80歳なのに50歳並みの脳機能、「スーパーエイジャー」の脳が衰えない理由は?
スーパーエイジャーの脳はまた、嗅内(きゅうない)皮質の細胞がより大きく、健康的な点も特徴だ。嗅内皮質は記憶と学習に不可欠な領域で、海馬に直接接続する。ちなみに、嗅内皮質というのは、アルツハイマー病で最初に侵される脳領域の一つだ。
別の研究では、スーパーエイジャーの嗅内皮質にある全ての細胞層を調べ、ニューロンの大きさを丹念に測定した。その結果、情報伝達で最も重要な第2層において、スーパーエイジャーは大きく太く、無傷で美しい、巨大な嗅内皮質ニューロンを持っていることが分かった。
これは驚くべき発見だった。スーパーエイジャーの嗅内皮質ニューロンはもっと若い人たち、それこそ30代の若者より大きかったからだ。ここからうかがえるのは、構造的完全性という要素が関わっていること、つまり建築物のように、ニューロン自体の骨格や枠組みがより頑丈だということだ。
私たちは現在、これらのニューロンの調査を強化しているところだ。生化学的特徴を理解して、特別なニューロンたらしめている要因の特定を試みるとともに、スーパーエイジャーの脳内にある別のタイプのニューロンにもこうした特徴が見られないか調べている。アルツハイマー病の患者ではこれと同じニューロンがとりわけ脆弱(ぜいじゃく)なのか、もしそうなら、その仕組みや理由は何なのか、という点が疑問点になる。
CNN:スーパーエイジャーの脳が損傷や病気、ストレスにどう反応するかについて、研究からどのようなことが分かっているのでしょうか?
ゲフェン氏:今はスーパーエイジャーの脳の炎症系を調べている。彼らの脳の免疫細胞が病気にどう反応し、ストレスにどう適応するかを理解することが目標だ。アルツハイマー病でも他の大概の神経変性疾患でも、炎症が一定のしきい値を超えると、細胞が失われる主因になる。
同年代の人の脳と比べ、スーパーエイジャーは白質内の活性化ミクログリア(脳に常在する免疫細胞)が少ない。白質は脳の高速道路で、脳内の一つの部位から別の部位へ情報を運ぶ役割を果たす。
仕組みはこうだ。ミクログリアは脳内に何らかの抗原や病気、通常は何か破壊的なものがあると活性化される。しかし一部のケースでは、ミクログリアなどの免疫細胞が過剰に活性化して暴走し、炎症、場合によっては損傷を引き起こしてしまうことがある。
しかし、スーパーエイジャーの脳では、活性化ミクログリアが少ない。実際、ミクログリアの水準は30代や40代、50代の人と同程度だった。スーパーエイジャーの脳内には不要物や病気が少ないため、ミクログリアが活性化する必要がないのかもしれない。あるいは、ミクログリアが効率的に対応して病気や毒素の除去を行うのかもしれない。スーパーエイジャーの脳は可塑性と適応力が高いことから、ミクログリアがいったん活性化して対応した後、鎮静化することが可能なのだろう。
どれも魅力的な説だ。もしかしたら細胞レベルで見た場合、スーパーエイジャーの脳の免疫系は嗅内皮質で見つかった細胞層と同様に、強靱性や適応力が高いのかもしれない。
CNN:脳を守る適切な遺伝子を持って生まれるかどうかは、運次第のように聞こえます。これは将来に向けてどのような意味を持つのでしょうか?
ゲフェン氏:遺伝は難しい。単にある遺伝子を持っているかどうかだけでなく、内部環境と外部環境がどのように作用して遺伝子の「スイッチを入れる」か、つまり発現に影響を与えるかが重要になる。ある遺伝子は高発現するかもしれないし、別の遺伝子は低発現するかもしれない。これはパズルのエピジェネティック的な部分だ。
候補となる遺伝子のリストはすでにあり、我々は非常に慎重に研究を始めている。これらの遺伝子はいくつか例を挙げるだけでも、長寿や老化、細胞修復、認知予備能といった側面にも関わっている。
アルツハイマー病に単一の解決策が存在しないのは明らかだ。誰もが唯一簡単な解決策を求めていることは分かっているが、単純な話、そんなものは実現しない。
予防や治療のためには、多くのチームや専門家が協力して、ひとりひとりに合わせた一種の「カクテル」をつくる必要がある。可能だとは思うが、時間がかかるだろう。