秘密の国の中心へ――CNNが旅した北朝鮮<6> 聖なる山

2017.10.25 Wed posted at 20:00 JST

(CNN) CNN取材班は、高麗航空で、平壌の北約640キロに位置する三池淵郡に飛んだ。中国との国境のすぐ近くだ。

機体はロシア製のアントノフAN24ですでに50年近く飛行し続けている。しかし、レトロなキャビンはいまだに新品同様だ。乗務員は魅力的な若い女性たちで、たいていは18歳から25歳まで働き、その後、大学へ行ったり、結婚したりする。

三池淵郡は、北朝鮮が7月に2度目の大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を発射した場所から、そう遠くはない。

しかし、CNN取材班が訪れた理由はミサイルのためではない。

白頭山のために来たのだった。白頭山は活火山で、朝鮮半島で最も高い山だ。白頭山は北朝鮮の人々にとって聖地だ。韓国の人々にとっても聖地だが、朝鮮半島での緊張の高まりを受けて最近は韓国の人々が訪れることはできない。

北朝鮮の社会は民族的な純粋さを重視し、国によるプロパガンダは金一族の「白頭山の血統」を賛美する。朝鮮半島における古代の伝説の王様たちとの間に高貴で英雄的な血統のつながりがあるといわれている。

CNN取材班は何時間も未舗装の道路を走り、北朝鮮の田園地方を進んだ。北朝鮮郊外のこれほど奥深くまで入ったことはなかった。舗装された道路もインフラも、驚くほど欠けていた。

大型トラックと建設現場が少なくとも何かの開発が行われていることを示唆していた。お目付け役からは写真を撮ることも車を止めることも許可されなかった。取材班はただ、歩いている集団を、ちらりと目にするだけだった。

何とか行政の中心都市にたどり着く。この活気のない街の中心部にも、金日成主席の記念碑は存在した。CNN取材班が見せられたのは、銃弾の跡の残る建物で、ここで、金日成氏は旧日本軍に対する奇襲を指揮したのだという。

さらに下り、風にあおられ、道を進む。そして、北朝鮮の人々が聖地を考える場所にたどり着いた。金正日総書記が生まれたとされる山小屋だ。ガイドが、金正日氏の神秘的な誕生を伝えるとされる物語を聞かせてくれた。

金正日総書記の生誕の地とされる場所で写真のためにポーズをとる北朝鮮の人々

「とても寒く、天候も普通ではなかった。しかし、どういうわけか、その日、強風が突然やみ、太陽が輝き始めた。全てが輝き、そして、静寂が支配した。花は咲き、空には光り輝く星が」

「それは、伝説か、あるいは、実際に起きたことなのか」と尋ねた。

ガイドは、実際に起こったことだと主張した。

「これは伝説ではない。総書記は本当に天が我々に送ってくれた人物だ。だから、天候を変えることもできた。これは、真実の物語だ」

外部の歴史家によれば、金正日氏は実際にはロシアで生まれたという。ガイドには、国外の人々は、その物語は本当なのだろうかと疑問に思うだろうと伝えた。

ガイドは、金正日氏はとても偉大で、自分の誕生を世界に伝えるために天候を変えたのだと語った。

金日成主席が奇襲の指揮をとったとされる建物。銃弾の痕が残されている

北朝鮮の人々にとって、これは信仰なのだろう。聖書やコーランやトーラーと同じように。白頭山を訪れるとき、彼らは巡礼の旅をする。

CNN取材班は山頂へと歩を進めた。山頂近く、この場所と金一族とをつなぐ、もう一つのシンボルを目にした。金正日氏の署名が山肌に刻まれていた。

強い風に吹き飛ばされそうになりながら、山頂へ向かった。しかし、山頂付近まで来ると、風が完全にやんだ。空気は清廉で、風はなく、人生でも最も息をのむ風景の一つを目にした。透き通った青い水をたたえたカルデラは、鋭く雪に煙った山々に囲まれている。

この国の人々にとって、この場所がこれほど深い感情的な共鳴を引き起こすのか分かったような気がした。

この山は、北朝鮮の人々の人生を象徴している。大きく険しい山と格闘し、美しい未来を期待する。

美しい未来――北朝鮮の人々が指導者たちに不滅の忠誠を誓い続けるならば。

連載終わり

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