憧れのパリ物件を破格の値段で、ただし「誰かの死」が条件 「ビアジェ」とは?
かつてヘミングウェイやボーボワールが暮らしたサンジェルマンデプレ地区では、100平方メートルのアパートが平均170万ドルで売られている。地元の若者や米国人バイヤーの間で人気のマレ地区は、25年の価格は1平方メートル当たり1万5500~2万2000ドル。だがビアジェ契約を利用すれば、物件をその半額以下で手に入れることができる。
米国系イラン人投資家のホマ・ラエベル氏は、パリでビアジェ物件を4件購入した。
「最初は少し不謹慎に思えた」とラエベル氏。「だが、すべての売主と会って話を聞くことにした。ビアジェなら、高齢者が自宅に住み続けながら、経済的な安定を得られるので、双方にとってメリットがある」
ビアジェによる住宅購入者は通常、最初に頭金を支払い、その後は売り主が生きている限り毎月支払いを行う(CNN)
ビアジェ制度の歴史は古く、起源は古代ローマにまでさかのぼる。19世紀初頭にはナポレオンがこれを法制化し、フランス国内のみならず、征服した領土にも制度を導入した。そのため、スペイン、イタリア、ベルギーの一部でもビアジェに似た制度が存在する。
著名人にも利用されてきた。元仏大統領の故ドゴール氏、故ジスカールデスタン氏、オランド氏はいずれもビアジェを通じて物件を取得している。米誌「プレイボーイ」の創刊者、故ヒュー・ヘフナー氏も、自身の住むプレイボーイ・マンションを隣人に1億ドル(当時の市場価格2億ドルの半額)で売却した。ただし「亡くなるまで住み続ける」という条件付きだった。
フランスでビアジェ契約は、とりわけ相続人のいない住宅所有者の間で人気だ。
「もし子どもがいたら、財産を残したいと思っただろう」と語るのは、最近パリのアパートをビアジェで売却した74歳の精神分析医アンドレ・エルマンさんだ。
エルマンさんのワンベッドルームのアパートは、市場価格のおよそ半額にあたる25万ユーロで、21歳の女子学生に売却された。
ビアジェ制度は、買主の利益が売主の死によってもたらされるため、「死を前提にした制度に抵抗を覚える人もいる」とエルマンさんは言う。「でも私にとって、死は人生の自然な一部。この魅力的な若い女性が、いつか私の家に住むと思うと、むしろ、うれしい気持ちになる」
アンドレ・エルマンさんはビアジェの制度を通じて自宅を売却した(CNN)
急速に高齢化するフランス社会にとって、この制度は時宜を得た解決策となり得る。仏国立統計経済研究所(INSEE)によれば、24年1月時点で、仏国民の20%以上が65歳以上、そのうち10%が75歳以上だ。50年までには、国民の3人に1人が65歳以上になる見通し。生活費が上昇する中、老後の経済的安定はますます重要になっている。
だがビアジェは、買主にとってもリスクがないわけではない。買主は一括で支払う頭金に加え、毎月の支払いを何十年も続けなければならない可能性が生じる。
「私はいつも売主が100歳まで生きる前提で計算する」とラエベル氏は言う。「もし彼らがそれ以上生き延びたら、利益は出ないかもしれないが、今後20年間、不動産市場が維持される限り、最終的には利益を得られるはずだ」