臨死体験、心停止後の脳の活動と関係か 新研究

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心肺蘇生法が確立されてから臨死体験の存在は数多く伝えられきた/Marco_Piunti/E+/Getty Images

心肺蘇生法が確立されてから臨死体験の存在は数多く伝えられきた/Marco_Piunti/E+/Getty Images

(CNN) 2020年12月、当時80歳だったオーブリー・オスティーンさんは、心臓発作を起こして心肺が停止した。不意に意識が目覚めたのは、自分の胸部を外科医が切り開こうとしていた時だった。

「私は言った、『ちょっと待った、それ以上進む前に、もう少し麻酔を打ってくれ』と。私は彼らとは同じ次元にいなかった。だから彼らには私の声が聞こえないと気づくまでには、少し時間がかかった」。今は82歳になったオスティーンさんはそう振り返る。

続いてオスティーンさんは、自分の体が「胸郭を通り抜け」、手術台の上に浮かぶのを見た。医師たちはオスティーンさんの胸を切り開き、心臓を取り出すと、ダメージの修復を始めた。「腎臓だ」という誰かの声が聞こえた。

「両方の腎臓が同時に停止した。私は自分が死んだことを知った。私が次の段階に行ったのはその時だった」「そこへ上がると、私は神の前にいた。力に満ちた存在だった。後ろから光が差していた。それは私が地上で経験したどんな光よりも明るかったが、目をくらます光ではなかった」

「最高に優しい天使がいて私を落ち着かせてくれ、『安心して。何もかも大丈夫』と言い、私は戻らなくてはならないと告げた」

「今は分かる。私は自分の体験を人に語るために送り返された」

80歳のときに臨死体験をしたオーブリー・オスティーンさん/Anne Elizabeth Barnes
80歳のときに臨死体験をしたオーブリー・オスティーンさん/Anne Elizabeth Barnes

臨死体験

あの日オスティーンさんに起きたのは、専門家が「臨死体験」と呼ぶ現象だった。この現象は、何らかの理由で心肺が停止した人を医師が蘇生させる際に発生する。

この現象について長年研究している米ニューヨーク大学病院の集中治療医サム・パーニア氏によると、心肺蘇生法(CPR)が1960年に確立されて以来、何百万もの人々が臨死体験を報告しているという。

パーニア氏は、心臓が止まり、呼吸が停止した患者の脳の電気的な活動を測定することによって、死の「隠れた意識」の解明を目指す研究を進めており、最新の論文をこのほど発表した。

「多くの人が同じ体験を伝えている。意識が高まって鮮明になり、思考が研ぎ澄まされる。その間、私のような医師は彼らの蘇生を試み、彼らが死んだと思っている」。そう語るパーニア氏は、ニューヨーク大学グロスマン医学校の准教授を務める。

「彼らは自分が体から分離して、医師や看護師の姿が見え、声が聞こえるという感覚を持つ。そして自分では説明できない360度の視野で、医師たちが自分に何をしていたかを報告できた」

さらに、自分の全人生を振り返って、普通では思い出せない思考や感情、出来事を思い出し、道徳や倫理の原則に基づいて自分自身を評価する人もいる。「自分の生涯を通じた行動の包括的な認識だ。ここではもはや、自分自身を欺くことはできない」とパーニア氏は言う。

神のような存在を見たという証言については、さまざまな解釈ができるとパーニア氏は解説する。「もしクリスチャンであれば『イエスに会った』と言い、無宗教の人は『愛と慈しみに満ちた素晴らしい存在に会った』という。そうした全てが、60年以上にわたって報告されている」

CRP中の脳波の測定

今回の論文は9月14日、学術誌リサシテーションに発表された。研究チームは米国、英国、ブルガリアの25病院で、心肺が停止し、医学上は死亡と判定される患者の治療をしている部屋に入った。

医師が蘇生措置を行っている間、研究チームは酸素や電気的な活動を測定する装置を心肺停止状態の患者の頭に取り付けた。蘇生の試みは平均で23~26分間続けられた。中には1時間以上続けた医師もいた。

