地球最古の岩を特定?、地球史の未知の章が明らかになる可能性も カナダ
(CNN) カナダのケベック州北部、ハドソン湾の東岸にある人里離れた岩の露頭(ろとう)には、不思議な静けさが漂っている。
この岩は、「ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯」と呼ばれる古代の海底の一部であり、過去20年にわたり、地球最古の岩石をめぐる科学的論争の舞台となってきた。
新たな研究では、このヌブアギトゥク・グリーンストーン帯に、現存する地球の地殻の中で最古とされる破片が含まれていることが示唆されている。破片の年代は約41億6000万年前に遡(さかのぼ)るという。先月の学術誌「サイエンス」に発表された。
この破片は、地球が誕生した約46億年前に始まる四つの地質時代のうち、最初の「冥王代(めいおうだい)」に属する岩石だと特定された。
この研究の著者である地質学者のジョナサン・オニール氏は、今回の岩石を、地質学者にとって冥王代について知ることができる重要なものと位置づけた。
ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯を巡っては、異なる研究グループが数回にわたって年代特定を試み、大きく異なる結果が出ていた。大半の論者は少なくとも37億5000年前の岩だという見方で一致しているものの、それでは地球最古の岩にならない。

ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯の岩石のクローズアップ写真/Jonathan O’Neil
地球最古の地質構造としてより広く認められているのが、カナダ北西部イエローナイフの北約300キロの川岸に沿って露出する岩石群「アカスタ片麻岩体」だ。これらの岩の年代は40億3000年前と明確に特定されており、冥王代と地球史の次の章「始生代」との境界を示すものとなっている。
以前オニール氏が共同執筆して物議を醸した2008年の論文は、ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯の年代を43億年前とする主張を展開した。しかし、他の地質学者からは、年代測定技術の限界とデータの解釈方法を問題視する声が噴出。現在オタワ大学地球環境科学科の准教授を務めるオニール氏は今回の最新論文で、批判者たちの誤りを証明しようとしている。
岩石の年代測定法
岩石の年代測定には、放射性元素が自然に崩壊していく性質を利用する「放射年代測定法」が用いられる。岩石の中に含まれる元素が一種の「時計」の役割を果たす。
オニール氏はこの原理を「砂時計」にたとえて説明する。「上部の砂粒」を「放射性元素」、「下部の砂粒」を「崩壊によって生じた元素」と考える。粒子の流れる速度(崩壊速度を表す)を知ることで、科学者は岩石の年代を特定することができるという。
こうした放射年代測定法には、地殻が長い年月のあいだに受けた高温高圧などの影響を受けにくいものもあれば、そうした変化で測定結果が乱れやすいものもある。
その中で最も信頼性が高く簡便とされるのが、「ジルコン」と呼ばれる非常に頑丈な鉱物を使う方法だ。ジルコンの微小な結晶には微量のウランが含まれており、既知の速度で鉛に変化するウラン原子の放射性崩壊を測定することで、岩石の正確な年代を算出できる。
しかし、ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯には、ジルコンを含む岩石がほとんど存在しない。かつて海洋地殻だった場所など、ケイ素含有量の低いサンプルには、ジルコンがめったに含まれていないためだ。
そこで今回の研究では、オニール氏はレアアース(希土類)の一種「サマリウム」に注目した。サマリウムは崩壊して「ネオジム」へと変化する。
この手法は、これまで隕石(いんせき)の年代測定に用いられてきた。というのも、こうした元素が活発な状態だったのは40億年以上前の時期のみだからだ。
今回の論文では、ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯の内部から採取された、地熱や圧力によって変質した「変はんれい岩体」と呼ばれる古代の岩石に分析の焦点が絞られた。
研究チームはこの岩石を対象に2種類の年代測定を行い、いずれの方法でもほぼ同じ値の「約41億6000万年前」という結果が得られたとしている。
論文ではこの年代を踏まえ、ヌブアギトゥク・グリーンストーン帯には、冥王代の地殻の「少なくとも一部」が残されていると結論づけた。地球の起源や生命の誕生を理解するうえで極めて貴重な手がかりとなるとみられる。