OPINION

生殖に関する権利について子どもたちに話す

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米最高裁で、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める「ロー対ウェイド判決」が覆された/Peter Berglund/E+/Getty Images

米最高裁で、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める「ロー対ウェイド判決」が覆された/Peter Berglund/E+/Getty Images

(CNN) 人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める「ロー対ウェイド判決」が覆されたことを受け、10代のわが娘は、素朴な疑問を私に投げかけた。

「今の女性にとって、これはどういう意味を持つの?」

私は台所のテーブルに腰掛け、いまだ自身のショックに対処しようとしていた。この質問こそ、私ができれば娘に対して答えたくないと思っていたものだったからだ。

だが、その後は(娘はセラピストである母親がこうしたことに精通していることを知っている)、体の自己決定権、同意、包括的な医療について細かく娘と話し合った。(娘が最初にこの決定を知った)インスタグラムのストーリーは、必ずしもすべてを語っているわけではない。だから娘は、自分が見たものを整理するための情報を必要としていたのだった。

続いて、娘はもう一つ質問をしてきた。「私はどうしたらいいの?」

子どもや10代の若者たちは、私たちの国に影響を及ぼす複雑な問題について自分の感情を整理する場面に遭遇すると、行き詰まりを感じがちだ。我々が持つ投票権は変化をもたらす手段としてしばしば言及されるものの、子どもたちはまだその権利がない。

「このように、子どもや10代の若者は無力感を感じることがよくある。しかし、今日の子どもたちは、ますます安全とは感じられない国で育っている」と、臨床専門カウンセラーの資格を持ち、「ミドルスクール・マターズ」の著者であるフィリス・フェイゲル氏は話す。「安全というと、ヘイトクライム(憎悪犯罪)や学校での銃乱射事件を思い浮かべがちだが、自分の体について決定する能力を失うことも同じくらい怖いことだ」と同氏は指摘している。

(ロー対ウェイド判決の破棄を喜ぶ人もいるが、6月22日に発表されたキニピアック大学の世論調査によると、米国の登録有権者の61%が、女性が中絶する権利を確立した1973年の最高裁判決に賛成している。また、若い成人の回答者は、ほとんど、あるいはすべての場合において合法的な中絶を支持する傾向が強かった)

家庭内で恐れのない空間をつくる

とはいえ、若者は自分たちが思う以上に変化をもたらすことが可能だ。それはまず、その問題を理解することから始まる。

子どもや10代の若者は、親が話を聞き、正確で偏りのない情報を与えてくれる、もしくは見つける手助けをしてくれると信頼したときに話をする。子どもたちは、安全な空間のみならず、自分たちの不安が共有でき、質問ができ、感情を整理できる恐れのない空間を必要としている。

親は、「ロー対ウェイド判決の破棄について、ソーシャルメディアで何を見たの? 理解するのはなかなか大変だと思うけど、聞きたいことはある?」といった質問を投げかけることで、難しい話へのきっかけを作ることができる。ソーシャルメディアにアクセスできない小さな子どもたちには、彼らが耳にしていると思われることを説明しよう。「多くの人が今、赤ちゃんを産むかどうかの選択について話題にしているよ」と言うのは、切り出し方としては良いだろう。

感情的になりやすい他の多くの話題と同じように、このテーマに関する話し合いは一度きりで終わるものではない。特に10代の若者に対しては、常に気を配るようにしたい。

生殖に関する権利の意味について語ろう

リプロダクティブ・ライツ・センターがまとめた統計によると、世界では毎年30万人近くの女性が妊娠・出産時に死亡しており、最も貧しく社会の主流から取り残された人々は、差別や医療サービスを十分に受けられないことなどから、最大のリスクに直面している。生殖医療は医療であり、妊娠・出産時の死亡者数を減らすためには、米国内・海外を問わず、出産するすべての人が適切な治療を受けられるようにすることが必要だ。

10代の子どもたちと話をする場合、まず彼らが何を知っているのかを聞き、それが何を意味するのかを話し合うのが良い。生殖に関する権利は、避妊、中絶、不妊治療を受ける権利など、自分の体の生殖能力について決定する法的権利を中心に据えたものだ。

