新たな「スーパー耐性菌」、多剤耐性真菌の脅威は既にそこに 克服さらに難しく

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カンジダ・アルビカンスは人間の肝臓に感染する。侵襲性カンジダ症は、カンジダ属の真菌が血流に入り込み、全身に広がることで発症する/CDC

カンジダ・アルビカンスは人間の肝臓に感染する。侵襲性カンジダ症は、カンジダ属の真菌が血流に入り込み、全身に広がることで発症する/CDC

(CNN) ほとんどの治療薬が効かない超多剤耐性(スーパー耐性)を持った新たな病原体が、世界に広がりつつある。感染源は人の体表や体内、土壌、大気中に生息するコクシジオイデス属真菌の胞子だ。

米カリフォルニア州パターソン在住のトレンス・アービン氏は2018年6月、自宅の裏庭でくつろいでいた時に、胞子が肺に入ったと思われる。

それから1年近くたって、専門医がコクシジオイデス属菌による感染症「コクシジオイデス症」との診断を下すまでに、生死の境をさまよう経験をした。

130キロを超えていた体重が68キロまで減った。最初の医師はさじを投げ、手の施しようがないと妻に告げた。「それを聞いた妻の涙を、今も覚えている」という。

一方、同州ベーカーズフィールドのロブ・パーディ氏は12年、庭仕事の最中にコクシジオイデス属菌の胞子を吸い込み、感染が広がって真菌性髄膜(ずいまく)炎を起こした。脳や脊髄(せきずい)を覆う膜が炎症を起こし、死に至ることもある病気だ。

パーディ氏は、真菌感染症に関する啓発や研究推進に取り組むNPO「MYケア」の設立メンバーだ。「感染者の約3%は、真菌が肺から皮膚、骨、関節、ほかの臓器や、時には眼球、歯、小指などに広がる」と説明する。

「そのうち半数は、私のように脳にくる」「私は病気をコントロールするために、これから生涯にわたって頭蓋(ずがい)内注射を続けなければならない。注入されるのは80年前にできた有害な薬剤で、体がゆっくりとむしばまれる」と、同氏は訴えた。

研究者が最初にコクシジオイデス症の症例を発見したのがカリフォルニア州のサンホアキン渓谷だったことから、この病気は「渓谷熱」とも呼ばれている。

パーディ氏は「妻のウェンディはこれが一緒に過ごす最後のバレンタインデーになると思っていた。ひどく動揺していた彼女だが、私のために満面の笑みを浮かべてくれた」と振り返る/Esther Ketcherside
パーディ氏は「妻のウェンディはこれが一緒に過ごす最後のバレンタインデーになると思っていた。ひどく動揺していた彼女だが、私のために満面の笑みを浮かべてくれた」と振り返る/Esther Ketcherside

芸術が現実を模倣するのか、その逆か

米HBOの連続ドラマ「ラスト・オブ・アス」には、ノムシタケ属の菌が突然変異した架空の病原体が登場する。菌に寄生された宿主が別の人にかみつくと、その相手に感染するという設定だ。

ドラマの中では、寄生菌が素早く脳に侵入し、患者は狂暴化した怪物に変身してしまう。実際のノムシタケ属菌が感染するのはアリなどの昆虫だけで、あとの話はフィクションだ。

だが、現実の脅威にSFのゾンビは必要ない。患者の体をまひさせ、命を奪う真菌が、世界にみるみる広がっているのだ。最近の統計によると、真菌が体内の血液や臓器に侵入した「侵襲性真菌感染症」は年間約650万件、死亡例は約380万件に上り、その一部は治療がより難しくなっている。

既存の抗真菌薬剤すべてに耐性を持つ株が現れていることを受け、世界保健機関(WHO)は4月、19種類の真菌について新薬開発の優先度を「緊急」「高度」「中度」のカテゴリーに分けたリストを発表した。

アービン氏とパーディ氏が感染したコクシジオイデス属菌も、このリストに記載されている。

米疾病対策センター(CDC)によると、スーパー耐性を持った細菌では、死亡例が470万件と、真菌の380万件を上回っている。だが細菌感染を治療する抗菌薬は何百種類もあるのに対し、現在使われている抗真菌薬は17種類ほど。人体に害を及ぼさずに真菌を退治することは難しいというのが、理由のひとつだ。

HBOの「ラスト・オブ・アス」の1シーン。真菌に覆われた被害者が獲物を探す様子
/Liane Hentscher/HBO
HBOの「ラスト・オブ・アス」の1シーン。真菌に覆われた被害者が獲物を探す様子 /Liane Hentscher/HBO

米ピッツバーグ大学のニール・クランシー准教授によれば、遺伝子学的に見ると、真菌は細菌よりも人間に近い。

「抗真菌薬を作ろうとしたら、人間の遺伝子やたんぱく質を傷つけない標的を考えなければならない」と、クランシー氏は説明する。「現時点で最も効果的な抗真菌薬は腎臓の細胞と交差反応を起こすため、最終的に腎不全を起こす恐れがある」

ほかの抗真菌薬も性機能障害、膵(すい)炎、肝障害、重度のアレルギー反応といった副作用の可能性がある。

専門家によれば、一般に健康な人が真菌に感染しても、早期に発見されれば既存の抗真菌薬で治療できる。CDCによると、侵襲性真菌感染症のリスクが最も大きいのは、抗がん剤治療や人工透析、エイズウイルス(HIV)感染、免疫抑制剤の投与、臓器移植や幹細胞移植で免疫機能が低下している人々だ。

しかしアービン氏もパーディ氏もコクシジオイデス症にかかった時、免疫不全の状態ではなかった。

「免疫不全でなくても、感染にうまく抵抗できない患者が一部にいる」と指摘するのは、アービン氏を渓谷熱と診断した専門医、カリフォルニア大学デービス校医学部のジョージ・トンプソン教授だ。

「このグループの免疫機能はどこが違うのか。それが分かれば、免疫機能を強化して真菌対策に役立てることができるだろう」と話す。

パーディーさん一家は、真菌耐性に関する研究や患者啓発への資金援助を呼び掛けている/Esther Ketcherside
パーディーさん一家は、真菌耐性に関する研究や患者啓発への資金援助を呼び掛けている/Esther Ketcherside

最も危険な耐性真菌は

WHOのリストで新薬開発が「緊急」に必要とされた四つの真菌のうち、筆頭に挙がったのは、髄膜炎を引き起こすクリプトコックス・ネオフォルマンスだ。致死率は最大61%に上り、HIV感染者で特に高い。

リストの2番目は、アスペルギルス・フミガーツス。肺損傷を起こすカビの一種で、体内のほかの部分に広がることもある。

「アスペルギルスは土壌や落ち葉、園芸用のわらなど、あらゆる所に存在する」と、トンプソン氏は言う。「接触を避けることは大変難しいうえ、関連死亡率は一部の集団で約40%に上る。新薬がぜひとも必要だ」

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