ウーパールーパーが手足を再生させる仕組み、解明へ新たな一歩

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両生類アホロートルは、手足を失っても元通りに再生するという能力を持つが、その仕組みについて、新たな研究結果が報告された/Alyssa Stone/Northeastern University

両生類アホロートルは、手足を失っても元通りに再生するという能力を持つが、その仕組みについて、新たな研究結果が報告された/Alyssa Stone/Northeastern University

(CNN) 顔の両側にひらひらと揺れるえら、微笑みを浮かべたような口元。日本では「ウーパールーパー」の名で親しまれる両生類アホロートル(メキシコサンショウウオ)は、手足を失っても元通りに再生するという能力を持つ。その複雑な仕組みについて、新たな研究結果が報告された。

米ノースイースタン大学の生物学者、ジェームズ・モナハン教授らのチームが、10日付のオープンアクセス(OA)学術誌、ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。

モナハン氏は「アホロートルが損傷した部分の細胞に対し、例えば手だけを再生するか、あるいは腕全体を再生するかを伝える合図は、いったい何だろう。それが長年のなぞだった」と語る。

研究チームによれば、このシグナルはレチノイン酸という物質が出していることが分かった。ニキビなどの治療薬に使われる成分だ。

レチノイン酸は、人間の胎児の発育にも重要な役割を果たす。細胞を頭や手足などに分化させる指示を出すのがこの物質だと、モナハン氏は説明する。ところがなぜか、私たちの細胞の大部分は、胎内にいるうちにその指示を「聞く」という能力を失ってしまう。

人間の手や足全体を再生させるというのは、今も遠いSFの世界の話に聞こえる。だが、レチノイン酸がアホロートルの細胞にシグナルを出す機能を研究することで、人間のけがの治療や遺伝子治療の新たな手法が開発される可能性もあると、モナハン氏は指摘する。

アホロートルの遺伝子を操作して、損傷部分の細胞が活性化すると蛍光グリーンに光るようにした/Timothy Duerr
アホロートルの遺伝子を操作して、損傷部分の細胞が活性化すると蛍光グリーンに光るようにした/Timothy Duerr

アホロートルへのレチノイン酸の作用

アホロートルはもともと発光する動物ではない。研究チームはレチノイン酸のシグナルを観察するため、アホロートルの遺伝子を操作して、損傷部分の細胞が活性化すると蛍光グリーンに光るようにした。

チームはまず、アホロートルに過剰なレチノイン酸を投与して効果を観察した。すると、切断された部位に必要以上の再生が起き、片手の代わりに片腕全体が形成されたという。

同チームのメンバーではないが、同じくサンショウウオが手足を再生する能力の研究に取り組む米マサチューセッツ大学ボストン校の生物学者、キャサリン・マクカスカー准教授はこう指摘する。「(損傷部分に)大量のレチノイン酸を注ぎ込むと、再生に必要な設計図とは無関係と思われるさまざまな遺伝子がすべて活性化してしまう」

モナハン氏らのチームは次に、アホロートルが本来の濃度のレチノイン酸を再生にどう使うのかをよく調べようと、別のアプローチを試みた。

すると、アホロートルの体内でレチノイン酸を分解しているひとつの酵素が見つかった。「CYP26B1」と呼ばれるこの酵素を阻害したところ、過剰投与の時と同じ現象がまた起きた。「驚くべき結果にみんな目を見張った。レチノイン酸の濃度は分解作用によって制御されていることが分かったからだ」と、モナハン氏は語る。

マクカスカー氏の説明によれば、損傷したアホロートルの手の代わりに腕全体が生えてしまわない理由のひとつとして、CYP26B1が再生プロセスの行き過ぎにストップをかけていると考えられる。

モナハン氏によると、アホロートルの再生システムにみられるこうした関係を理解することは、まだパズルの1ピースにすぎない。次の段階では、再生の過程でレチノイン酸が細胞内のどの遺伝子に働きかけているかを見つけ、細胞が参照する「設計図」をさらに詳しく解明する構えだ。

アホロートルから人間が学べること

モナハン氏の話によれば、アホロートルの細胞が損傷すると、「脱分化」という現象が起きる。細胞が「記憶」を失い、分化する前の初期状態に戻る現象だ。細胞はこの状態で再びレチノイン酸のシグナルに耳を傾け、新たな手足の形成に集中する。

一方、人間の細胞はけがをしても脱分化を起こさず、レチノイン酸のシグナルにも反応しない。傷ができたら大量のコラーゲンを生成し、瘢痕(はんこん)、つまり傷跡をつくって終わりだ。

だが、もしも人間の細胞がレチノイン酸の指示を受け、手足を再生できるような方法があったとしたらどうだろう。

「遺伝子治療の分野で、これは非常に興味深い質問だ」と、モナハン氏は語る。「人体で再生を促すために遺伝子を新たに加えたり、取り除いたりする必要がなくなるかもしれない。ちょうどいいタイミングで特定の遺伝子のスイッチを入れたり、切ったりすればいい」と述べ、ゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)」によりDNAを改変して病気を予防、治療する手法を例に挙げた。

マクカスカー氏によると、人間の手足の再生が実現するのは遠い将来になりそうだが、レチノイン酸のシグナルについてより詳しい研究が進めば、けがの治療や瘢痕の予防に応用できるかもしれない。

手足再生の速度をいかに上げるかというのも、同氏の研究テーマのひとつだ。アホロートルの小さな手は2日ほどで生えかわるが、人間の成人ではその過程に何年もかかる可能性があるという。

マクカスカー氏は「この基礎生物学研究を継続することが重要だ」「現在の医学では不可能と思われる非常に斬新な手法が、今まさに見つかりつつある」と強調した。

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