高齢の脳、リチウムでアルツハイマー病防げる可能性 新研究
ヤンクナー氏と同僚らは異なるリチウム化合物をテストし、オロチン酸リチウムがアミロイドベータに結合しないことを突き止めた。
脳にアルツハイマー病の兆候を示すマウスにオロチン酸リチウムを与えたところ、上記の変化は逆転。脳の記憶中枢を抑え込んでいたアミロイドベータと神経原線維変化は減少した。リチウムを与えられたマウスは、再び迷路を進むことができるようになり、新しい物体の認識が可能になった。一方、プラセボ(偽薬)を与えられたマウスには、記憶と思考の欠如に変化は見られなかった。
リチウムは自然界に存在する金属元素で、食物や水にも含まれる。
リチウムで気分が改善する仕組みは分かっていないが、リチウムをふんだんに含んだ温泉は治癒力があるとして、健康志向の人々が好んで訪れる。
一方で処方されたリチウムを服用することで、甲状腺や腎臓に有害な影響が生じる場合もある。
低用量のオロチン酸リチウムを与えられた上記のマウスに、そうした健康被害の兆候は現れなかった。しかし、マウスと人間は違うとヤンクナー氏は指摘。人間でも同じ結果を再現し、服用に適した用量を見極める必要があるとした。
ヤンクナー氏によると、通常人間の体内に存在するリチウムや今回マウスに与えられたリチウムの量は、双極性障害の治療で処方される量の1000分の1だという。
今回の研究は、アルツハイマー病に対するリチウムの効能を示唆した過去の研究を裏付けるものとなる。2017年に発表されたデンマークでの大規模な研究では、高レベルのリチウムを含む飲料水を摂取する人々は、通常の低レベルのリチウムを含んだ水道水を飲む人々と比較して認知症の診断を受ける確率が低いことが分かった。
22年に発表された英国での大規模研究でも、リチウムを処方された人々は対照群よりもアルツハイマー病の診断を受ける公算が半分に低下するとの結果が出ており、リチウムの持つ予防効果が示唆されていた。