デンマーク、ディープフェイク対策の法案整備 全国民の外見と声に財産権認める内容
(CNN) デンマーク政府は、人工知能(AI)によって生成されたディープフェイクの問題に対処するため、自国民の外見と声に対して財産権を与える計画だ。
提案されている法案は、自分の特徴がディープフェイクの作成に利用されたと気づいた人が当該のコンテンツを提供するプラットフォームに削除を求める権利を得られるようになるという内容。デンマークのエンゲルシュミット文化相が27日、CNNの取材に明らかにした。
エンゲルシュミット氏は「技術の進歩が法律を上回ってしまった」との見解を表明。法案はアーティストや著名人、さらに一般市民をデジタルアイデンティティーの盗難から守るのに役立つだろうと述べた。同氏によると、デジタルアイデンティティーの盗難は、生成AIの威力のおかげで、わずか数回のクリックで可能になるという。
その上で同氏は、複数のミュージシャンの事例に言及した。これらのミュージシャンは自分たちの曲だと謳(うた)ってネット上に公開されている楽曲を発見したが、実際のところそれらはAIが作り出した自分たちの声のクローンだったという。
カナダ出身の歌手セリーヌ・ディオンさんは3月、自身の声と外見を模倣したAI生成コンテンツがネット上で拡散していることについてファンに警告した。また昨年4月には200人以上のアーティストが、音楽業界におけるAI関連の脅威に反対する公開書簡に署名していた。
エンゲルシュミット氏は今回のデンマークの法案について、超党派の支持を得ており、今秋には成立するだろうと確信していると述べた。
法案が可決されれば第2段階として、さらなる法案が導入されるとみられる。その内容はAIで生成されたディープフェイクを含むコンテンツの削除要請に従わない企業に対し、罰金を科すものになる可能性があるという。
テクノロジー企業と法案について協議したかどうかについて、エンゲルシュミット氏は「まだだが、楽しみにしている。AIが芸術家や有名人、一般の人々にとって不利になるのではなく、人類のために機能させることは、彼らにとっても利益になると思う」と述べた。
英レスター大学でテクノロジーと社会について研究するアティナ・カラツォジャンニ教授はCNNに対し、デンマークの提案は世界中で繰り広げられる数百件に及ぶ政策イニシアチブの一つだと指摘。これらの目的は生成型AIの悪用に伴う潜在的な危害を軽減することにあると語った。
「ディープフェイクは個人と社会の両方に影響を与える恐れがある。個人の権利を侵害するだけでなく社会政治的な打撃ももたらすのは、それらが平等や透明性といった民主主義の根幹を成す価値観を傷つけてしまうからだ」(カラツォジャンニ氏)