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「一番の標的は私たち全員」、ロシア軍攻撃から逃れる者なし ウクライナ大統領夫人が警告

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ウクライナ大統領夫人「我々の悲しみに慣れないで」

(CNN) ロシア軍が母国ウクライナに侵攻した際、ボロディミル・ゼレンスキー大統領とオレナ・ゼレンスカ夫人は亡命も降伏も拒み、代わりに――男女問わず多くの国民がしたのと同じように――軍事侵攻への抵抗を選んだ。

大統領がロシア軍への軍事的反撃に重点を置く一方、ファーストレディーは人道問題や子どもの問題を中心に、戦争によるウクライナの一般市民の苦しみを世界に知ってもらおうと活動している。

CNNのアンカー、クリスティアン・アマンプールはゼレンスカ氏にメール取材を行った。以下、ウクライナ語での夫人の回答を英語に翻訳した。

大統領夫人、こうした状況でご自身やご家族はどうやって持ちこたえているのですか?

まるで綱渡りをしているようです。どうしようか考え始めたら最後、ためらってバランスを崩してしまう。ですから持ちこたえるには、前に進んでやるべきことをやるしかありません。私の知る限り、ウクライナ人はみなそうやっています。

単身で戦場を逃れ、死を目の当たりにした人々の多くが、そうした経験から立ち直るには行動することが一番の薬だと言っています。何かをすること、誰かの役に立つこと。私個人も、誰かを守り、支援しようとすることで救われています。責任感が自制を生むのです。

ファーストレディーになった時、子どもの問題を活動の中心にすると公言しました。ご自身の子どもを含め、ウクライナの子どもたちが戦闘区域で苦しんでいるのを見て、さぞ胸が張り裂ける思いなのではありませんか?

おっしゃる通り、以前は子どもやそのニーズの問題が、全てのウクライナ人に公平な権利を実現することと並んで私の活動の中心でした。戦争前は何年もの準備期間を経て学校給食改革を実施し、子どもが病気にならないよう、おいしくてかつ健康的な給食の実現を目指しました。

今の私の心情ですか? もう何年も、いえ何十年も後戻りしてしまったような気分です。

ハンガリー・ザホーニに到着したウクライナ難民=3月10日/Christopher Furlong/Getty Images
ハンガリー・ザホーニに到着したウクライナ難民=3月10日/Christopher Furlong/Getty Images

今の課題は健康的な食事ではなく、食糧全般です。子どもたちの生死がかかっているんです! もはや以前のように、学校に最適な設備について話し合うことはなくなり――(代わりに)数百万人の子どもたちにどう教育を提供するかが課題になっています。

子どもたちの健康な生活を考える余裕はありません――(子どもたち)全員をいかに救うかが一番の課題です。

ウクライナの子どもの半分が国外避難を余儀なくされ、数千人が心身ともに傷を負いました。2月23日(ロシアの侵攻が始まる前日)は他のヨーロッパの生徒たちと同じように時間割があって、休日の予定も立てていました。

想像してみてください、家を建てて、改装して、窓辺には花を飾っていたのが、すべて壊されてしまった。暖を取るために、その瓦礫(がれき)の中で火を起こさなくてはならないのです。それが我が国の児童政策や一般の各家庭に起きていることです。

難民となったウクライナの女性や子どもたちのために、どんな支援をしているのか教えてください。こうした分野で、世界にできることは何でしょうか?

現在は複数の方面で活動しています。昨年夏には国家元首のファーストレディーやファーストジェントルマンを集めてサミットを開催しました。今回、この仲間が力になってくれています。

まずはもっとも弱い立場にいる人々――(がんを患った)子どもや障害児、孤児――を、治療やリハビリのために受け入れ賛同国に避難させています。ポーランド経由でヨーロッパ諸国に避難させるというのが主なルートです。

第2にウクライナに保育器を輸入して、ロシアの爆撃下にある都市で生まれた新生児の支援を行っています。多くの病院は停電状態で、子どもたちの命が危険にさらされています。そのため、滞りなく人命を救助するための器具が必要です。すでに2台の保育器が届き、今後さらに8台が届く予定です。

第3に、難民――子どもたちやその母親たち――が新しい土地に迅速になじめるよう取り組んでいます。人道支援だけでは不十分です。子どもたちは新しい土地で、一刻も早く社会生活や学校生活に慣れなくてはなりません。特に、国外に出た数千人の自閉症の子どもたちはそうです。学校に通いやすくなるよう活動しています。そうしなければ、子どもの成長が止まってしまいますから。

各国大使館と協力して、ウクライナ支援イベントのコーディネートも行っています。すでに国際的なコンサートがいくつか行われ、ウクライナの人道支援のために募金が寄せられました。

ロシアのウクライナ侵攻直前、ゼレンスキー大統領とゼレンスカ夫人が追悼式に出席/Evgen Kotenko/ Ukrinform/Future Publishing/Getty Images
ロシアのウクライナ侵攻直前、ゼレンスキー大統領とゼレンスカ夫人が追悼式に出席/Evgen Kotenko/ Ukrinform/Future Publishing/Getty Images

戦争の勃発以降、夫とは会えていますか?

