ヒトゲノムに取り込まれた古代ウイルスのDNA、人間の進化に重要な役割か

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私たちのDNAには古代ウイルスの残骸が取り込まれている/TanyaJoy/iStockphoto/Getty Images

私たちのDNAには古代ウイルスの残骸が取り込まれている/TanyaJoy/iStockphoto/Getty Images

(CNN) ヒトのゲノム(全遺伝情報)は人間の設計図ともいえる23対の染色体から構成される。その染色体に格納されているDNAのうち約8%は古代ウイルスに由来し、人類が進化する過程でゲノムに取り込まれた。

古代ウイルスの断片は、「動くDNA」とも呼ばれる転移因子(TE)のひとつ。TEは、自身をコピーしてゲノム上の別の場所に挿入できる。ヒトゲノムの半分近くを占め、かつては生物学的な機能を持たない「ジャンク(がらくた)DNA」と呼ばれていた。だがこのほど新たな研究によって、古代ウイルスの断片が人間の発達の初期段階に重要な役割を果たし、進化に関与したかもしれないとの仮説が支持された。

国際共同チームの研究者らはTEの配列を解読して、隠れたパターンを発見した。このパターンは、遺伝子のオンとオフを制御する仕組みに大きな重要性を持つ可能性がある。研究結果は先月18日、米科学誌サイエンス・アドバンシスに発表された。

論文の共著者で京都大学准教授の井上詞貴氏は声明で、ヒトゲノムが解読されて久しいものの、まだ機能が分かっていない部分は多いと指摘。TEはゲノムの進化に重要な役割を持つとみられ、その意義は今後の研究でさらに明らかになるだろうと述べた。

TEが遺伝子発現を促す仕組みを研究することで、多くの有益な成果が期待できる。チームを率いた中国科学院・上海免疫感染研究所の研究責任者、チェン・シュン氏によると、DNA配列が人類の進化に果たす役割や、人間がかかる病気との関連性、TEを標的とする遺伝子治療の方法などを研究する手助けになりそうだ。

チェン氏は、研究をさらに進めて「TE、特に古代ウイルス由来の内在性レトロウイルス(ERV)が、どのように人間を人間らしくさせているのかを解明したい」と述べた。

取り込まれた古代ウイルスのDNA

私たち霊長類の祖先がウイルスに感染すると、ウイルスのDNA配列がコピーされ、宿主ゲノムのさまざまな位置に組み込まれた。

本研究にかかわっていない米カリフォルニア大学バークレー校のリン・ホー教授は「古代ウイルスが私たちの祖先のゲノムにうまく入り込み、その残骸はヒトゲノムの大きな部分を占めるようになった。私たちのゲノムはこうしたウイルスを制御し、その悪影響を排除する数多くの仕組みを作り出してきた」と述べた。

こうした古代ウイルスはほとんどが不活性化していて、健康被害の心配はない。だが最近、一部のTEが人間の病気に重要な役割を果たす可能性が示された。24年7月の研究で、ある種のTEを抑制することにより、がん治療の有効性を高められる可能性が検討された。

ホー氏は「進化の過程でウイルスが退化したり消滅したり、発現がほぼ抑制されたりする一方、ヒトゲノムの役に立つよう飼いならされたウイルスもある」「一部が私たちの中に組み込まれ、ゲノム変革の原材料を提供することもあり得る」と話す。

しかし、転移を繰り返すTEを研究し、整理することは極めて困難とされてきた。TE配列は機能や類似性によってグループ分けされるが、これまでの記録や分類が不十分なケースも多い。

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