OPINION

ウクライナに訪れるターニングポイント

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ウクライナ東部ドネツク州バフムート近郊を、戦車で移動するウクライナ兵/Anatolii STEPANOV / AFP

ウクライナ東部ドネツク州バフムート近郊を、戦車で移動するウクライナ兵/Anatolii STEPANOV / AFP

オデーサ(CNN) 1月6日、大勢の人々がウクライナの沿岸都市オデーサで、冬の気温をものともせず黒海に飛び込んだ。キリスト教の祝日である公現祭に合わせ、キリストの洗礼を記念する行事の一幕だ。

凍える海への今年の飛び込みには、一段と重要な意味があった。戦禍に見舞われたウクライナが初めて、当該の祝日をグレゴリオ暦に従い(1月6日に)祝ったのだ。従来であればユリウス暦の日付(1月19日)だった。

昨年、ウクライナは法律を制定し、クリスマスを祝う日も多くの西側諸国と同じ日に移行した。ロシアと共通する祝日の伝統からまた一歩距離を取った形だ。

ウクライナ南部オデーサでキリスト教の公現祭の祝福として黒海に十字架を投げる聖職者/Oleksandr Gimanov/AFP/Getty Images
ウクライナ南部オデーサでキリスト教の公現祭の祝福として黒海に十字架を投げる聖職者/Oleksandr Gimanov/AFP/Getty Images

しかしこの2~3週間はとりわけ、迫りくるロシアから自らを引き離すのはほとんど不可能だった。ミサイルとドローン(無人機)のすさまじい一斉攻撃が、オデーサを含むウクライナの複数の都市に降り注いだからだ。

2023年が幕を下ろそうとする中、ロシアは本格侵攻の開始以降で最大となる攻撃をウクライナに仕掛けた。わずか2~3日後にも、ほぼ同程度の一斉攻撃が行われた。

これらの攻撃の強度と頻度は、ウクライナ軍の反転攻勢の失速や西側の巨額支援の行き詰まりに関する報道を背景に、戦争の重要なターニングポイントを示すものとなっている。

世界の注目が中東のイスラエル・ハマス紛争に大きく転換する状況では、ウクライナ人が不安に駆られるのも無理はない。

ロシアによる全面侵攻が開始してから初めて、最も百戦錬磨の知人でさえ今では懸念の声を上げるに至っている。年明け2度目の一斉攻撃の後は特にそうだ。

「あの朝はひどかった。ドローンだけでなくロケット弾も撃ち込まれた。事態が本当に深刻となったのは、ロシアのロケット弾を迎撃するパトリオットミサイルがいくつ残っているのかが分からなかったからだ」。友人で欧州安全保障協力機構(OSCE)の元同僚、オルハ・ラドケヴィチ氏は、筆者にそう語った。

「ここで問題になっているのは人の命であり、誰もが実感している通り、もし米国が我々への支援を止めればそうした攻撃はより頻繁で激しいものになるだろう」「人々は最近になってすっかり疲れ切ってしまった。疲労がますます見て取れる。人はこんな環境でどれくらい生きられるのだろうか?」(ラドケヴィチ氏)

大晦日(おおみそか)は友人たちと夕食を共にした同氏だったが、それでも戦争を忘れようとする努力は無駄に終わった。ロシア軍のドローン1機が近所を飛び回り、注意を払わざるを得なかったためだ。

過去には安全保障の専門家が、ロシア軍の兵器の備蓄について枯渇しつつあると推測したこともあった。しかしクレムリン(ロシア大統領府)は再供給を済ませたらしく、現在報じられるところによれば同盟国である北朝鮮製の短距離弾道ミサイルをウクライナで使用している。

一方、イランからのドローンの供給はほぼ際限なく行われているようだ。同国を巡っては既に技術を移転し、より多くのドローンをロシア国内で製造する態勢にあるとの不安な報道も流れる。そこでの新たな備蓄は、従来の規模を「格段に上回る」とされる。

兵力の動員:政治的難題

ロシアの全面侵攻から丸2年の節目が近づき、近い将来の収束も見通せない中、ウクライナの指導者たちは自国の市民により多くを求めなくてはならない状況にある。

国会が今後通す見込みの新たな動員法により、最大50万人が戦場に投入される可能性がある。

ゼレンスキー大統領はこの物議を醸す法律から巧みに距離を置いているようだが、動員については必要な措置であり、これによって前線で数カ月戦っている兵士たちの困難が軽減すると述べている。露骨に政治的な動きの中で、同氏はその責任を軍の上層部、とりわけザルジニー総司令官に負わせた。潜在的な政敵とも目されている同氏が、動員の論拠を一般国民に説明する形となっている。

