「司令官を捕らえ、他は全員殺せ」
ウクライナが傍受した無線通信には、ロシア司令官が前線部隊と会話している様子が記録されている。音声には「アルタ」「ベリイ」というコールサインで呼ばれる2人のロシア人が登場する。
ウクライナ情報当局者は無線通信の記録を公開。ウクライナ軍の陣地が急襲された現地時間午後0時5分に傍受したことを明らかにした。急襲作戦は、ウクライナのドローンの飛来を懸念したロシア軍司令官が撤退を命じる午後0時31分まで続いた。
ロシア軍司令官が殺害を命じる様子は6回にわたって記録されている。司令官の最初の命令は午後0時22分。「司令官は誰かを聞け。司令官は誰か? 聞け。司令官を捕虜にして、他は全員殺せ」
4分後、司令官は同じ命令を2度繰り返す。「やれ。司令官を捕虜にして、他の奴らは消せ」「そうだ。上官を連れて行け、他の奴らはぶっ殺せ」
司令官は部隊へ頻繁に状況報告を求めるが、部隊は返答に苦慮している。「誰か答えろ、奴らは降伏するのか、しないのか?」
主な通信相手とみられる「アルタ」が、ウクライナ軍の司令官は見つかっておらず、「上官」しか見つかっていないと答えている。
CNNが入手したドローン映像は、タイムコードによると午後0時27分から午後0時30分までしか捉えていないが、通信傍受が捉えた命令とドローン映像に映る地上での様子には明確な関連性があるようだ。
午後0時28分、無線で6度目の命令が発せられると、覆面をしてロシア軍の制服を身に着けた兵士が茂みから現れ、捕虜のほうに向かっていくのが見える。
司令官は「連れ出せ!上官を連れて行け、他の奴らは始末しろ」と繰り返した。
粗い映像だが、ウクライナ兵がロシア兵に身振りで何かを伝えているのが分かる。その直後、覆面をしたロシア兵がウクライナ兵の頭部を銃撃する。ロシア軍司令官が「奴らを始末したか? 質問だ。始末したか? 質問だ」と尋ねる。
「ベリイ」が「他の奴らは皆殺しにした」と答えた。
それまで動かなかった、司令官と思われる別のウクライナ兵が立ち上がって防弾チョッキを脱ぎ、連行される様子が映像に映っている。爆発による煙の上空にドローンが現われたことをロシア軍司令官が無線で伝える。そして撤退命令が下された。
この映像は、CNNと非営利団体「情報レジリエンスセンター」が検証したザポリージャ州ノボダリウカ村の衛星画像と一致している。
モンタナ州立大学の電気・コンピューター工学教授ロバート・マーハー氏は、無線通信を検査し、CNNに数十の別々のファイルとして送られてきた通信音声はすべて一貫性があるとの見方を示す。「本物ではないという兆候はみられなかった」という。
ウクライナ当局と国際的な専門家は、降伏したウクライナ兵の殺害について、ロシアが画策した手段の一部だと主張する。この事案は、傍受された無線通信を、処刑とみられるドローン映像と初めて関連付けた事例の一つとみられる。
CNNはこの疑惑の手法について昨年9月に初めて報じ、8月にウクライナ東部ドネツク州ポクロウシク近郊でロシア軍が降伏したウクライナ人3人を処刑したとみられる映像を詳しく伝えた。
こうした処刑は、敵対勢力に対するロシアの文化的憎悪に起因しているとウクライナ当局は主張しているが、同時に心理的な影響を与えることも意図している。ウクライナの捕虜待遇調整本部のオクリメンコ事務局長によれば、ロシア兵は士気を低下させるためにウクライナ兵の処刑の動画を投稿したという。
オクリメンコ氏は「暴力が暴力を生む」と指摘。ウクライナは要員の訓練を強化し、将来の交換に備えロシア人捕虜を安全に収容していると語った。