反攻間近か ウクライナ軍の行く手に待ち受けるもの、衛星写真で撮影

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3列に並ぶ「竜の歯」や塹壕が見える=3月4日、ザポリージャ州バシリウカの東方/Satellite image ©2023 Maxar Technologies

3列に並ぶ「竜の歯」や塹壕が見える=3月4日、ザポリージャ州バシリウカの東方/Satellite image ©2023 Maxar Technologies

(CNN) 春の反転攻勢の準備がほぼ整ったと語るウクライナ軍は南部で攻撃を始める可能性が高い。ロシアとの戦いにおける転機になると予想される一方、ロシアは半年近くをかけて防御の層を固めており、そこを突破するのは非常に高いハードルとなる。

CNNや他のメディアが検証した衛星写真からは、ロシアがウクライナ南部の各地に対戦車壕(ごう)、障害物、地雷原、塹壕といった防衛手段を築いている様子がわかる。

こうした防衛策は南部を蛇行する前線数百キロにわたり存在する。ウクライナ軍が攻撃を集中させると予想されている地域だ。

ウクライナ軍はこうした障害物を素早く迂回(うかい)し、乗り越えて、ロシア軍の司令部が瓦解(がかい)するような勢いをつくり出す必要がある。

米宇宙企業マクサー・テクノロジーズがCNNに共有した4月26日撮影の衛星写真には、ザポリージャ州の町ポロヒの東に広がる塹壕が写る。ロイター通信の分析では、広大な地域には数千の防御陣地が存在するという。

「ロシアの陣地は南東部ザポリージャ州、東部、クリミア半島とウクライナ本土をつなぐ幅の狭い地域の前線付近に最も集中している」とロイターの分析は指摘する。

ザポリージャ州に掘られた防御用の塹壕を捉えた衛星写真/Satellite image ©2023 Maxar Technologies
ザポリージャ州に掘られた防御用の塹壕を捉えた衛星写真/Satellite image ©2023 Maxar Technologies

ポロヒ周辺の対戦車壕は長さ30キロにも及び、同州トクマクなど重要な町の周辺には追加の要塞(ようさい)が築かれている。もしウクライナ軍がメリトポリに進軍し、南部のロシア軍の分断を試みるなら、ここは極めて重要な地域となる。

マクサーのスティーブン・ウッド氏は、クリミア半島からドネツク州の一部に至るまで、極めて広範な地域に同じような防衛手段が構築されていると語る。

CNNは以前、クリミア半島北部でも防御要塞が建設されていると報じた。ロシアが任命したクリミアのトップの人物は今月、軍が現代的な、層の厚い防衛手段を講じていると発表した。

何カ月も準備

こうした防衛手段は昨年11月、ロシアがヘルソン州の一部から撤退した後から登場し、ウクライナ南部の主に農村地帯に新たな防衛ラインが築かれた。英国防省は同月、二つの工場が戦車の行く手を阻む「竜の歯」と呼ばれるコンクリート製の障害物を製造しているとの分析を示した。

ただ、こうした防衛策は各地に配置されている部隊と同程度の効果しか見込めず、ウクライナ軍を阻止するには限界がある。ロシア軍がウクライナ南部で部隊を増強しているのはそのためだ。この防衛ラインを守ることは全体の目標を達成するために極めて重要となる。

ウクライナの当局者はマリウポリやベルジャンスクなど占領地域の住民の情報として、通過するロシア軍の長い車列や、軍の宿泊所として数十の建物が利用されていると伝えている。

衛星写真からは2月に大砲や戦車など軍の装備でいっぱいだったクリミア半島北部の大規模なロシア軍基地が、3月下旬には大部分が空き地となり、先週にはほぼ空になった様子がわかる。装備の行き先は不明だが、北に向かいロシアの防御ラインを固めている可能性が高い。

かつて装備で満杯状態だったロシア軍の基地は大部分が空き地に/Maxar Technologies
かつて装備で満杯状態だったロシア軍の基地は大部分が空き地に/Maxar Technologies

それでも、非常に長い前線のどの部分に、どれほどの量及び質のロシア軍が展開するのかを把握するのは極めて難しい。ウクライナ側にとっては、反攻開始前に供給線を断ち、弾薬庫を破壊し、燃料インフラを攻撃することが重要となる。そうすればロシアの防衛部隊を維持するのは困難になる。

ウクライナ軍はロシア軍の弱点がどこにあるか評価を行うとみられる。一度反攻が始まれば、勢いが非常に重要となるからだ。

サプライズはもうない

昨年9月に北東部ハルキウ州で行われた一掃作戦のようなサプライズの要素は、より大規模な反攻作戦では存在しない。ウクライナの当局者はそう認めている。

ロシアが任命したザポリージャ州の当局者は、ウクライナ軍がこの地域で既に大幅に部隊を強化していると語る。新たにウクライナの複数の旅団が今週末までに前線に到着予定だという。

親ロシア団体「我々はロシアと共に」の代表者ウラジーミル・ロゴフ氏は「こうした旅団は既に1万2000人の兵士がいる地域に送り込まれる」と語る。この人物の主張の信ぴょう性は検証できていない。