実をいうと、ボロディミルは閣僚とともに大統領府で生活しています。危険なため、私と子どもたちはそこでの滞在が禁じられました。ですからもう1カ月以上も電話でしか連絡を取っていません。

全世界はゼレンスキー氏の戦時中のリーダーシップに感銘を受けています。お二人は2003年に結婚していますが、大学時代からのお付き合いですよね。当時から夫にはそういった面がありましたか?

彼は頼りになる人で、この先もそうだろうとずっと思っていました。素晴らしい父親になってくれましたし、家族思いです。そうした性格をいま発揮しているのです。

彼は昔から変わっていません。私に言わせれば、より多くの人の眼に触れるようになったというだけです。

娘のサーシャさんは17歳、息子のキリロ君は9歳です。お子さんたちには戦争についてどのように説明しましたか? お子さんたちはご一緒ですか?

幸いにも子どもたちとは一緒です。先ほども申し上げたように、世話をする相手がいることは自制につながります。これは子どもたちにも言えることで、今回子どもたちも見違えるように成長しました。きょうだい同士、あるいは周囲の人たちに責任感を持つようになりました。

戦争についてとくに説明する必要はありませんでした。今起きているあらゆることについて話します。私もブチャの子どものインタビューを見たり、友人やその子どもの話を聞きましたが、子どもも大人と同じように理解し、ちゃんと本質をとらえています。ある幼い子どもがこう言っていました、「なぜロシア人は意地悪なの? きっとおうちでいじめられていたのかな?」

あなたは夫に次ぐ2番目の標的としてロシア軍に狙われていると言われています。そうした危険を前にどうやって冷静を保っていられるのですか? あえてウクライナに残ることにしたのはなぜですか?

なぜかこういう質問を頻繁に受けるのですが、よく見てもらえれば、ウクライナ人全員がロシアの標的だということがはっきりわかると思います。すべての女性、すべての子どもたちが標的です。

先日、クラマトルスクから避難しようとして(いた最中に)ロシアのミサイルで亡くなった方々は、大統領の家族でもなんでもありません。ごく普通のウクライナ人です。ですから、敵にとって一番の標的は国民全員なのです。

ゼレンスキー氏はロシア語でロシア国民に直接語りかけていますが、その声を届けるのは明らかに困難です。ウクライナ国民に対する残虐行為をふまえた上で、とくにロシアの子を持つ母親や夫を持つ妻たちにぜひとも伝えたいメッセージはありますか?

ロシアのプロパガンダの度合いは、第2次世界大戦中のゲッベルスのそれとよく比較されますが、私の意見では(それを)越えています。第2次世界大戦には今のようにインターネットもありませんでしたし、情報にもアクセスできませんでしたから。

今ではブチャでのロシア軍による行為など、誰もが戦争犯罪を目の当たりにしています――ブチャでは手を縛られた民間人の遺体が無造作に道路に横たわっていました。

ですが問題は、全世界が目撃しているものをロシア人が見ようとしていない点です。それもひとえに心地よくいたいがためです。結局のところ、故人についての記事を読んだり、悲しみに暮れる親類や友人の姿を見たりするよりも、「あれは全部フェイクだ」と言ってコーヒーを飲んでいるほうがずっと楽ですから。

ブチャのある犠牲者の話を例に挙げましょう。タティアナという女性は、ロシア兵に銃殺されました。彼女の夫は遺体を移させてくれと侵略者に頼みましたが、殴られて拘束されました。

どうすればロシア人にこうしたことを知らせることができるだろうか? ますますそういうことを考えるようになりましたが、残念ながら彼らはあえて目を背けています。見ようとも聞こうともしません。なので私も、これ以上彼らに語りかけることはやめます。

今日ウクライナ人にとって一番大事なことは、他の国々が私たちに耳を傾け、目を向けてくれることです。そして犠牲者が単なる数字になってしまわないように、戦争を「いつものこと」にしないことが重要です。だからこそ私は、海外メディアを通じて皆さんに情報を発信しているのです。

我々の悲しみに慣れてはいけません!

ソーシャルメディアのご自身のアカウントを発言の場として、ウクライナの兵士やウクライナ人の抵抗を称賛していますね。自国について――とりわけあなたが言うところの、ウクライナの抵抗の「女性的な面」と呼ぶものについて、どのぐらい誇りに思っていますか?

戦争の初日、パニックは起きないことがはっきりわかりました。そうです、ウクライナ人は戦争など信じていませんでした――我々が信じていたのは文明的な対話です。ですが、攻撃が始まっても、私たちは敵が望むような「おびえた群衆」にはなりませんでした。私たちは組織化されたコミュニティーになったのです。

どの社会にも存在するような政治的対立やその他の軋轢(あつれき)はたちどころに消えました。誰もが国を守るために一丸となりました。

そうした例を毎日目にしています。そうしたことを発信するのに決して飽きることはありません。そう、ウクライナの人々は信じられないほどすばらしいのです。

確かに私は女性たちについてたくさん投稿していますが、それは女性たちがあらゆる場面で闘いに加わっているからです――軍隊や防衛軍では主に衛生兵として加わっています。子どもや家族を安全な場所へ避難させているのも女性たちです。女性だけが国外に行けるのです。ある意味で、女性たちが果たしている役割は男性よりもずっと多岐にわたっています。平等どころか、それ以上ですよ!

編集者注:取材の内容は明確さや長さの観点から一部編集を行った。

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