トランプ氏が再開指示のアルカトラズ刑務所、現地の様子は
(CNN) アルカトラズ刑務所の再開はまさにトランプ大統領らしいアイデアであり、これまでやろうとしなかったことは奇跡的だ。
殺人的に渦巻く潮流に囲まれた島の小さな独房に犯罪者を閉じ込めることはトランプ氏のマッチョな見せ物への渇望を満たすことになるだろう。
1963年の閉鎖から数年後、アルカトラズ刑務所はポップカルチャーの象徴となり、アル・カポネのようなギャングの受刑者たちの悪名高い物語や、無法者や残虐な司法を描いた映画など、トランプ氏を長年魅了してきた伝説を生み出した。その悪名高い遺産は、ホワイトハウスが強硬な刑事司法と移民の大規模な国外追放計画を推進するなかで織りなす冷酷なイメージと見事に一致している。
「ザ・ロック」としても知られるアルカトラズ刑務所の再開は、トランプ氏自身の自称強権政治家としてのオーラを強め、トランプ氏を冷酷な人物に見せることになるだろう。これは、ホワイトハウスの多くの政策の背後にある目標だ。リベラル派はこうした考えに恐怖を感じるだろうが、トランプ氏のディストピア的な演出に反応する支持者たちは、最悪な人々のための拠点として、これを当然のことと受け止め、首を縦に振るかもしれない。
トランプ氏はアルカトラズの魅力を自身の指導力の寓意(ぐうい)として隠そうとはせず、この島を「悲しい象徴だが、法と秩序の象徴でもある」と述べた。5日にはホワイトハウスで、記者団に対し、かつてアルカトラズには「世界で最も凶悪な犯罪者たち」が収容されていたと振り返った。

アルカトラズ島の近くを飛ぶカモメ=2003年7月/Justin Sullivan/Getty Images/File
おそらく実現しない計画
もちろん、サンフランシスコ沖にあるアルカトラズ島を連邦刑務所として復活させるのは極めて非現実的だ。実業家のイーロン・マスク氏が連邦政府の予算を削減している時期に数百万ドルの無駄遣いとなる可能性がある。アルカトラズを現在の基準に適合させるのは、必ずしも受刑者のためではなく、そこで働く刑務官の安全を確保するためだけであっても、途方もない作業となるだろう。そして、政権の強制送還と法の支配に対する軽率なアプローチはアルカトラズ刑務所の収容者がどのような適正手続きを期待できるのかという点で深刻な懸念を引き起こす。
だが、トランプ政権は、何よりも善政を旨としてきたというわけではない。
もし、トランプ氏の目標が最悪の犯罪者を収監することならば、例えば、コロラド州の「スーパーマックス刑務所」を選ぶこともできるだろう。靴に仕掛けた爆弾で航空機を爆破しようとしたリチャード・リード受刑者や世界貿易センタービル爆破のラムジ・ユセフ受刑者、オクラホマシティー爆弾テロの共謀者テリー・ニコルズ受刑者などが隔離された、決して出ることができない厳格な施設だ。しかし、受刑者はスーパーマックス刑務所に送られ、国民の意識から消える。これは、複数の終身刑とならんで刑罰の一部なのだ。
トランプ氏はすでに、キューバにあるグアンタナモ米軍基地に不法移民の移送を試みている。グアンタナモ基地では、米同時多発テロの首謀者ハリド・シェイク・モハメド被告が収容されている施設とは別の施設の設置が検討された。しかし、肝心なのは、その名前が持つ暗い意味合いだった。
アルカトラズ刑務所の再開は、この戦略の究極の反復となり、トランプ氏の演出された強さとまがいものの政治的正しさの生きた象徴を作り出すことになるだろう。
そして、たとえ、何年にもわたる行政上の遅延や法的闘争、そのほかの障害により、トランプ氏が刑務所を再開することが決してできないとしても、トランプ氏はすでに注目を集めている。
この計画はトランプ氏にとって、もう一つ有利な点がある。「アルカトラズ2.0」は米国で最もリベラルな都市の一つであるサンフランシスコの精神に恥をかかせることになるだろう。サンフランシスコはたまたま、トランプ氏の宿敵であるナンシー・ペロシ元下院議長の地盤でもあるのだ。カリフォルニア州選出のペロシ氏はトランプ氏の最新の提案を、かつてのライバルにむける軽蔑のまなざしで一蹴した。ペロシ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「アルカトラズは連邦刑務所として60年以上前に閉鎖された。今では非常に人気のある国立公園であり、主要な観光名所となっている。大統領の提案は真剣なものではない」と指摘した。
しかし、独裁者を称賛するトランプ氏の、観光名所を啓蒙(けいもう)が遅れていた時代の厳しい正義を復活させる荒涼とした強制収容所に変えるという選択は、第2次政権にとってこれ以上ない比喩と言える。

セント・ジョーンズ教会へ向かってラファイエット広場を移動するトランプ大統領ら=2020年6月/Patrick Semansky/AP
注目を集める政治は裏目に出ることもあるが成功も多い
