ANALYSIS

ロシア外相が中国とインドを相次ぎ訪問、ウクライナ侵攻の中で

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ロシアのラブロフ外相(左)が中国を訪れ、王毅国務委員兼外相と会談した/Ministry of Foreign Affairs of Russia

ロシアのラブロフ外相(左)が中国を訪れ、王毅国務委員兼外相と会談した/Ministry of Foreign Affairs of Russia

香港(CNN) ロシアのラブロフ外相は今週、中国とインドの外相を相次いで訪問している。ウクライナ侵攻による犠牲者が増える中、中国もインドもロシアの行為を非難するように国際社会から圧力を受けている。

ラブロフ氏は先月30日に中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相と会談した。ロシア侵攻以降2度目の外国訪問となる。

ラブロフ氏の訪中は表面上はアフガニスタンの混乱に関する協議のためとされている。だが、ある専門家は、ウクライナ情勢について議論しないことは「考えられない」という。そこにはロシアと同盟国ベラルーシが国際社会から受ける制裁も含まれる。

ロンドン大学SOAS中国研究所のスティーブ・ツァン所長はラブロフ氏の訪中前に、「両国が訪中の焦点を何と言おうと、ウクライナについて協議しないというのは考えられない」と語った。

今回の訪中はラブロフ氏にとって、中国やインドとの関係の現状を見定める機会となる。両国ともロシアに対する強硬な対応に欠けているとして、国際社会から厳しい目が注がれている。

両国はロシアの侵攻を公然と批判することを拒否し、ロシアに攻撃の即時停止を求める国連決議でも棄権している。

中国は30日、自国のスタンスを明確にした。

国営新華社通信によると、中国外務省の汪文斌報道官は「中国とロシアの協力に上限はない。平和に向けた取り組み、安全保障の保護、覇権への反対で上限はない」と語った。

中国との友好関係を再確認

中国はロシアのウクライナ侵攻以降、中立と称する立場をとろうとしている。ロシアに制裁を科さず、その行為を侵略とも呼ばない道を選んでいる。代わりに、この戦争について米国と北大西洋条約機構(NATO)を非難し、国営メディアはロシアの偽情報を広めている。

汪氏は30日、中国のスタンスは「対話と交渉がウクライナ危機を解決する唯一の正しい方法」というものであり、「火に燃料をくべるな」と警告した。この言葉は西側の制裁を非難する際に中国当局者が使うフレーズだ。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領は近年協力関係を育み、今年2月には両国の関係に「限界はない」とまで宣言した。両国は急成長する貿易パートナーであり、合同軍事演習を行い、西側の内政干渉と呼ぶものを非難し、国連での投票では頻繁にブロックを形成している。

インド・タクシャシラ研究所の中国研究のフェロー、マノジ・ケワルラマニ氏は「両国間には共通の目的がある。特に両国が望む国際秩序に関してはそうだ」と語る。

だが、ウクライナ侵攻は両国の関係を試すものとなっている。中国はロシアに何らかの支援をすれば、新たな制裁を受ける脅威にさらされている。ラブロフ氏の訪中は、両国関係の「グレーゾーン」についてそれぞれが明確にする機会となるため、訪問は賭けの要素が高いものになっている。

ツァン氏は「戦争はロシアにとって困難な局面にある。ロシア側は今後の中国から受けられる支援の大きさを確認したのだと思う」と語る。

また「中国側はロシアがどのような終局を考えているのか、ロシアの計画が中国に及ぼす影響はどのようなものなのかを把握したいのだと思う」と分析する。

ツァン氏はさらに、習主席はプーチン氏との個人的関係や国家間の関係を維持したいと考えているが、「そのために著しい対価は払わないだろう」と分析。ロシア側も「中国との『限界のない友好関係』は現実には明確な限界があることについて現実的な姿勢でいる」と見る。

中ロ両外相は会談後、団結を強調し、両国の友好関係を再確認したようだ。

王外相は「中ロ関係は国際社会の風景が変わる新たな試練に耐える」「中国は中ロ関係を新たな時代にさらに高いレベルへと引き上げるため、ロシアと協力する用意がある」と語った。

中国がロシアとウクライナを「困難を乗り越え和平協議を継続する」点で支援するとも表明し、ロシアの「大規模な人道危機を回避する」取り組みを称賛した。

ロシアの爆撃では住宅や学校、病院、避難所などの民間施設が破壊され、マリウポリをはじめとするロシア軍に包囲された都市は暖房や電気、水もない状況にある。

インドが行う武器貿易

ラブロフ氏は31日、2日間の滞在予定でインドに到着した。インドには今月、日本とオーストラリアの首相が訪れそれぞれ首脳会談を実施。今週にはドイツと欧州連合(EU)の外交官が訪れた。そしてラブロフ氏の訪問と同時期に、英国のトラス外相と米国のシン国家安全保障担当副補佐官(国際経済担当)もインドを訪問している。

「こんな状況になっているのは、欧州とウクライナで今起きている事態が主な要因だ」とケワルラマニ氏は語る。「インドの対応に関する議論が続いてるのは明らかだ」

インドはロシアの侵攻を非難することを拒んでいる。西側のパートナー国からの圧力にもかかわらずそうした対応をするのは、自国の安全保障でロシアの武器に依存しているのが主な理由だとケワルラマニ氏は指摘する。

民主主義国家として世界最大の人口を抱えるインドは、この数年、中国がこの地域で影響力を拡大する状況に対抗する方法を模索してきた。特に2020年の国境紛争では、両軍の兵士がこの数十年で最も流血する衝突に至り、緊張が激化した。

インドの領土防衛を固める上で、ロシアは極めて重要な存在となっている。18年、インドはロシアとの50億ドルの武器取引に署名した。インド軍の装備のうちロシアから提供されるものが50%を超えるとの推計もある。

ケワルラマニ氏は、ロシアとの関係が「インドの利益、特に安全保障上の利益のために不可欠なものとなっている」と語る。

多くの外交官がインドを訪れているのはインドの姿勢を変えようとするためかもしれないが、そのうちの多くがインドが抱える安全保障上の懸念を「理解している」と同氏は指摘する。

トラス英外相はインド訪問について、ウクライナ侵攻に対抗する「外交的な後押し」と位置付けている。

トラス氏は英外務省が30日に発表した声明で、「両国間の関係をより緊密にしたい。ロシアの一方的なウクライナ侵攻という局面ではこの関係がより重要になり、自由な民主主義国家が防衛や貿易、サイバーセキュリティーなどの分野で緊密に連携する必要性を強調するものとなる」と述べている。

こうした状況の中で、ラブロフ氏は「インドの雰囲気、インドがどんな政治姿勢をとるのかを把握しておきたいのだろう」とケワルラマニ氏は語る。

同氏はさらに、インドがロシアの侵攻を公然と支持することはないだろうとしつつも、インド国内では同国の経済や戦略的な未来について議論が続いていると指摘する。

「インドの政策を動かす方法を見いだそうとする取り組みが続いているのか? もちろんそうだ。インドは自国の利益を維持できるポイントを見極めようとしつつ、注意深い姿勢を保っていくだろう」と同氏は語る。

本稿はCNNのジェシー・イェン記者による分析記事です。

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