次にこうした会話で見過ごされがちな陰影の部分についても確認したい。若者や性的少数者(LGBTQIA+)、低所得者、遠隔地居住者、有色人種など、米国内外のすべての人が生殖に関する健康について決断するために必要な包括的医療を受けられるわけではないことを理解することが重要だ。

小さな子どもたちに対しては、「赤ちゃんを産む、産まないを含めて、自分の体のことは自分で決める権利がある」と言って、簡潔に説明しよう。要するに、すべての人が自分の体について最善の決断をするために、医療が受けられ、正確な情報が得られるべきなのだ。

子どもたちの気持ちを受け止める

生殖に関する権利が保護されている州で育つ子どもたちにとっても、体の自己決定権に関する連邦政府の後ろ盾がなくなることは不安材料になり得る。子どもたちは、権利が保護されなくなった州に住む同年代の仲間たちのことを考え、権利が守られないことは、自分たちの将来にとってどんな意味を持つのかを考えるかもしれない。

「大人は、子どもたちが感じる不安が合理的で現実的なものであることを認めることで、子どもたちを助けることができる」とフェイゲル氏は述べている。「権利が守られないことが、どれほど苦痛を与えているのか分かるよ」「君がなぜそう感じているのか、私は理解できるよ」などといった言葉は、共感や思いやりを表している。親は否定的な感情を完全に取り除いてあげることはできないが、子どもたちと一緒に苦悩を乗り越えることで、彼らが理解してもらえたと思えるよう手助けすることは可能なのだ。

行為主体性を育む

子どもたちが無力さを感じると、世界は恐ろしい場所のように感じられるだろう。大人が、資金を集めたり、何らかの形で声を上げたりするなどして、子どもたちが変化を引き起こせる方法を見つけてあげると、彼らは希望を持つようになる。

生殖に関する権利を支持する我々にとって、この戦いはまだ終わっていないことを、子どもたちや10代の若者たちには知ってもらいたい。国中で組織、団体、個人が、連邦・州レベルで生殖に関する権利の回復に向けて取り組んでいる。子どもたちもこの運動に貢献できるのだ。

フェイゲル氏は「子どもたちは、運命の受動的な犠牲者のように感じた時、より多くの苦しみを経験する」と警告。そのうえで、「小さな一歩でもいいから、自分自身や他人を擁護するためにできることを認識することが有益となる」と指摘した。同氏は、議員に手紙を書いたり、生殖に関する権利を擁護する団体に寄付したりすることを提案した。家族でプラカードを作り、地域社会で平和的な抗議活動に参加したりするのも良い。

常に門戸を広げておく

重要な話題がニュースで取り上げられると、その場ですぐに教育的な話をしがちだが、そうすると子どもたちが十分に理解したと感じる前に次の話題に移ってしまう。実際、生殖に関する健康についての会話は複雑で、かつ若者に直接影響を与える性的健康やその他の問題にも関連するため、話し合いは継続的に行われるべきなのだ。

子どもと話す時は、会話調で親しみやすくすること。質問の答えが分からない時は子どもと一緒に情報を探すと良い。子どもは大人に答えを求めるが、分からないことがあったら、大人も子どもも皆、他の人に頼ってもいいということを教えてあげることも大切だ。また、正確な情報を入手すること、本物と偽物のニュースサイトの違いを理解すること、報道された記事と意見の違いを見分けることなど、デジタルリテラシーについて子どもたちと話し合う機会にもなる。

私の娘は、ロー対ウェイド判決破棄のニュースを時間をかけて消化したのち、持ち前の芸術的スキルとソーシャルメディアの知識を組み合わせ、このテーマに関する活動を積極的に行い、自分の意見を主張していくことを決めた。

先人たちがそうであったように、娘もまた、社会全体の利益のために声を上げる方法を模索している。すべてはここから始まるのだ。

ケイティー・ハーレイ氏は心理療法士で、少女の子育てに関する著作がある。記事の内容は同氏個人の見解です。

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