新たな「スーパー耐性菌」、多剤耐性真菌の脅威は既にそこに 克服さらに難しく

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トレンス・アービン氏(左から3人目)は体重が激減し、病院に見舞いに来た家族や友人にはほとんど別人のように見えた/Rhonda Smith-Irvin

トレンス・アービン氏(左から3人目)は体重が激減し、病院に見舞いに来た家族や友人にはほとんど別人のように見えた/Rhonda Smith-Irvin

3番目に挙がったカンジダ・アウリスは、いくつかの点で特徴的だ。まず、13年に米国で初の感染例が報告された時点で、すでに4系統すべての抗真菌薬に耐性を持っていた。

クランシー氏によれば、「カンジダ・アウリスはもともと抗真菌薬耐性を持って現れた。耐性を獲得するための変異は必要なかった」というわけだ。

米コロンビア大学のジャティン・ビアス教授によると、ほかのカンジダ菌と違って、プラスチック表面や皮膚に付着して生存し続けるのも特徴だ。

そのため、人の集まる病院や介護施設、透析施設などで見つかった場合の消毒が非常に難しい。

CDCによると、16年に報告された臨床例は4州で計51件だったが、わずか7年後の23年には36州で計4514件に上った。多剤耐性を持つ臨床例は、21年だけで前年比95%増となった。

「緊急」カテゴリーの4番目は、同じカンジダ菌のカンジダ・アルビカンス。皮膚表面や口腔、膣(ちつ)、腸管内に少量ながら常在する。

健康な人の体内では免疫力の向上にも寄与しているが、抗生物質や免疫抑制剤でそのバランスが崩れると感染症を起こし、抗真菌剤に耐性を持つ侵襲性カンジダ症を発症することもある。

「感染が血液中に広がった場合、たとえ早期に診断、治療しても致死率は40~60%に上る」と、ビアス氏は指摘した。

「高熱だけで死亡の恐れも」

アービン氏が息苦しさを感じ始めたのは18年6月。ただの風邪だと思ったので病院には行かなかった。だが症状はしつこく続き、8月には激しい嘔吐(おうと)が始まった。

妻のロンダさんは、夫の容体が急激に悪化する様子にショックを受けた。

「2日間で2回病院に行ったことがあり、この間に14キロも体重が減った。信じられなかった」「(11月下旬の)感謝祭も病院だった。夫の嘔吐は毎日、1日中続いていた」と話す。

数日間の入院が数週間に延びた。当初の診断は肺炎だったが、なぜか抗生物質が効かず、医師らは首をひねっていたという。トレンス氏に糖尿病があったことも回復の妨げとなった。ロンダさんによれば、体温が危険なレベルまで上がり、「高熱だけで命を落とすこともあり得る」と言われた。

アービン氏によると、容体はさらに悪化し、人工呼吸器をつけられた。「呼吸するのに肺の20%しか使えていない状態」で、輸血も3回受けた記憶がある。

コクシジオイデス症は過去数十年の間、アリゾナ、カリフォルニア、ネバダ、ニューメキシコ、テキサス各州の乾燥した砂漠や渓谷で、主に農業など屋外での作業に従事する人々の感染が報告されていた。だがCDCのデータによると、現在は東部のペンシルベニア、メリーランドを含む20あまりの州で見つかっている。

パーディ氏は「ほこりっぽい屋外で働く人の病気というのが一般的な見方だ。私の仕事は屋内だった」と話す。

アービン氏もデパートの店長として、屋内の仕事をしていた。

気候危機で山火事や砂嵐が増えたことが感染拡大の一因とする説もある。コクシジオイデス症の広がりを予測するモデルによると、症例数は2100年までに1.5倍となる見通しだ。

トンプソン氏は「風に運ばれた胞子を運悪く吸い込む可能性はだれにでもある」と話す。「カリフォルニア州中部では、車で幹線道路を走っているだけで感染する」

アービン氏は19年3月、同州サクラメントにあるトンプソン氏の病院を探し当てた。そのころには短距離の移動にも歩行器が必要になっていた。トンプソン氏は、アービン氏に治験薬「オロロフィム」を投与した。

トンプソン氏は、もしもアービン氏に専門医を見つける手段がなく、最新の治療に切り替えていなかったら、同氏は恐らく死亡していただろうと指摘した。

オロロフィムは毎日服用する経口薬。アービン氏の治療は3年あまり続いたが、副作用は全く出なかった。治験参加者のうち何人かは肝障害を起こしたものの、投薬をいったん中止し、少量から再開して徐々に量を増やすことで対応できた。

アービン氏はすでにオロロフィムの服用を終了し、定期的な検査でも再発の兆候は出ていないが、今後の見通しは定かでない。

「トンプソン医師からは、私の場合重症だったので、今後もずっとコクシジオイデスが何らかの形で体内に残ると言われた。それでも歩行器から杖に移れたのは大きな進歩。ありがたいことだ」「病気のせいで今も無職のままだが、ジムでの運動を再開し、体重もかなり戻った」と話す。

とはいえ、肺の損傷が激しかったため組織に跡が残り、完全な回復を妨げている。

アービン氏と妻が写真撮影に臨む様子。致死性の真菌によって肺を冒される前のことだ/Ray Sheard Jr.
アービン氏と妻が写真撮影に臨む様子。致死性の真菌によって肺を冒される前のことだ/Ray Sheard Jr.

「今でも息切れを感じると、病院でみてもらったほうがいいだろうかとあわててしまう」「最初に体調を崩した時にもっと素早く対応していれば、肺にくる前に発見できたかもしれない」

アービン氏は、そのメッセージを世界に発信したいと話す。とりわけ、同氏自身がそうだったように、自分は無敵だと思い込んでいる男性たちに伝えたいのが、「不調がある時は体の声に耳を傾けなければ」というメッセージだ。「注意を払うこと、自分の体に気をつけることが必要。健康は大きな財産だ」と、力を込めた。

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