「司令官を捕らえ、他の兵士は殺せ」ロシア軍の無線傍受
キーウ(CNN) 無線機の音はひび割れていたが、聞こえてくる命令は明確だった。「司令官を捕らえ、他の兵士は殺せ」
ぞっとするこのやり取りは、ロシア軍の間で交わされた無線通信の一部だ。ウクライナ当局は、ロシア軍の上層部が国際法に違反し、降伏したウクライナ兵の処刑を兵士らに命じていることを示すさらなる証拠だと主張する。
ウクライナが傍受した無線通信は、昨年11月にウクライナ東部ザポリージャ州でロシア軍が行ったとされる処刑のドローン(無人機)映像と時間的に一致しているようだ。CNNはこの通信記録をウクライナの情報当局者から入手した。映像には、兵士6人が地面にうつ伏せに横たわり、少なくとも2人が至近距離から銃撃され、もう1人が連行される様子が映っている。

地面にうつぶせに横たわる6人の兵士
これらの死はウクライナ検察によって捜査されている。捜査に詳しいウクライナ当局者は、CNNが入手したのと同じ無線傍受記録が、殺害に関する捜査の一環として調べられていると述べた。
国連の有力な調査官と西側の情報当局者は、無線通信とドローン映像について、ロシア軍が降伏したウクライナ兵を処刑したとされる他の事例と一貫性があると指摘する。
国連の超法規的・即決・恣意的処刑に関する特別報告者であるモリス・ティドボールビンツ氏は、こうした事案を国際法の「重大な違反」と呼び、このような行為はロシアの最高権力者によってのみ承認され得ると考えていると語る。
同氏は、ロシアでは、大統領府を意味する最高位の軍司令官からの命令もしくは同意がなければ、これほどの人数と頻度でこのような行為は行われないとの見方を示した。
ロシア国防省は、疑惑に関するCNNのコメント要請に応じていない。
ロシア当局はこれまで軍の戦争犯罪への関与を否定しており、国際法に従って捕虜を扱っていると主張してきた。
捕虜の処刑疑惑をはじめ、ロシア軍がウクライナにおける戦争犯罪に関与しているとする広範な非難は、トランプ米大統領による戦争の早期終結に向けた取り組みを複雑化させる恐れがある。戦争終結を目指すトランプ氏のアプローチは一貫性に欠け、ロシアのプーチン大統領に同調することも多いうえ、米政権はロシアによる戦争犯罪疑惑を追跡するための国務省の取り組みを一時的に中断した。
西側の情報当局者はCNNに対し、音声傍受記録を精査した結果、「本物で信ぴょう性があり、これまで記録されている残虐な処刑記録と一貫性がある」と述べた。「兵士が降伏したウクライナ兵を処刑するよう命じられていることは明らかだ」
ウクライナ検事総長室は、今月5日時点で、268人のウクライナ人捕虜の処刑疑惑について75件の刑事捜査を開始したと発表した。戦争捕虜の処刑疑惑は増加傾向にあり、2022年には8件で57人、23年には8件11人、24年には39件149人、そして今年はこれまでに20件で51人が処刑されたという。
検事総長室の戦争犯罪部局は、この増加について「ロシアの政治・軍事両面の最高指導者からの指示によるものだ」と指摘。「書面による命令はまだ確認していないが、口頭で命令した事例は複数ある」
同局はプーチン氏が3月に、ロシア西部クルスク州で捕虜となったウクライナ兵はテロリストとして扱うべきだと発言していたことにも触れ、「プーチン氏がテロリストと呼ぶ人々をどう扱うかは誰もが知っている。処刑はほぼ同義語だ」と述べた。
ウクライナの捕虜待遇調整本部は、殺害のもう一つの理由として、ロシア軍が捕虜の捕獲と管理に伴う兵たん上の問題を回避した可能性を挙げる。「ロシア軍の立場からすれば、兵たんが複雑になる。ロシア軍司令部は、射殺するという単純な決断を下したのだ」