OPINION

非主流派による議会運営、実現すれば恐ろしい結果に

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連邦議会議事堂襲撃から2年。米国は依然として政治的暴力のリスクに晒されている/Win McNamee/Getty Images

連邦議会議事堂襲撃から2年。米国は依然として政治的暴力のリスクに晒されている/Win McNamee/Getty Images

(CNN) たとえ共和党議員が最終的に下院議長について合意できたところで、同党指導部の顔ぶれは変わらない。トランプ前大統領による2020年米大統領選についての嘘(うそ)をまき散らしたまさにその重鎮たちが、連邦議会下院での権力を握ることになるだろう。彼らは一貫して、連邦議会議事堂襲撃がもたらした国家に対する深刻な脅威を過小評価してきた。21年1月6日に起きたあの反乱は、まさにトランプ氏の名において実行された。

マイケル・ファノーネ氏"
マイケル・ファノーネ氏

誰が下院議長の座に就くにせよ、その人物が率いるのはこの数日で露呈したように厄介で制御不能にさえなりそうな共和党の幹部会に他ならない。

しかし彼らに筆者が同情することはないだろう。今週は、筆者の警察官としてのキャリアで最も暴力的だった日から2年目に当たる。あの日はほとんど死にそうになりながら、議事堂を武装した暴徒から守っていた。彼らは我が国の政府の転覆を図っていたわけだが、まさにその暴力的な反乱を共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務や同党の多くの議員は依然として軽く見ている。2年前、議事堂を襲撃した反徒たちは、もう少しで筆者の命を奪うところだった。子どもがいると懇願しても、聞く耳を持たなかった。

残念なことに、この国は相変わらず政治的な暴力の大きなリスクに直面している。扇動的な演説によってそうしたリスクは高まるほか、多くの政治家が現行の突発的な過激主義や陰謀論の認識を拒む実態も危機に拍車をかける。

しかも陰謀論者は、一般大衆のかなりの部分を味方につけている。政治的動機に基づく襲撃は全国で増加。今や数百万人に上る米国人が、トランプ氏を大統領職に復帰させるためなら力の行使は正当化されると考えている。重要なのはこの危険な流れを逆転させることだ。

マッカーシー氏は以前筆者にこう言った。自分には議事堂襲撃事件について、共和党の「非主流派メンバー」をコントロールすることができないと。だがこれらのメンバーはもはや非主流派ではない。彼らはまさに下院を牛耳ろうとしており、空前の影響力を第118回目の議会に及ぼすだろう。誰が議長になろうと、下院の指導部には危険な言説を拒絶する義務がある。そうした言説こそが、これまで同様今後も、政治的な暴力を国内に引き起こすことになる。

新たに着任する共和党の下院指導部は、確たる気概を持って政治的暴力と憎悪に満ちた言説を非難しなくてはならない。それらを焚(た)きつけているのは、自分たちの党のメンバーだ。そしてそれは結局のところ、トランプ氏を非難するところから始まる。同氏は今日に至るまで、共和党の事実上のリーダーであり続けている。新たな下院の議長と指導部は、自党のメンバーに対し、誇大な言葉や行動によって二度と自分たちの有権者や同僚議員、警察官らの命を危険にさらすことのないよう要求しなくてはならない。

そうした非難すべき振る舞いに事欠かない状況が、この数カ月続く。それは当のマッカーシー氏自身から始まった。共和党のリーダーである同氏は以前、当時のトランプ大統領を激しく糾弾。議事堂に突入した暴徒を活気づける役割を果たしたとの認識を示した。だがそれから数日後、そのような非難の言葉は聞かれなくなった。フロリダ州にあるトランプ氏の自宅「マール・ア・ラーゴ」をマッカーシー氏が訪れた時、おそらく一方の目は長年欲してやまなかった下院議長の小槌(こづち)に向いていただろう。念頭にあったのは、敗北した大統領と党内の選挙結果否定論者の両方から歓心を買うことだった。

それ以降、影響力のある複数の共和党下院議員が議事堂襲撃を「普通の観光客の訪問」と呼んだ。一部はペロシ前下院議長の反逆罪での処刑を求めたほか、「ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)犠牲者を想起する国際デー」に反ユダヤ主義的なメッセージを共有した。

そしてこれはわずかな例を挙げたに過ぎない。今更ながらの共和党幹部による介入がなければ、暴力的な言説に向かう恐ろしい流れは間違いなく続くように思われる。

我々のリーダーたちの発言や行動には、それなりの影響が伴う。マージョリー・テイラー・グリーン下院議員は1月6日の暴動について、もし自身が計画していたなら「武器を携帯させていただろう」と語った。これと同種の白熱した言い回しは当時トランプ氏も使用し、それによって激怒した支持者らが議事堂へ突っ込んでいった(グリーン氏は後に自らを皮肉屋だとした上で、当該のコメントは冗談で発したと主張した)。

下院でグリーン氏を支持する右派の多くは、「グルーミング(訳注:子どもへの性的虐待を行おうとする者が、被害者となりうる人物に近づき、親しくなって信頼を得る行為)」を巡る根拠のない、常軌を逸した陰謀論を広めてきた。そうした異様な見解が示された後では、激怒した抗議デモの参加者らが地元図書館の読み聞かせの時間に押し掛け、近隣の学校から性にまつわる図書を追放するよう呼び掛けるなどしてもそれほど不思議はない。

