(CNN) エネルギーの大半を輸入に頼る日本だが、世界のエネルギー産業の形を変えうる新技術の開発を世界に先駆けて進めている。しかも、この技術で使われる資源は日本の領海の海底に大量に眠っている。
「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレートは、水とメタンが結合し、結晶化した物質で、米エネルギー情報部(EIA)によると、世界全体の埋蔵量は少なくとも2800兆立方メートルに上るという。
メタンハイドレートは、北極の永久凍土の中や深い海底など、高圧かつ低温の環境にのみ存在し、世界の他のすべての化石燃料を合わせたよりも多くのエネルギーを含有していると考えられている。しかし、これまでメタンハイドレートからのメタンガスの商業的生産に成功した者はいない。
日本はメタンガスの商業的産出に取り組んでおり、経済産業省によると、日本政府は2002年から2017年までの16年間に、研究開発費として総額約10億ドルを支出したという。
日本政府がこの技術の実現を目指す理由は2つある、と明治大学ガスハイドレート研究所代表の松本良氏は指摘する。
1つはエネルギー資源の確保だ。国内資源を利用できればエネルギー安全保障の向上につながる。もう1つは化石燃料からの二酸化炭素排出量の削減だ。天然ガスを燃焼させた時の二酸化炭素排出量は、石炭を燃焼させた時のおよそ半分だ。
「燃える氷」
この「燃える氷」は、一見普通の氷と大差ないが、多量の天然メタンガスを含んでおり、1立方メートル当たりのメタン含有量は164立方メートルに及ぶ。
この氷に火の付いたマッチ棒を近づけると、メタンガスが発火し、氷は溶ける代わりに燃える。問題はメタンハイドレートからのメタンガスの取り出しが困難な点だ。
その前にまずメタンハイドレートを発見する必要があるが、松本氏によると、日本は西太平洋および日本海東縁部の排他的経済水域に豊富に存在することが確認されているという。
特に日本の技術者たちが注目しているのが南海トラフだ。南海トラフは中部沖50キロに位置する細く、長い溝で、採掘されたサンプルや地震のデータを分析した結果、このトラフの下には日本のガス需要の10年分に相当する1.1兆立方メートルのメタンが眠っていることが分かった。
世界初のガス産出
日本政府出資の研究グループ、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)は、2013年に世界初のメタンガス産出試験を実施した。
MH21のフィールド開発技術グループリーダー、山本晃司氏のチームは、世界で初めて海洋におけるガスハイドレートからの天然ガスの産出に成功したが、パイプ内に砂が混入したため開始からわずか数日で停止を余儀なくされた。
そして2017年、山本氏のチームは2回目の海洋産出試験を実施した。
同チームはまず井戸を2つ作り、さらに砂の混入を防ぐためパイプを特殊なポリマーで覆った。2つの井戸のうち1つは今回も砂の混入で閉鎖されたが、もう1つの井戸ではガスが流れ続けた。
MH21によると、この2回目の産出試験で計23万5000立方メートルのガス産出に成功したが、山本氏は砂問題の確実な解決策はまだ見いだせていないとしている。
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次回「『燃える氷』は新時代のエネルギーとなるか<下> 中国との競争」は1月3日公開