トランプ氏の任期は、テレビで放映された奇抜な演出や突飛なコンセプトの連続のように思われることが多い。最初の任期は、テレビ番組「アプレンティス」の人気者によるリアリティー番組の延長だという見方が決まり文句として繰り返された。
1期目の後半になると、トランプ氏の演出された行動の多くはますます問題視されるようになった。例えば、首都ワシントンのラファイエット広場でデモ参加者が強制的に排除された直後にトランプ氏が行進した様子などがそうだ。トランプ氏の行進には、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)も参加していた。ミリー氏はその後、政治的な意図を持った写真撮影に参加したことを謝罪したが、その謝罪のために今度はトランプ氏から怒りを買うはめになった。
2021年1月6日にワシントンのエリプス広場で行われたトランプ氏の支持者による集会は、米国史上最も暗い瞬間の一つのきっかけとなり、「MAGA(米国を再び偉大に)」運動の支持者による連邦議会議事堂襲撃につながった。
2期目では、政権の政治的な演出は意図的に権威主義的な色合いを帯びてきた。トランプ氏は先にNBCの番組で憲法を順守する必要があるかどうかを質問され、「分からない」と答えた。トランプ氏は自身の誕生日に陸軍創設250周年を祝う軍事パレードを行うが、これは旧ソ連の指導者が愛したミサイルや戦車のパレードを彷彿(ほうふつ)させるものとなるだろう。
トランプ氏の突飛な計画はおうおうにして、人々の注意をそらすための計算づくのようだ。アルカトラズ刑務所の再開という考えはNBCでの発言から注意をそらすためのものだったかもしれない。あるいは、行き当たりばったりの関税戦争で経済が揺らぐなか、間もなく進展があると繰り返し予測しながらも、いまだに約束した貿易協定を一つも締結していないことを人々に忘れさせようとしたのかもしれない。トランプ氏が話題を変えようとするのには十分な理由がある。中国の報復に腹を立てたトランプ氏が課した145%の関税に苦しんでいる中国との実質的な協議がまったく行われていないことは、近いうちに大きな危機を引き起こす恐れがあるからだ。
トランプ氏は別のときには、スポットライトを浴びること自体への情熱から突き動かされているようにみえる。華やかさへの渇望は1期目に英国の故エリザベス女王を国賓として公式訪問したことで満たされた。チャールズ国王は再びトランプ氏を国賓として招待した。
トランプ氏がかつて「小さなロケットマン」と呼んだ北朝鮮の独裁者、金正恩(キムジョンウン)総書記との首脳会談は、ここ数十年で最も衝撃的な外交の一つに数えられる。トランプ氏は北朝鮮に足を踏み入れ、自ら歴史の一ページを刻んだ。写真撮影の機会は素晴らしく、世界中を魅了した。しかし、この首脳会談は北朝鮮の核・ミサイル開発計画を根絶するという長期的な状況の打開にはつながらなかった。それでもトランプ氏は北朝鮮に対する伝統的な外交や関与、あるいは制裁を追求してこれほど成功をおさめた現代の大統領は他にいないと主張するかもしれない。
トランプ氏の芝居がかったスタイルが裏目に出たり、不快感を与えたりしたこともあった。例えば、17年の最初の就任式で、任務中に死亡した職員を追悼する中央情報局(CIA)の「星の壁」の前に立ち、集まった群衆の多さを自慢したときなどだ。また、別の機会では、ボーイスカウトの全国大会で政治的な発言を連発したこともあった。
しかし、トランプ氏の芝居がかった演出の才能は、極限の状況を政治的な不滅の業績へと昇華させることにも役立ってきた。ジョージア州の刑務所で撮影された、収容の際に必要となる顔写真「マグショット」は他の政治家ならキャリアが終わっていただろう。トランプ氏はそれを米国史上最も驚くべき政治的復活の足掛かりとした。そして、暗殺未遂犯の手から逃れた後、トランプ氏は冷静さを保ち、立ち上がり、こぶしを握り締め、米国の歴史に残る最も忘れられないイメージの一つを作り出したのだった。
その瞬間はトランプ氏の政治的パフォーマンスに共通する特徴と一致している。支持者には抵抗し難い魅力を持つ一方で、批評家にとっては民主主義を軽蔑する扇動政治家を彷彿させる。2度目の就任式後にステージで大統領令に署名するときも、新型コロナウイルス感染症から生還してホワイトハウスで征服の英雄を気取るときも、不法移民を手錠で拘束してエルサルバドルに送り込むときも、トランプ氏は冷酷な権力をふるう現在のカエサルを装っている。
そうした考え方が、アルカトラズ刑務所を再開するよう連邦刑務所局に命令することにつながったのだ。
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本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。