ゼレンスキー氏はまた、徴兵年齢の下限を現行の27歳から25歳に引き下げる考えも示唆した。

動員に関する変更は政治的な難題であり、わざわざ手を付ける指導者はほとんどいない。ロシアのプーチン大統領ですら、第2次大戦以降初となる動員令を署名するまでに数カ月間様子を見ていた。

ウクライナの戦死者の正確な数を算出するのは不可能だが、誰であれ西部リビウにある墓地の軍人用の区画を訪れれば、そこに眠る戦死者の数がこれ以上埋葬できない水準近くまで増加しているのを確認できる。

多くの前線を抱える戦争

この戦争は多くの前線を抱えている。クリスマス前のキーウを訪れた時、筆者は明確な経済活動の停滞を目の当たりにした。戦争の傷の広がりも、今やほとんど無視できないものとなっている。

中央駅を出てすぐ旅客らの目に飛び込んでくる背の高いオフィスビルは、正面が爆発で激しく損壊している。街の中心部にあるビストロは、かつて外国人が足繁く通っていたが、この時はウェートレスがたった一人。テーブルも二つしかなかった。「人々はどんどん貧しくなる。状況は毎月悪化している」。ウェートレスは筆者にそう告げた。

米国と欧州連合(EU)による二つの支援パッケージはそれぞれ610億ドル(約8兆9000億円)と520億ドルだが、これらは政争のために滞る恐れがある。ウクライナ全土の空気が打ち沈んだものに転じるのも無理はない。

時計の針は、かつてないほどの音量で鳴り響く。ウクライナの抱える財政赤字は膨大で、報道によれば来る2月には公共部門への賃金の支払いができなくなる見通しだ。

24年は大いなる凍結解除の年に?

しかし少なくとも一つの領域において、ウクライナは希望を抱くことができる。ロシアの資産だ。ウクライナは先週、大きな勝利を挙げた。EUがロシア最大のダイヤモンド採掘会社アルロサとその最高経営責任者(CEO)に対する制裁を承認したのだ。EUによれば、ロシアのダイヤモンド生産の9割を占める同社は「経済分野の重要な部分を構成しており、政府に実質的な収益を提供している」。

ロシアのダイヤモンド輸出の総額は年間約44億ドル。そのうち16億ドルをEUが輸入している。制裁が巨大な穴となり、プーチン大統領の軍事機構に対する資金供給に影響が及ぶ可能性もある。

ウクライナは間もなく、ロシアが国外に蓄える推定数千億ドルの凍結資産から利益を得るかもしれない。手始めは税収としてベルギーが徴収する分だ。同国は膨大な量に上るロシアの凍結資産を保有している。推定24億ドルのこの税収は、ウクライナの財政赤字を建て直す上での大きな追加分となるだろう。

米国と西側の同盟国は、それ以外の凍結資産の対応にも熱心に取り組んでいる。米国が主導する工程表の展開は、全面侵攻から丸2年を迎える2月半ばの前にも実現するかもしれない。

それでも最終的に、プーチン氏の目的達成の阻止はウクライナ人自身の肩に掛かってくるだろう。同氏が目指すのは、ウクライナ人国家の完全な破壊に他ならない。ウクライナ国内の武器生産が23年に3倍に拡大し、何もないと見られる状況から先進的なドローンを生み出したとの知らせは、筆者に希望を与えてくれる。西側による支援の増強があろうがなかろうが、ウクライナはロシアを撃退するだろう。

それが遠い幻想に感じられるときはいつも、議員で政党ホロスを率いるキラ・ルディック氏に言われたことを思い起こすようにしている。同氏は1月2日、キーウにある自身のアパートをロシア軍の攻撃によりひどく破壊された。「非常に多くの愛情と支援、共に働く人々を目の当たりにしてきた。普段はとても目にすることのないものだ。だから疲弊していると誰かに言われれば当然、戦争で疲れ切った状態にはある」(ルディック氏)

「しかし自分たちの中にもっと戦う意志と、互いに支え合う気持ちがあるかと問うなら、答えは絶対にイエスだ」

マイケル・ボチュルキウ氏は世界情勢アナリストで、欧州安全保障協力機構(OSCE)の元広報担当者。現在はウクライナ南部オデーサに拠点を置き、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのシニアフェローを務める。CNNには論説を定期的に寄稿している。記事の内容は同氏個人の見解です。

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