ウクライナ側は部隊の動きを発表していない。

北大西洋条約機構(NATO)の当局者は、ウクライナに送ると約束した戦闘車両の98%は既に国内に運び込まれたと語る。ウクライナのレズニコウ国防相は4月28日、反攻の準備がほぼ完了したと述べた。

ロシアが張る防衛ラインを上空から見る。ウクライナが攻撃を成功させるには、こうした障害を迅速に乗り越える必要がある/Satellite image ©2023 Maxar Technologies
ロシアが張る防衛ラインを上空から見る。ウクライナが攻撃を成功させるには、こうした障害を迅速に乗り越える必要がある/Satellite image ©2023 Maxar Technologies

だが、この新しい装備を手にしたウクライナ軍は諸兵科連合の動きを習得する必要がある。強襲大隊と地雷の除去、対戦車障害物の除去、架橋といった作業を連携させるには複雑な調整が求められる。

米国が3月に発表した支援の中には、進攻部隊に伴走する架橋能力を備えた装甲車両や爆破資材も含まれている。

反攻を成功させるには、こうした装備を優れた連携と連絡で機能させる必要がある。専門家の中にはウクライナ軍が今後なすべきことは第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の決行日に匹敵すると見る人々もいる。当時のドイツ軍のロンメル将軍は「侵攻から最初の24時間が連合国にとっても、ドイツにとっても決定的となる。長い1日になる」と語った。

ロンドンを拠点とする近代戦争の専門家フランツステファン・ガディー氏は、ウクライナが「ロシア軍指導層を麻痺(まひ)させ、ロシア兵にパニックを引き起こす」ことを目標に据える必要があるとの見方を示す。「戦術のサプライズ、戦場のリーダーシップ、戦いの士気といった目に見えない要因が攻撃後最初の24時間で決定的に重要になるだろう」

理想的なシナリオは「ウクライナの装甲部隊が幾層ものロシアの防衛手段で弱いところを突破し、ロシアの後方部隊にまで達して、軍司令部や供給センターなどの指揮機能の結節点を脅かす」形だという。

ただ、ウクライナ軍にとっての危険もあると米ニューヘイブン大学のマシュー・シュミット准教授(国防学)は指摘する。反攻が「師団レベルの戦闘となり、いくつもの小隊の交戦が起きる状態へと陥る」と、ウクライナ軍の動きは止まってしまうという。

シュミット氏もさまざまな軍事資産を連携して利用する諸兵科連合が極めて重要との考えで、「後方の供給庫をたたき、地雷を素早く除去し、火力と機動力を旅団レベルから小隊レベルまで連携させる」ことが必要だと説く。

ウクライナ軍はいつ、どこで、どの程度の兵力で攻撃するか選べる利点がある。

前述のロシア側のロゴフ氏は、ウクライナがロシアの防衛を混乱させようと陽動攻撃を仕掛けてくると予想。ドニプロ川を渡ってザポリージャ、ヘルソン両州に展開する小規模な偵察部隊を利用するだろうと語る。

一度攻撃が始まれば、天候やロシア側の能力、反撃意思、空軍部隊などの他のあらゆる要素も重要となりうる。

ロシアが反撃する?

防衛が成功する要因としては、反撃する能力や、進軍する敵のバランスを崩して望まない場所に戦力を投入させることが挙げられる。ロシア軍にこれを効果的に実施する能力があることには疑いがない。ただ西側の専門家は、ロシアのVNV空挺(くうてい)部隊などのエリート部隊が侵攻の初期段階で大きな被害を受け、まだ回復できていないとみている。

オーストラリア軍の元将校で、最近ウクライナを訪れたミック・ライアン氏は「ロシアの戦術的適応性をこれまで目撃してるものの、2023年の攻撃では作戦上の突破や利用を達成している様子は見られない」と語る。

だが、ロシアは上空で明確な優位性を保ち、これがウクライナの進軍を遅らせる上で決定的な役割を果たす可能性がある。ライアン氏はロシア空軍がウクライナの防空手段を回避するために、「スタンドオフ」の武器の使用を増やしていると言及。東部の激戦地バフムートでは1.5トン滑空爆弾が最近使用されているという。

「発射する航空機の生存可能性を高めるだけでなく、こうした武器の迎撃は非常に難しい」(ライアン氏)

前述のガディー氏も「長い目で見ると、ウクライナ軍はこの砲撃主体の地上戦における消耗という試練を回避するための厳しい時期を迎えることになる」とツイートした。

もしウクライナ軍がロシア軍のラインを破ることに成功し、メリトポリやベルジャンスクに到達したとしても、ロシアのプーチン大統領がウクライナでの目標を変えるとの目算は西側当局者の間でほぼない。

シュミット氏は、軍事力が機能するのは、それが政治的効果をもたらすときだけだと指摘する。「それはすなわち、プーチン氏にとって回避不可能な大きな敗北が必要になるということだ。それはクリミアの奪取といったものになるだろう」とシュミット氏は語る。

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