南ア大統領との会談で白人迫害の証拠とされる映像を流したトランプ氏 綿密に演出を計画
(CNN) トランプ米大統領は21日、南アフリカのラマポーザ大統領とホワイトハウスで会談した。トランプ氏がラマポーザ氏を大統領執務室に案内する直前、補佐官らが2台の大型テレビを運び込む姿が見られた。
ラマポーザ氏は、目にすることになる光景について思いもよらなかっただろう。
トランプ氏は照明を暗くするよう指示し、奇襲とも言える行動に出た。南アの白人が迫害と「ジェノサイド(集団殺害)」にさらされているという自身の誤った主張の証拠とする映像を流したのだ。
それまでトランプ氏とゴルフの会話に興じていたラマポーザ氏は衝撃を受け、黙って見守っていた。かつてマンデラ元大統領の首席交渉官を務めた経験豊富な外交官である同氏でさえ、動揺を隠せなかった。
この出来事は入念に計画されたもので、トランプ氏がカメラに向かって見せるための印刷物も用意されていた。印刷物は、白人の「ジェノサイド」という同氏の主張を裏付けるとされる内容だった。
トランプ氏は数カ月前から、南アでは白人の農家が土地を奪われ、大量に殺害されていると主張しており、同氏が過激な主張を掲げるために今回の会談を利用するのは、おそらく避けられないことだった。先週だけでも、ホワイトハウスから難民と認定された南アの白人59人が米国に到着している。
1月の大統領就任以降、トランプ氏は会談を国民の敵意をあおる場とすることにほぼためらいを見せていない。しかし、今回の映像を使ったサプライズは、これまで大統領執務室で見せてきたどの演出をも上回るものだった。2月にウクライナのゼレンスキー大統領と口論になった際も、一部の批評家は仕組んだ罠だとみたが、視覚的な補助手段はなかった。
ホワイトハウス当局者は、トランプ氏が今回の会談を「メディアが目をつむってきた」問題に光を当てるために活用したと主張した。CNNは南アにおける白人「ジェノサイド」の主張を調査したが、それを裏付ける証拠は見つかっていない。
一方でトランプ氏はこの問題について「数千人」から話を聞いたという。ラマポーザ氏が冷静に自国の状況を説明し、トランプ氏の主張を論破しようとしたにもかかわらず、トランプ氏は動じていないようだった。
「死、死、死、恐ろしい死だ」とトランプ氏は印刷物をめくりながらつぶやいた。
映像の再生が終わるとすぐに、ホワイトハウスは公式SNSに映像を掲載。トランプ氏が会談中に振りかざした印刷物は、側近によって意図的にネットで共有された。
トランプ氏の支持者らは、両氏の対立をネットで称賛。トランプ氏が世界の指導者たちに責任を問う新たな事例との見方を示した。
ラマポーザ氏が貿易などの地政学的な問題について議論したいと考えていた一方で、映像や印刷物が整然と展開されたことは、トランプ氏と周囲が会談の場を使って迫害という自らの主張を広めるためにどれほど熱心に準備したかを物語っていた。
ラマポーザ氏は映像を見たうえで、南アは複数政党制の民主主義国家であり、人々は自由に発言できると反論。政府の政策は、トランプ氏の発言とは全く異なっていると訴えた。
トランプ氏が南アの白人への虐待疑惑に固執するのは、今に始まったことではない。1期目にも土地を追われた白人の農業従事者を支援したいと発言したことがある。しかし、2期目には就任から数カ月で抑圧と「ジェノサイド」を公然と主張するなど、その姿勢は著しく強まっている。
ホワイトハウスは、アフリカーナー(オランダ系などの白人)の難民認定手続きを迅速化する一方で、他の国籍の難民申請を一時停止。今年初めには、南アへの援助を凍結し、大使を国外追放した。
アパルトヘイト(人種隔離)後の救済策として意図された南アの法律に向けられたトランプ氏の批判は、多くの点で、米国における多様性促進策を根絶しようとする同氏の取り組みと一致する。これらの取り組みは、同氏が怒りの矛先を向ける南アの一部の法律と同様に、歴史的な人種格差の是正を目的としている。