右派の言説によって駆り立てられたとみられる最近の暴力行為の事例は、ほとんど枚挙にいとまがない。MAGA(「米国を再び偉大に」というスローガンの頭文字)的言い回しに焚きつけられた行動として、昨年はペロシ前下院議長の自宅への襲撃が発生。先月には反LGBTQ(性的少数者)の活動家によるものとみられる破壊行為がニューヨーク市議会議員3人の自宅で起きた。ドラッグクイーンによる市内の図書館での読み聞かせに反対する目的があったとされる。

マット・ゲーツ下院議員は、投票所へ行く有権者に武装することを奨励。実際に武器を持っての威嚇行為は、有権者が票を投じる際に起きている。調査の結果から、MAGAを掲げる共和党議員は、同党の穏健派を含むその他の議員よりも暴力を是認する傾向にあることが分かった。自分たちの政治的目標を促進するためならそうした暴力は大抵の場合、もしくは常に正当化される。また連邦捜査局(FBI)の捜査官がマール・ア・ラーゴを強制捜査した後には、FBIを脅迫するツイッターの投稿が急増した。

共和党議員の度を超えた言説は十分に厄介だ。残念ながら、彼らの過激主義的な見解も、その投票記録から一目瞭然となっている。例えば147人の連邦議会議員が20年の自由で公正な選挙の結果を否定する票を投じた。また共和党の下院議員35人は、議事堂襲撃を調査する委員会の創設に反対票を投じている。

さらに筆者が個人的に侮辱を感じることだが、共和党議員21人は不道徳にも、筆者のような首都警察並びに議会警察の警察官が大統領自由勲章を授与されるのに反対票を投じた。この勲章は、襲撃時に議事堂を防衛した筆者らの役割に対するものだった。

議事堂襲撃以前の筆者を知らない人の中には驚く向きもあるかもしれないが、筆者は自分が政治的な人間だと思ったことは一度もない。何と言っても16年の大統領選で、筆者が投票したのはトランプ氏だった。左派の発する反警察の言説にうんざりしていたからだ。

それで当然、直近の選挙には慎重な姿勢で臨み、トランプ氏の影響を受けた数人の候補者には反対の立場をとった。彼らは民主主義に脅威をもたらすと考えた。とはいえ筆者は政治家を信用したことはない。信用しているのはあくまでも国民だ。だからこそ筆者が現在支持している2つの新たな団体は、選挙で選ばれた政治家に対して健全さと説明責任とを求めている。

今週、国会議員に政治的暴力との戦いを強化するよう呼び掛けるイベントには、筆者のほか退役軍人や連邦議会議員、「コーリッジ・フォー・アメリカ」という団体が参加する(筆者はこの団体の創設を支援し、内部で主導的な役割にも就いている)。コーリッジ・フォー・アメリカと力を合わせる別の新団体「コモン・ディフェンス」が求めているのは、右派の暴力と戦う取り組みの一新だ。この種の暴力によって、筆者の人生は危うく終わりを迎えるところだった。イベントの会場は、議事堂を映し出すリフレクティング・プールになる予定。ほんの2年前、MAGA支持者が絞首刑用の縄を掲げ、副大統領を吊(つ)るすと脅していた場所だ。当時の現場には、「マイク・ペンスを吊るせ」という暴徒らの掛け声が響いていた。

子どもの時の筆者は、常にちょっとしたトラブルメーカーだった。結果として警察官は、明確な方向感覚を持たず、始末に負えない子どもにとって完璧な着地点になった。筆者は警官になる際、正しいことのために立ち向かう姿勢を学んだ。捜査官になる際には、導き出した結論を常に再検討、精査することを学んだ。追加の情報を集める中で、そうした作業が必要になるからだ。

警官の職を退いてからの年月で、筆者が導き出した結論の一部は、破滅的な暴動を引き起こした前大統領にまつわるものとならざるを得なかった。そして今や否定的となった同氏に対する見解の多くは、当然ながら感情的並びに身体的な傷と関連せざるを得ない。それは筆者と同僚の警察官らがあの日被ったトラウマだ。例えば「バック・ザ・ブルー」と呼ばれる地域の警察を支える活動に見られるような、警察官として生きる上で常に指針としてきた価値観は、文字通りこちらに投げ返された。その同じ群衆が、悪意をもって我々を叩きのめそうとしていた。

あの瞬間、筆者は暴力的に叫ぶデモ隊に囲まれていたものの、目に映っていたのは子どもたちの顔だけだった。4人の娘たちのため、筆者は今声を上げている。

娘たちには、選挙で選ばれた当局者が奉仕の対象である国民に説明責任を果たす国で暮らしてほしい。政治的暴力を非難するのは党派の問題ではなく、道徳上の問題だ。

筆者は他の多くの人々と同様、議事堂襲撃を巡る怒りと恐怖によって米国民が奮い立ち、1つの共有すべき信念の下で団結するのを期待してきた。つまり、我々の社会に政治的暴力の存在する場所はないという信念だ。他の米国民と共にそのような振る舞いを否定し、それを促した横暴な前大統領をも否認する。それができるかどうかは、共和党のリーダーたちにかかっている。

マイケル・ファノーネ氏は米首都警察の元警察官。2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件で負傷し、後に事件の回想録を執筆。現在はCNNの法執行機関アナリストを務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

※編集部注:本稿はCNN.comに6日に掲載された記事です。文中のマッカーシー院内総務は7日、下院議長に選出されました。

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