない並行現実、別の歴史的・現実的時間軸の中に存在する。見返りのない個人的な訴えかけに、ほとんどの指導者は心を動かされない。トランプ氏が大統領執務室で、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領を侮辱しようとしたことで、ホワイトハウスの魅力は薄れつつある。

トランプ氏は昨年の大統領選で何カ月もの間、プーチン氏や習氏との「非常に良好な関係」が、解決不可能かもしれない世界の大国間の根深い地政学的・経済的な問題を魔法のように解決してくれるだろうと吹聴していた。

こうした妄想に苦しむ米国の指導者はトランプ氏が初めてではない。ジョージ・W・ブッシュ元大統領はクレムリン(ロシア大統領府)の独裁者の目を見つめ、「彼の魂を感じた」という有名な発言を残した。バラク・オバマ元大統領は、ロシアを衰退しつつある地域大国として軽蔑し、かつて、プーチン氏について、「教室の後ろで退屈そうにしている子ども」と一蹴した。しかし、その退屈な子どもがクリミア半島を併合したため、事態はうまくいかなくなった。

もっと広い意味でいえば、21世紀の大統領たちは全員、運命の人であるかのように行動してきた。ブッシュ氏は世界の警察官にはならないと決意して大統領に就任した。しかし、2001年の米同時多発テロは、ブッシュ氏をまさに世界の警察官へと変えてしまった。ブッシュ氏はアフガニスタンとイラクで戦争を始め、米国は勝利したものの、その後、平和は失われた。そして、アラブ世界の民主化という2期目の目標は達成されなかった。

オバマ元大統領は、世界的な対テロ戦争の償いをしようとエジプトを訪問し、イスラム教徒の人たちに対して「新たな始まり」の時がきたと訴えた。オバマ氏は大統領就任当初は、そのカリスマ性とたぐいまれな経歴によって、世界の万能薬になるとの期待が高まっていた。

ジョー・バイデン前大統領は、トランプ氏をホワイトハウスから追い出した後、世界中をめぐって人々に対して「米国が戻ってきた」と語った。しかし、4年後、バイデン氏自身の2期目を目指すという破滅的な決断もあり、米国(少なくとも第2次世界大戦後の国際主義的な米国)は再び消え去った。そして、トランプ氏が戻ってきた。

トランプ氏の掲げる「米国第一主義」のポピュリズム(大衆迎合主義)は、米国が何十年にもわたって搾取されてきたという前提に基づいている。同盟国とのつながりや、グローバル資本主義の形成によって、米国が地球史上最強の国になったとの事実は無視されている。トランプ氏は今や、誰もが従わなければならない強権的な政治家を演じ、これまでの遺産をせっせと食いつぶし、好戦的な言動で米国のソフトパワー、すなわち説得の力を破壊しようとしている。

トランプ氏が大統領に就任してから最初の4カ月間で、関税の脅しと、カナダとデンマーク自治領グリーンランドに対する領土拡大の警告、世界的な人道支援プログラムの骨抜きが行われてきたが、これは世界の他の国も発言権を持っていることを示している。これまでのところ、中国とロシア、イスラエル、欧州、カナダの指導者たちは、トランプ氏は自身が思っているほど強力ではなく、トランプ氏にいくら逆らったところで代償はない、あるいは、国内政治の状況から抵抗が必須だと計算しているようだ。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「Analysis」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]