「蘇生は非常に張り詰めた、困難な状況の中で行われており、非常に激しい」「これは今まで誰もやったことがなかったが、我々の独立研究チームは、患者の治療を妨げることなく自分たちの手順を遂行することに成功した」。パーニア氏はそう続ける。

脳の活動は、医師が胸部圧迫や電気ショックを止めて心拍が再開するかどうか確認する間に、2~3分間隔で測定された。

「動きはなく、静寂だった。その間に我々は測定を行い、何が起きているのかを調べた。人々が想定する通り、死にゆく人の脳波は平坦(へいたん)になった」

「ところが興味深いことに、蘇生を始めて1時間もたった時でさえ、脳波を観測した。脳の電気的な活動の出現だった。私が話したり、深く集中したりしている時と同じだ」

確認されたのはガンマ波、デルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波などだった。

残念ながら、この調査の対象者567人のうち、一命をとりとめたのは10%にあたる53人のみだった。うち28人に聞き取り調査をした結果、CPR中に意識があったと答えたのは11人、臨死体験を報告したのは6人のみだった。

しかしその体験を、心停止後に蘇生した126人(今回の調査の対象外)の証言と合わせて検証した結果、「記録された死の体験、すなわち分離する感覚、自分の人生の回顧、家のように感じる場所へ行った後に戻らなければならないと思う認識は、世界中の人々に共通していた」とパーニア氏は言う。

研究者によると、臨死体験をした多くの人々が明るい光を見たと証言しているという/odina/iStockphoto/Getty Images
研究者によると、臨死体験をした多くの人々が明るい光を見たと証言しているという/odina/iStockphoto/Getty Images

測定された脳の信号を、別の調査で測定された幻覚や妄想、錯覚に関連する脳の信号と比較したところ、大きな違いがあることも分かった。

「我々は、回想された死の体験は本当だとの結論に達することができた。これは死に伴って発生し、我々が特定した脳マーカーが存在する。こうした電気信号は、多くの評論家が言うような、死にゆく脳の錯覚として作り出された現象ではない」

本当に意識を測定できたのか

だが、中には今回の論文の結論に納得しない専門家もいる。この研究は2022年11月の学会で初めて発表され、メディアにも幅広く取り上げられた。

「心停止後も脳波が持続するという最新報告は、メディアで大げさに騒がれているが、実際のところ、そうした脳波と意識の活動との関係は何も示していない」。バージニア大学医学校のブルース・グレイソン名誉教授はそう語る。

「つまり、臨死体験をした患者に脳波の報告がなく、脳波の報告された患者が臨死体験を報告していない」。グレイソン氏はCNNの電子メール取材にそう指摘した。

グレイソン氏(今回の研究にはかかわっていない)は「臨死体験ハンドブック:30年の調査」の共同編集者。同氏と、オランダの研究者で臨死体験に関する著書があるピム・ファン・ロンメル氏は、今回の論文に添えるコメントを同誌に寄せている。両氏は「聞き取り調査の対象とした28人のうち2人は、脳波データはあったが、はっきりとした認識を思い起こせる人の中には含まれていなかった」という論文の記述に着目した。

「(今回の研究で)示されたのは、他の患者が臨死体験をしたと報告していたのと同じ期間に、一部の患者は頭の中で起こる電気的な活動が続いていたということが全てだ」とグレイソン氏は指摘する。

パーニア氏も、今回の研究では同じ患者の電気的な活動を臨死体験と一致させることができなかったのは確かだとした上で、「我々のサンプルの規模は不十分だった。調査対象者のほとんどは生存できず、一命をとりとめた人が何百人もいたわけではない。それが現実だ」「生存し、かつ読み取り可能な脳波があった人のうちの40%は、脳波が平坦な状態からはっきりした意識がある際の通常の兆候を示すようになった」と説明する。

加えて、蘇生した人は、集中治療中の強い麻酔のために記憶が断片化したり、自分が経験したことを忘れたりすることもあるとパーニア氏は指摘。「記録が存在しないからといって、意識が存在しないわけではない」「これは偉大なる未知であり、我々は未開の領域にいる。重要なのは、これが幻覚ではないことだ。これは死と共に現れる真の体験だ」と強調している。

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