機内からリクライニングシートが消えつつある理由

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リクライニングできるからといって、誰もが席を倒した方がいいと考えるわけではない/Kumar Sriskandan/Alamy Stock Photo

リクライニングできるからといって、誰もが席を倒した方がいいと考えるわけではない/Kumar Sriskandan/Alamy Stock Photo

2000年代終盤、高度な技術を駆使した次世代超軽量シートが航空市場に進出し始めたが、超軽量を可能にした要因のひとつがリクライニング機能の撤廃だった。マーケティングの達人の発案で「プレリクライニングシート」と呼ばれたこのシートは、背もたれを完全な直立状態からやや後ろに倒した角度で固定されていた。

当初は格安航空会社を主に対象としていた。こうした格安航空会社は通常わずか数時間のフライトを運航し、過剰なサービスをそぎ落すことで有名だ。

いち早く導入したのが、欧州パッケージツアーを専門とする英航空会社ジェットツーだった。同社は09年、アクロ社製のプレリクライニングシートを採用した。当時は新興シートメーカーだったアクロは、航空会社のシートに対する考え方に革命を起こした。

当時はClarkと呼ばれ、現在はSeries 3と改名されたアクロ社のシートは、いくつかの主要な点で一線を画していた。

リクライニング機能がないこともそうだが、もうひとつ画期的だったのがシートの製法だ。シートパンと背もたれから、形が固定したくぼみのある「バケツ型」シートを作ったのだ。

この形状だと、後部座席に座った背の高い乗客は「バケツ」の両脇にひざを置けるので、座席スペースに数インチのゆとりが生まれる。

実はこの数インチが重要なのだ。ボーイング737型機やエアバスA320型機など、全席エコノミークラスの単通路型機体の場合エコノミー席は30列前後。旧式シートは30インチ前後(約76センチメートル)――座席のある部分から、前の座席の同じ部分までの距離――の間隔を空けて配置されていた。

航空会社が1列あたりのスペースを1インチ詰めることができれば、機体全体で30インチ、すなわちシート1列分になる。

この分を削るために、この10年あまり様々なシートメーカーがプレリクライニングシートなどの技術開発に励んできた。

とくに評判が高いのが、ドイツのシートメーカーのレカロ社だ。航空業界以外ではレーシングカーの座席で知られる同社は、リクライニング機能や傾斜した座面など、長距離フライト向けの完全装備型エコノミークラスシートはもちろんのこと、短時間のフライト向けにスリムなプレリクライニングシートも提供している。

プレリクライニングの台頭

リクライニングに代えて「プレリクライニング」を導入することで、怒る乗客を減らすことができる/Stefan Kruijer/Airbus/p202106006
リクライニングに代えて「プレリクライニング」を導入することで、怒る乗客を減らすことができる/Stefan Kruijer/Airbus/p202106006

「航空会社はシート構成の段階で、背もたれの角度を15度と18度のどちらにするか選ぶことができる」と、レカロ社のマーク・ヒラー最高経営責任者(CEO)は言う。「背もたれの角度を大きくして快適性を増すこともできれば、特定の乗客数を乗せる特殊なレイアウトを実現することもできる」

「一番の利点は、リクライニングで乗客のスペースが侵されることがなくなるので、座席スペースが増える点だ。加えて、所有者のコストもトータルで抑えられる。シートの可動パーツが減り、信頼度もアップし、メンテナンスを簡略化できる。また機械構造やキネマティックなどが要らなくなるので、重量やコストも削減できる」

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