ウクライナ・ドリーナ(CNN) ロシアのプーチン大統領の強権統治への反発やキリスト教徒としての大義の順守などの動機に駆られてウクライナで母国の兵士と戦うことを選んだロシア人たちがいる。
身元を隠すため「シーザー」のコールサインを名乗るロシア人によると、ウクライナ軍に転じ戦闘に加わったロシア人は数百人で、数千人規模には達していないと明かした。具体的に約200人としたが、CNNはこの数字を確認できていない。
シーザーは今月初旬、攻防の焦点となっていた東部ドネツク州バフムートの防衛戦に加わっていた。「侵攻が始まった初日から自らの心、真のロシア人や真のキリスト教徒としての心の声に従いウクライナ国民を守るために赴かなければならないと決めていた」と述べた。
ロシアのプーチン大統領は今年9月、戦局の好転を狙いバフムート掌握のため全戦力を投入したとしながらも、「我々は強烈な抵抗を示した」と誇った。ウクライナ軍の兵力の大半が泥まみれの塹壕(ざんごう)にひそみ、激戦を制したと振り返った。
ウクライナ軍に志願したのは今夏だった。その気持ちを固めるまでには数カ月かかったとも認めた。家族などはウクライナ内の安全な場所へ移していた。
ロシア軍の兵士は本当のロシア人ではないとも言い切った。「同胞の人々を殺したことは認める」としながらも、「彼らは犯罪人になった。強奪、殺害や破壊のために異国の地に来た。民間人、子どもや女性を殺した」と続け、「この状況に立ち向かわなければいけなかった」との思いを吐露した。
ウクライナの戦場では少なくとも15回、ロシア兵へ銃弾を浴びせた。これら殺害行為に悔いはないともし、正義の戦いをしており、軍務やキリスト教徒としての務めを果たしているとの自負を見せた。「ウクライナが自由になれば自らの剣を今度はロシアの専制政治からの解放に使うだろう」との決意も述べた。
侵攻に反発しウクライナ軍に合流したロシア人の動機は様々だが、占領からの解放後に明るみに出たウクライナ住民の虐殺の目撃がきっかけとなった人物もいた。
コールサイン「サイレント」と名乗るロシア人は2月初め、親族を訪れるためウクライナに来た。滞在を続けていた際に、ミサイルが襲来し砲撃音が鳴り響く戦争が始まった。ロシア軍が一時占領した首都キーウ近郊のブチャやイルピンなどでは民間人らへの虐殺行為が始まっていた。
ロシア軍のキーウ近郊からの退却を受け、地元住民を助けるため虐殺が起きた現地に行き、遺体や民間人処刑など残虐行為の傷跡を目にした。この直後、最後までウクライナにとどまり、軍に入隊することを決めた。
ロシアは戦争犯罪や民間人への攻撃を否定したが、ウクライナ内の多くの場所で広範な証拠が収集された。
ロシアにいる親友は最近、部分的な動員令で強制的に徴集された。2人はウクライナの戦場で敵味方にわかれて対峙(たいじ)する恐ろしい事態もあり得ることを話し合ったことがあるという。
親友もロシアを離れて、ウクライナで共にロシア軍と戦うことを望んでいた。出国の手助けも試みていたが、動員令でかなわなくなっていた。
サイレントの家族は、多くのロシア人やウクライナ人と同様、両国に出自を持つ。妻と子ども2人はウクライナで共に住んでいるが、ほかの親族はロシアで暮らしている。
これら親族はプーチン大統領の歪曲(わいきょく)した政治宣伝にさらされながらも、実際にはロシアがウクライナに侵略した事実を理解しているとした。
ウクライナ軍側に加わったことには怒らず、「無事でいて」との言葉もかけてもらったという。「彼らは一度決めたら最後まで守る私の性格を知っている」と述べた。
身元がばれるのを恐れて大型帽子で顔を隠して取材に応じたロシア人もいた。ロシアに残した妻子に迫害が及ぶのを避けるためだった。「顔を見せたら、家族が心配になる。彼らを守ってくれる人間がいないためだ」と話した。
ウクライナ側に立って戦うロシア人が戦場などで捕まれば、ウクライナ軍兵士より過酷な結末を迎える恐れもある。先月にはロシアの傭兵(ようへい)組織「ワグネル」を捨て、ウクライナ側に脱走した兵士がロシアへ帰国後、ハンマーで惨殺される事件があった。
ワグネルの創設者は自らの戦闘員が殺したことを直接は認めなかったが、この処刑を称賛。国民などを裏切った罰とも切り捨てていた。
ウクライナ軍に志願し戦うロシア人たち、CNN記者に思い語る